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【二十三話】令息の包囲網

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 そろそろ場を外そうかなー。

 ずっとウフフアハハと嫌み合戦していてもなー。

 時間が勿体ない? 的な?





 この令息達はなんなんだろうね?

 何の用があって図書館にいるの?

 調べものは?

 配属部署のお手伝いは?





 こんな所で油を売っていて良いのかしら?

 しかし、油を売るっていうのも変な言葉よね?





 油売りがめっちゃお喋りしながら売っていたから、というのが語源らしいけど、

 江戸時代の油売りってのも、何でそんなに喋りまくっていたのかしら?





 あれかなー。

 美容師さんがずっと喋っている感覚と同じかなー。

 油ってのも髪油の油らしいし。







「ミシェール様、聞いていらっしゃいますか?」





 あらあらご免なさいね。

 もちろん聞いていなかったわ。





「あなたのお父様の噂話をしていたのですよ?」

「お父様?」





 そりゃ、びっくりですね。







「見世物小屋の一の売れっ子だったらしいじゃないですか?」

「…………」



 ああ、そっちの父ですか?

 つまりは姉のオリヴィアと私の実の父の話でしょ?





 色んな噂があるわよね?

 ちなみに母は相手はもちろんカールトン公爵だと言い切っているけど。

 真実は分からない。





 もしカールトン公爵だというのなら、長い間不倫の関係だったことになる。





 人気俳優の子ってもの有りなのかしら?





「貴族のご婦人方に絶大な人気を誇っていたらしいですよ。あなたお母様、現公爵夫人も相当入れ込んでいたとか? そんな血が王家に混ざるというのも、なかなか怪しげですねとお話ししていたところです」





 怪しげというのも、どういう言い回しなのかしら?

 まあ、そんな血は入れるなと言っているのでしょうけど。





 姉オリヴィアの容姿がちょっと魔性がかっているのが分かった気がします。 

 そして令息方、次に来る台詞が予想出来るのですが?





 まさかそんな教科書通りには来ないわよね?





「どうでしょう? そんな不浄の血を王家に混入させる分けにもいきませんし、ミシェール様から今回の婚約をご辞退した方がよろしくないでしょうか?」





 あははー。

 笑えるー。





 教科書通りきたわね。

 何が不浄の血よ。





 王家の血を心配した振りをして、あんたが辞退して欲しいんでしょ?

 そんな三文芝居に騙されて、辞退する馬鹿はいないのよ。





 

「貴族達が忠誠を誓う、王家ですので。王族の方々の為にもですね……」







 耳が腐りそうですわ。

 アーロン様。





 私は立ち上がると、バスケットに入っていた白湯を取り出す。

 右隣に座っているアーロンの頭からゆっくりとかけて見た。





 ああ、赤ワインじゃないのが残念だわ。





 たった一人の令嬢を、四人で取り囲んでんじゃないわよ?

 だらだらだらだら自分達の為の悪口を並べ立ててるんじゃないわよ?

 無能な癖に、肥大化した自尊心を垂れ流してるんじゃないわよ?

 存在自体が下らないのよ?





「あら、ご免なさいね。私とした事が、汚いものを濯ぎたくなってしまいましてよ?」







 椅子に座っているアーロンの顔が見る見る上気して行くのが分かった。

 直情的な貴族キター。





「この女!?」





 私は立ち上がったアーロンに肩を突き飛ばされて、後ろに転びそうになる。







 病み上がりだし、今朝も何も食べられなかったし、私って実は紙のようにペラペラに痩せているのよね?
 そんなに強く押されたら吹っ飛ぶわ。







 しかも、左隣にいた男、椅子を持って飛び退いたわ。

 素早ーい。  





 ご令息方、大胆過ぎない?

 カールトン公爵令嬢を押すなんて凄い行動力。







 まあ、令息に白湯をかけた私も私なんだけど。

 なんかさ、途中で気持ち悪くなっちゃったのよねー。







 私の父親が市井の人気俳優だとして、何だというのだ。

 立派に自分の力で働いているではないか?

 問題ないじゃない。





 自分の怠慢に言い訳するんじゃないわよ。

 人を貶めている暇が有るなら、勉強でもすれば良いじゃ無い。

 その方が、婿養子の良縁に辿り着けるでしょ?







 身分の事は言いたくないけど、公爵令嬢を押すってどういうことか分かる?

 世論が自分の味方をしてくれると信じているの?

 不確かなものを信じると、足元を掬われるわよ?







 私はというと体勢も立て直せずに、無様に転びそうになっていた。







 ヤダな。こんな人達の前で、床に手を突いて裾を乱して、足を晒すのかな?

 みっともないし悔しいじゃない。







 口惜しさに唇を噛みそうになった時、軽い衝撃と共に二本の腕に支えられた。







 ええ。完全に唇を噛みました。

 痛いです。

 血の味がしますよね?

 まあ、血の味って鉄分の味です。





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