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1年目夏
69 私と颯太
しおりを挟む「おいブス!お前なんだよその髪型!」
「いたっ!ちょっとやめてよ!」
「里奈大丈夫っ!?先生に言うから!」
私のことをからかってた男の子はいつも私の髪を引っ張ったり、スカートをめくってきたり、ノートに落書きされたり、いじめに近い嫌がらせを受けていた。その度こはるんは怒ってくれて、私のことを守ってくれた。こはるんとは小学校1年生、初めて一緒のクラスで隣の席になった。たまたま隣の席に座っただけの私をこはるんはいつも助けてくれていた。
「そういうの本当やめろって。もっと嫌われるぞ。」
「なんだよ!も、もしかして、お、お前里奈の事好きなのかよ!」
「ちげーよ!」
こはるんと一緒に颯太も助けてくれていた。私の事をからかってくる男の子はクラスのガキ大将的なポジションで、他の男の子や女の子は私に絡もうとしなくて、こはるんと颯太以外はあまり話しかけてこなかった。この2人がいなかったら私はずっとひとりぼっちだったかもしれない。
「やーい!里奈の王子様!」
「どこまでやったんだよー!」
颯太が私を庇うから、周りの取り巻きにまで颯太がからかわれてしまった。そのせいで颯太とこはるんまでクラスからは少し浮いた存在になっちゃって……。それは1年生の時だけじゃなくて、2年生になっても続いていた。もちろん担任の先生には何度も相談したけど、きっと里奈ちゃんが好きなんだねって一言で終わって、その男の子にも口頭の注意だけ。髪を引っ張るとかの行為は無くなったけど、言葉での嫌がらせは続いていた。
3年生にあがってクラス分けでその男の子と違うクラスになった事で嫌がらせは終わった。私とこはるんと颯太は同じクラスで安心してた。嫌がらせがなくなった事によって、クラスの中で浮くとかそんな事もなくなったし変わらず仲も良かった。
「ねえねえ、佐伯さんって犬飼くんと付き合ってるんでしょ?」
「えっ!?なんでそうなってるの!?」
「だって、王子様とお姫様なんでしょ?」
ある日クラスの女の子からそう言われた。あの時の嫌がらせが他のクラスの人たちにも広がっていたみたいだった。ただ、今回は嫌がらせとかそういうのじゃなくて、単純に付き合ってるかもしれないっていう噂に変わっていた。
「そんなんじゃないよー!颯太とは仲良しなだけ!」
「そうなの?でも、佐伯さんなら大丈夫!応援するから!ね?」
「うんうん!佐伯さん可愛いし!絶対いけるよ!!」
この年代の女の子は恋に憧れて周りが見えなくなってしまう年頃で、私が何を言っても聞いてくれなかった。そのうちに諦めてしまって、1年や2年の時みたいになるのは嫌だったし適当に流してしまうようになった。最初のうちはうまくやっていたと思う。新しい友達とも、こはるんと颯太とも仲良く過ごしていた。
ただ、そのうち私が颯太を好きだと思ってる女の子達が、私達の関係に口を出すようになった。
「ねえ、紗倉さんって犬飼くんの事好きなのかな?」
「えー違うよ!幼馴染なんだってー!」
「ふーん。」
こはるんと颯太はそういう関係じゃないって事だけしか知らなかったからそう返事した。その後も颯太が1人でいると、行っておいでよとか言われて背中を押されたり、何かと颯太と2人にしようとしてくる動きがエスカレートして行った。
「ごめん、颯太。なんか勘違いされちゃってて。」
「いいって別に。女の子も大変だな?」
こはるんがいない時を狙って私を2人きりにさせてくるから、自然に颯太と一緒にいる時間が増えた。変わらず優しくしてくれる颯太に私は恋心を持つようになっていった。優しくて顔も良くて、運動も出来るし、何より私を守ってくれた。そんな男の子好きにならないはずがなかった。
「何の話してるのっ!」
「なんでもないよーっ!遠足楽しみだねって話!」
「おやつはバナナしかダメらしいぜ?」
「それは嘘っ!」
何気ない話の中でも、私は気づいていた。こはるんは颯太の事をなんとも思ってないけど。颯太はこはるんの事を大切に思っている事に。颯太の事を気にし始めてから目で追うようになって、颯太の視線の先にいつもこはるんが居る事に気づいてしまっていた。だから、私が今颯太を好きって気持ちは伝えることができない。
「遠足一緒にご飯食べようね!」
「もちろん!おやつも交換して食べようー!」
「俺はポテチのうすしおと、コンソメ持ってく!」
2人と一緒にいる時間が大好きだから、私はこの気持ちを伝えようとも思ってなかった。それより、私を2年間守ってきてくれた2人が幸せになってほしいなって思っていた。
「ねえ、紗倉さんありえなくない?佐伯さんと犬飼くん一緒にいたのに。あんなぶりっこしちゃってさあ!」
「わかる、空気読めてないよね?」
楽しみにしていた遠足の前日だった。よく話す友達と一緒にいる時に、1人の女の子が言い出して周りもそれに同調して、こはるんの悪口を言い始めた。突然の事で私は頭が混乱して反論できずにいた。
