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七話 思ったより時間がありません
しおりを挟む嘘でしょ!?
二日間の誤差があって、正確には分からないが私は約二週間も気を失っていたって事。
どういうことなの!?
この世界の医学凄いな!
いや、魔法か?
どっちだか分からないが、心底驚いた。
ミシェール、よく生きてたわね。
随分としぶとい生命力だわ。
私は変な所で、関心した。
いや、関心している場合じゃない。
ダンスパーティまで半月しかないじゃないの!
どーすんのよ。
私は焦りからか、心臓が少し早鐘を打つのが分かった。
なんでか知らないけれど、気を失ったまま二週間が過ぎていた。
水だけは飲んでいたのかしら?
ついでに下世話な想像だが、小水は誰かが取っていたのだろう……。
あぁ……。
忘れよう。
そして、もう考えるまい。
「お医者様って、お父様の侍医よね?」
そうとしか考えられなくて、一応言ってみたのだが、シンデレラは遠慮がちに首を横に振った。
違うんだ?
じゃあ、誰? 凄腕じゃない?
私はベッド横にある水差しに手を伸ばして、コップに入れる。
喉が乾いたわ……。
「恐れながら申し上げます」
何? 恐れ??
どうして医者を相手に恐れながら?
別に怖くないでしょうよ?
「お姉様のお体を心配し、隅々まで手当してくれましたのは、第二王子様です」
私は盛大に水を吹き出した!
どうしてそうなった!?
あまりといえばあまりの事に、私は開いた口が塞がらず、飲んでいた水は全てシンデレラにぶちまけた。
もう、口から噴水である。
ごめんね。新手の虐めじゃないのよ?
素なのよ?
シンデレラはというと、卓上の布巾で顔を拭いている。
令嬢が顔を布巾で拭くなーっ。
しかも言うに事欠いて、体の隅々って言った!
わざわざ言いましたよ、隅々まで手当てって!
私は顔から火が出るほど恥ずかしい。
性格歪んでるけど、これでも一応生娘なのよ?
少しは気を使ってくれても良いのよ?
「どういう事なの、シンデレラ」
「どういう事も、こういう事も有りません。第二王子様はミシェールお姉様の婚約者ではありませんか?」
「婚約者なの!?」
「はい」
「いつから?」
「落馬して気を失ってからです」
「気を失ってから話が進んだの!?」
「はい」
本人の意識のない所で、落馬した令嬢との婚約話を進める王子がどこにいるんだ!
驚いたよ!
だがしかし、シナリオは大分読めたぞ。
つまりアレでしょ?
私の看病をしているシンデレラと、手当に来た第二王子様の間で恋が芽生えたと。
有りがちだけど、一目惚れの鉄板だわ。
そのパターンね。
ベタなぶん読みやすいわ。
私は命懸けのピエロなのだが、ピエロ上等! 問題なし。
立派なクラウンを演じきる。
クラウンはいつでも笑っているもの。
そして邪魔になった婚約者の私を、ダンスパーティで振り、シンデレラとめでたしめでたしだ。
わかりやすくて良かったわ~。
ターゲットは第二王子だったか。
よしよし。
そうと分かれば話は早い。
この展開は、私が能動的に動かなくても、話がまとまりそうだわ。
嬉しい。
大好きな本ライフまで、カウントダウンに入ったわ。
私は病み上がりなのに、妙にニコニコとした表情になり、うんうんと頷きながら水を飲む。
さっき飲みそびれたからね、沢山飲まないと。
そこへ、ノック音が響く。
メイドの一人が、シンデレラに何か言付ける。
お父様でも帰って来られたのかしら?
私は何の構えもなく、シンデレラの言葉を待った。
「お姉様、第二王子様がお忍びで参られたようです。場を整え、お通ししますので、お姉様の身支度を整えますね」
私は再度、水を吹いた。
再度、シンデレラの顔にだ。
もう一度言う、決して虐めではない。
素なのだ。
第二王子様、あなたが読めません。
ええ、読めませんとも!
それからは、あれよあれよという間に場が整えられ、私のもじゃもじゃの髪の毛が巻かれていく。
病人が縦ロール!?
金髪じゃなくて赤毛なのに!?
水が零れてしまった服は、それは可愛いナイトガウンで隠され、どこからどう見ても、着飾った病人になる。
何これ?
超恥ずかしいんだけど……。
さっき! 本当に今さっき生還したばかりの人間が、着飾ってるってどういう事っ。
これは悶絶級に恥ずかしい。
誰にって?
それはもちろん王子様にだ。
あなたを待っていました!
どうですか?
私、可愛くお支度出来ていますか?
てな感じの心理が透けてそうで、もの凄い抵抗があるのだ。
待っていたどころか、作戦の駒として、どうするべきかにうんうん唸っていただけなのに!
「お姉様、お支度が整いましたので、王子様に入室して頂きますね」
「………」
半泣き。
大袈裟ではなく素で……。
こんな事になるなら、もっと早くに王子様の情報をシンデレラから聞いておくんだった。
心の準備も頭の準備も出来ていない。
婚約に至った経緯も聞いていないわ。
心中で動揺しまくっていたのだが、扉の向こうから慌ただしくも緊張した気配が迫る。
来たのね。
当たり前だが、これ以上待たせる訳にはいかない。
覚悟を決めるしかない。
私は大きく唾を飲み込むと、臨戦態勢に入った。
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