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1年目春
20 僕と学校生活(5)
しおりを挟む広い体育館の片側を使ってバスケ部は部活を行なっていた。
あんなボール追いかけて何が楽しいのか分からない。
「1年2組犬飼颯太です!よろしくお願いします!」
何人かいる一年の中で颯太が一番声が大きくて目立っていた。
「颯太やる気満々だねー。」
「部活すごく楽しみにしてたからね。」
小春ちゃんが颯太ばかりみててつまらない。
そんな僕達の近くに、上級生が声をかけてきた。
「あなた達は見学?」
「はい、友達がバスケ部入るらしくて、マネージャーどうかなって誘われてて。」
「あなたも?」
「僕はただついてきただけです。」
その上級生は僕を見て頬を染める。
僕はその表情をよく知っている。
「マネージャーってどんな事するんですか?」
「え、ええ、マネージャーは、選手のサポートとかね。ドリンクを作ったり、記録をつけたり、あとは誰かが怪我した時に手当てしたりかしら?」
その説明を受けて里奈は表情を少し曇らせる。
「私そんな色んな事できるかなあ。」
「大丈夫だよ、里奈は意外としっかりしてるし!」
「こはるんも一緒にやろうよー!」
さっきからバスケ部の部員達がこちらをチラチラ見ている。マネージャーになるかもしれない女の子を品定めしているみたいで気分が悪い。
「私は、えっと……。」
このままじゃ、小春ちゃんが里奈に押し負けてしまいそうだったので助け舟を出す。
「佐伯さん、無理強いはだめだよ?それに……」
僕の勘が当たっていればきっと
「マネージャーと部員は恋に落ちやすいって言うし。いいの?小春ちゃんを呼んで?」
「ちょっと!何で知ってんの!」
小春ちゃんに聞こえないようにこっそり聞いてみる。
里奈は顔を真っ赤にして怒る。予想通りだった。
「何のこと?」
「最悪!」
そのまま里奈はそれ以上小春ちゃんを誘う事はしないでおとなしくなった。
「マネージャーはいま私と、もう1人いるだけで人が足りないからいつでも歓迎よ?もちろん部員も。」
「僕は入らないので大丈夫です。」
きっぱり断っておく。
「そう……、あなた達はどうする?」
「私はちょっと考え、ます。」
「えっと、私は、ごめんなさい。」
よかった小春ちゃん断ってくれて。
こんなオスの巣窟みたいな所に小春ちゃんを放り込むなんて、僕には絶対できなかった。
何かと理由をつけて断らせるつもりだったけど、その必要が無くてほっとした。
今日は初日という事もあって、仮入部の部員も多いため1年は早めに解散した。
「どうだった俺かっこよかったっしょ?」
「ほとんどパス練習だったじゃん!」
「ちょっとは試合してただろ!」
ちょうどその試合中にマネージャーと話していて、颯太の試合はあまりみてなかった。
「ごめん!あんまみてなかった!」
「ちょうど先輩と話してて……。」
「ごめん僕も。」
颯太は肩を落としつぶやく。
「あの先輩美人だもんな。…。あの先輩目当てでバスケ部入るやつもいるらしいし。」
そんなに美人だったかな?
僕は小春ちゃん以外の女の子はほとんど同じに見えるからわからない。
ただ颯太のその呟きに里奈が過剰に反応した。
「颯太もあの先輩目当てとかじゃないでしょうね!」
「俺が!?なんでだよ!俺はただバスケがしたいだけだよ!」
「どーだか!」
颯太と小春ちゃんはどうして里奈が怒っているか分かっていないようだった。
こんなにも分かりやすい態度をどうして気づいてあげられないかな。
「佐伯さんマネージャーやらないの?募集してるって言ってたけど。」
この2人がくっついてくれれば、小春ちゃんを独占できる。
僕はそのために全力で応援するよ。
「でも、こはるんやらないんでしょ?」
「私はやらないけど、私に合わせなくていいんだよ?ほら、マネージャー憧れるって言ってたし!」
「いいじゃん、里奈だけでもマネージャーしてくれよ!知ってる奴が応援してくれるだけでやる気でるからさ!」
「うぅ…じゃあ、そこまで言うなら、やっても、いいかな…?」
これからの放課後の時間は僕と小春ちゃんだけの時間になる。
僕が想像していた通りの展開になって心が躍る。
「そっか、2人とも部活するなら、私も何か部活しようかな……?」
「えっ?」
「え?」
思わず聞き返してしまった。
小春ちゃんは首を傾げて僕を見上げている。可愛い。
「なんか、部活とかしてみるのもいいかなって……。」
「いいと思うよ!なんかやってみたい事あるの?」
「うーん、部活の一覧見た時に、家庭科部とかはちょっと興味湧いたかも?」
「なにそれ!おやつとか作るのかな?作ったら食べさせて!」
「待ってまだ入るって決めたわけじゃないから!」
気が早い里奈を小春ちゃんは落ち着かせている。
家庭科部は、確か料理とか裁縫とか…そう言った活動内容だった気がする。
男ばっかの環境より、よっぽど安心できる。
「家庭科部か、うん。いいと思うよ。明日見学行ってみようか?」
「えっ?」
「え?」
次は小春ちゃんに聞き返される。
「猫宮くんは、別に付き合ってくれなくても、大丈夫だよ?」
「僕もちょうど何か部活動してみたいと思っていたんだ。運動は得意じゃないし、どうしようかなって。」
「そうなの?でも、女の子ばっかで気まずいかもしれないし。」
「大丈夫だよ。僕も友達と一緒に部活動してみたかったんだ。」
後ろで里奈がこっそり
「やっぱストーカーじゃん。」
とつぶやいたのは聞かなかった事にした。
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