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【三十五話】いつかの王宮の庭2
しおりを挟む手を繋ぐというのもなんだか気恥ずかしいけれど、外すというのも頂けない気がする。
仲良しの婚約者ごっこ的なものは続いているのかしらね?
二人きりですけどもね。
第二王子様は口を噤んでいるし、何か、うららかな陽射しの中デートという甘い雰囲気でもないので、黙って付いて行く。
でもさー。
実は私って結構お喋りなたちなのよね。
しかも、聞きたいことはさっさと聞いてスッキリするタイプ。
「ルーファス様?」
「何? 可愛いミシェール」
!?
可愛いって。
笑。
令息方の前でした演技が、引っ張ってますよ?
コケそうになるんだってば(笑)
「素敵な私の王子様、この遊びは二人きりになっても続くのですか?」
私は少し微笑みながら聞いた。
この王子様が来てくれなかったら、私は満座の中で恥をかかされ、きっと悔し涙を呑んでいたのでしょうね。
そう思うと、私の王子様というのは、満更でもないのだろうか?
「可愛いものを可愛いとストレートに呼ぶ人間なんですよ?」
「あら? そういうタイプでしたの」
「小鳥も可愛い。子猫も可愛い。わざわざ可愛くない小鳥と呼ぶのも疲れるでしょう?」
「………」
その例えってアレね。
私のことをそのレベルで真実愛でてることになるわね。
まあ、ペット的な流れですが。
「あの者達はどうなるのですか?」
「どうとでも」
どうとでもか……。
「目を覚ましたら、ブレットが刻印について説明し、口止めし、第二王子妃付きにでもするか、もしくは配属予定部署で馬車馬のように働かせるか、どうとでも」
「そうなんだ……」
「僕の容赦のなさにがっかりした?」
私は首を横に振る。
「全然。むしろ再発防止をしてくれて、とても嬉しい」
私はあなたの魔法を見て、覚悟を決めたのよ?
今さっきだけど。
その辺の柔な令嬢と同じにしないで下さいね。
「そう……君らしいね……」
ルーファスは軽く笑った。
そんな風に笑わなくていいのに。
人を一人助けてくれたのだから、もっと偉そうに笑えば良いのに。
「どこに行くか分かる?」
「分かるわ。薔薇の温室でしょ」
間髪入れず答える。
「そこがどういうところか分かる?」
「分かるわよ」
「……分かるんだ」
ええ。綺麗さっぱり忘れていたけれど、思い出したわ。
テラスと、陽射しと、あなたの髪の色を見てね。
「どうして忘れていたの?」
「どうしても何も、ミシェールのキャパが凄ーく少ないのと、記憶の断捨離が早いからかしら」
正確には思い出した分けだから、記憶を捨てた分けではない。
取り敢えずは使わない棚に入っていたという感じだろう。
記憶の中のあの子の、性別を知らなかった。
身分を知らなかった。
名前を知らなかったのだ。
酷く透明な存在。
「忘れていた上に、断捨離してしまうなんて、君は残酷な女の子だね」
「ホントにね」
断捨離は酷いわ。
事実であっても口に出してはいけないわよね。
「なぜ、思い出したの」
その質問にはハッキリと答えられる。
忘れた事よりも、思い出した理由の方が良く分かるのだ。
なんせ数刻前なのだから。
「あなたという人の存在が、私の中で膨らんで、繋がったから」
そう。
私はずっと考えていたのだ。
昨日から。
助けて貰ったと知ってから。
婚約していると知ってから。
なぜ第二王子様は、私を助けてくれるのだろう? と。
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