「明日の遠足、犬飼くんも一緒にウチらと食べようよ!」
「うんうん!ウチらは邪魔しないからさ!紗倉さんは仲間に入れない!」
「でも、それは、よくないよーー。」
やっと出来た友達が離れていってしまう、もしかしたらまたクラスで浮いてしまうかもしれない。そう思うと動悸が激しくなりうまく喋れなくなる。
「でも、紗倉さんだけ呼ばなかったらいじめって言われない?」
「じゃあ紗倉さんも呼ぶけど、無視しようよ!」
「それいいね!じゃあ、佐伯さんは明日2人誘ってきてね!」
「ちゃんと邪魔しないから!安心してね!」
全然良くなかった。最後まではっきり反対できずに会話が終わって女の子達は帰っていった。私はいつものようにこはるんと颯太と一緒に下校したけど、その日の話の内容は1つも覚えてない。ただどうしようと不安と恐れが頭の中をぐるぐるしていた。
遠足当日これほどまで休みたくなった日は今までになかった。いじめられてた時もこはるんと颯太が一緒に居てくれてたから、学校に行きたくないって思う日はなかった。ただ、今日はその2人のうち1人、こはるんを仲間外れにしようとしている。女の子たちに従わないとまた、次は女の子からいじめられるんじゃないかって怖くなった。男の子のいじめより女の子のいじめの方が陰湿でやっかいなのを知っていた。だからこそ、すごく怖かった。
親に休みたいって言っても当然聞き入れてもらえず、私は学校へ向かう。途中こはるんと颯太と合流して3人で登校する。
「今日すごい楽しみだね!」
「う、うん……。」
「どうした里奈?もしかして昨日楽しみすぎて寝れなかったか?」
「元気ない?大丈夫?」
私が元気のないのを2人は心配してくれる。立ち止まって私の顔をこはるんが覗き込んできた。
「里奈、何かあったらすぐ言ってね?また嫌な事言われたりしてない?」
「うん、大丈夫。」
「俺らは里奈の味方だからな。嫌な事は忘れて今日は楽しもうぜ?」
「ありがとうっ。」
2人の優しい言葉に、一瞬でも仲間外れにされたくない一心で女の子達に従いそうになっていた弱い私に喝を入れた。仲間外れになっても2人がいるから絶対に1人にはならない。今までずっと守ってきてくれた2人を嫌な気持ちにさせるなんて事は絶対にしちゃだめだ。
私はクラスに入って、いつも話していた友達にはっきりいった。
「私本当に犬飼くんの事好きじゃないから。仲間外れにするのとか無理。」
「え、いきなりなにーー」
「私はこはるんと友達で居たいから、みんなと友達やめる。」
宣言通り私は小学校を卒業するまで、こはるんと颯太以外に友達は出来なかった。
私の颯太を好きな気持ちは秘密にして、颯太もこはるんを好きな気持ちは伝える気がなくて、こはるんは私達と仲良くしてくれて。このまま大人になるまで3人で一緒かなって思っていたのに。
高校に入って猫宮くんが現れて、こはるんを最も簡単に奪って行った。猫宮くんはこはるんの事すごく好きだし、颯太も別になんともない感じだったから、諦めたのかなって。
だから、今ならこの気持ちを秘密にしなくてもいいかなって思った。
隣を歩く颯太の見つめる先にはこはるん。靴擦れをしているこはるんは猫宮くんに支えられながら歩いている。それを切なそうに眺める颯太は、私に見つめられている事なんて気づいていない。颯太はこはるんを諦めてなかった。
今日の浴衣可愛いって言ってくれて嬉しかった。一緒にお祭りでいろんなもの食べて、遊んで楽しかった。いつも通りに私と過ごしてくれる颯太だけど、視線の先にいるのはいつもこはるんだった。颯太も今私と同じ気持ちなんだろうな。
「里奈バンドエイドありがとね。なんとか帰れそう。」
「本当に大丈夫?送って行こうか?」
「僕が送るから大丈夫。2人とも帰っていいよ。」
清々しいほどに私達を邪魔者扱いしてくる猫宮くん。ここまでこはるん一筋で居てくれてると安心できる。私は颯太の腕を掴みこはるんの家と反対方向に向かって歩く。
「えーひど!もういい!颯太行こ!」
「じゃあな、次は学校でな!猫宮の親父によろしく言っといてくれ!浴衣はそのうち返す!」
あんなに睨まれてたのに、颯太は猫宮にも笑顔を見せて手を振る。颯太は感情を隠すのが本当に上手だと思う。颯太も猫宮くんは悪い人じゃないって分かってるから、対応に困っているだけかもしれないけど。
「あーあ、みんなで花火見たかったな。」
「また来年一緒に見ようぜ。」
「次は猫宮くん意地でも2人で行くって言いそう。」
「ありえるな、その時は俺らも2人で行こうぜ?」
颯太は何とも思ってなかったとしても、私にはその言葉はすごく嬉しかった。
「うん!約束ね!」
来年の猫宮くんがこはるんと2人きりで過ごしたいって言い出しますように。
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