上 下
27 / 158

【二十六話】小鳥は令息?

しおりを挟む
 テラスは暖かくて、昼だというのに小鳥のさえずりが聞こえる。

 足元に広がる光景(令息の土下座)さえなかったら、平和な日常よね。





「ルーファス様、わたくしね、お昼をご一緒にしたくて、サンドイッチを持って来たのです。けれど、これも私の命を狙って、何か混入しているかと思うと……」





 そこまで言っただけで、ルーファスは意を得たりと、微笑んだ。

 もちろんコレ、純粋な微笑みじゃあありませんよ?

 企みの微笑みです。





「ありがとう、ミシェール。ではここにいる令息方にも食べて頂きましょうね? それで自ずと答えが出るでしょうし」





 ええ。身に覚えがあれば、決して食べれはしまい。





 私は令息方に一切れずつローストビーフのサンドイッチを渡していく。

 自身の手で渡したのは、一人一人表情をしっかり確認していく為だ。





 分かり易く震えている。

 貴族って、本来上に立つことに慣れすぎているから、こういう体験てしたことないのでしょうね? 







「我が家の料理長が腕によりをかけて作ったものですの。さあ、召し上がれ?」





 一人は目が泳いでいる。どうすれば良いか分からずにいるのだ。

 そしてその視線が、自然とアーロンに集中して行く。





 そうよね? 貴方達四人組は、アーロンを中心に形成されているグループだものね。

 話掛けて来たのもアーロンで、肩を押したものアーロン。





 どう出るのかしら?

 毒の可能性が有ると明示されていて、食べるバカはいない。

 死より屈辱の方が何倍も増しだ。





 賢明ならば、謝罪に出るはず。

 しかし、先程の件から考えても、彼らは決して賢明な人種ではない。





「殿下」





 アーロンが意を決したように口を開く。





「私は思い違いをしておりました。ミシェール様は殿下の妃に相応しい素敵な女性だと思われます。私達四人は、殿下と公爵令嬢であるミシェール様のご婚約を祝福し、意志に従いましょう」





 ローストビーフを前に、頭が冷えたのか、アーロンは頭を下げ謝罪の言葉を口にした。





 彼らに謝罪以外の道は取り敢えずは見当たらない。

 当然、毒が混入しているかもしれないローストビーフは食べられない。





 王家に忠誠を誓っている臣従契約を反故にして反旗を翻す場合、十中八九、家からの勘当が待っている。

 そうすると最早貴族では居られなくなる。





 それも生まれながらの貴族の彼らに取っては苦しい人生になるだろう。

 王家あっての貴族なのだから。





「では、ここに忠誠の意を示す血判を押すように」



 ルーファスが後に立つブレットに手を出すと、透かさず書類が差し出される。





 え?

 血判って言った?

 血判??





 そういう纏め方?



 書類って?

 準備してあったの?

 すっごくタイミング良く出したわよね、ブレット。

 待ってましたという感じで。







 彼らの前に出された書類は、多分王家及び第二王子に忠誠を誓う的な何かが書いてあるのだと思うが……。





 悪事を働く時に押す血判ならともかく、忠誠を誓う血判はどういう拘束力があるのかしら?





 王家と貴族というのは、臣従契約を結んでいる。

 その上で、王子と令息で個人契約を結ぶのかしら?





 令息方も、納得しているのかいないのか分からなかったが、いそいそと書類を読み、用意されたペーパーナイフで指の先を切っていた。





 そしてルーファスの手元に四名分のサインと血判が押された書類が返ると彼は一人、とても愉快そうに笑い出したのだ。







いにしえの魔法を知っているか?」







 は?







 ルーファスが変なことを言い出しました。

 ブレット以外はみんな呆然としているし。

 もちろん私もです。







 いにしえの魔法?

 ここで魔法使いのおばあさん降臨ですか?

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...