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【六十三話】ミシェールのルーツ
しおりを挟む「セイ、仕上げに見本を見せてよ?」
「見本」
怪訝な顔をこちらに向けるセイ。
もう充分過ぎる程、理解はしたのだが、実際に展開しているのを見たいというか?
贅沢かしら?
ダメかしら?
「じゃあ、お前のルーツと価値観の一部を暴露してやろーか?」
こわっ。
聞くのが怖い。
でも、聞きたい。
私以上に私を知っていたらどうしよう?
「ミシェール・カールトン公爵令嬢。十六年前、母親の実家であるエアリー男爵家に生まれる。父は不詳。母の実父であるエアリー男爵現役の元、商会経営と領地統治の両方を身近に見ながら育つ。祖父譲りのリアリスト。幼少期に非常に恵まれた環境で育った為、幼少期の価値観に肯定的な見解を持つ。母よりは祖父を尊敬し、考え方のルーツは祖父、叔父、叔母、乳母の順で受けている」
「…………」
「実は商会経営に興味を持つ。個人的な価値観では貴族ではなく大商人に嫁ぐのも有り派。恋愛への開花は遅く、第二王子様からプロポーズをされなければ、未だに蕾み以下。恋愛に無頓着な理由は、学園を卒業したら祖父の下で商会の手伝いをし、祖父の技術や価値観の全てを学びたかったから。一から自分で学ぶより、成功者にしっかり享受して貰った方が楽と考える要領の良いタイプ」
「…………」
「叔父との関係も良好で、お願いすれば商会の幹部くらいにはして貰えそう。と思っていた所、落馬。呆然自失、初めて自分の価値観が揺らぐ。落馬以降、本に大変な興味を持つ。本と商売についても、実は頭の片隅にあるが、王子妃になった場合自分が動けなくなるので、それこそ信用の出来る右腕が必要だ。弟はどうだろ?」
「…………」
「いやいや、そんな事より、暗殺事件を解決しなければ、そっちに全力を注がなければ。ところでこのフルーツは干せばいくらになるのかしら?」
「…………」
「そんな感じだろ」
ヤバイ。
バレバレ。
頭ん中が透けて見えてるんですね。
潜在的な部分までがっつり来るわ。
私が意識していない私の看破。
六十パーセント越え。
ちょっと、なんか、言葉が見つからない。
私は目の前に座る、同じ歳くらいの青年を見る。
私は彼の身分を知らない。
親を知らない。
ルーツを一つも知らないのだ。
だから、彼の考えている事が分からない。
一つくらい教えてよ?
私は、この鋭すぎる青年に笑いかけた。
見本を示してくれて、ありがとう。
私は、私の思考力でシンデレラの意中の人を探って見るわね。
家族だもの。
セイより私の方が、本当はシンデレラに詳しい筈なんだ。
本気で思考を展開させれば、影に分からない事も、拾えるかも知れない。
そうしたらあなたに伝えるわね。
その為に、見本を見せてくれたのでしょう?
期待されるものがあるなら、答えてみたい。
そもそもが自分の為だ。
私の命の為なんだ。
意外に、協力してくれる人っているのね。
それが、今は嬉しい。
味方をしてくれる人を、大切にしたい。
その一人は、確実に目の前の影だ。
私はセイの器にそっとフルーツ水を注ぐ。
沢山飲んでよね。
私の呑み友。
私はセイと目が合って、また少し笑った。
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