上 下
187 / 232

『ヒール174』

しおりを挟む
『ヒール174』


 何を言っているのだ、サリオスは?

 俺は回復魔法を使えるが、まさかサリオスが自分にヒールしろと言うとは予想外だった。

 だって俺はサリオスが嫌いだし、会いたくないとも言っているのだ。

 そして嫌われているのもわかっているはず。

 それなのに回復魔法しろて、バカかよ。

 するわけないだろうに。

「するわけない」

「そうよ! トレイルは絶対にしないわよ!」

「サリオスにヒールするなら竜神様にするぴょん!」

「みんな嫌いですからサリオスのこと!」

 全員でサリオスをボロクソに言った。

 俺はそこまで酷く言ってないぞ。

 言ったのは責任取れないが、気持ちは同じだ。

 サリオスの体力を回復させることはない。

「それじゃあトレイルが竜神様と戦い、城を守るのだな?」

「ええええっと、守るのは守る。でもサリオスとは関係ない」

「出来るのかよ。お前たちだけで竜神様と戦えるのかと聞いてるのだ」

「うるさい勇者黙れ!!!!」

 ローズが反論してくれたが、俺は少し戸惑った。

 確かに俺たち竜の守りパーティーだけで竜神様と戦うのは、あまりにも危険なのはわかっている。

 そんなのはわかって来たんだ。

 しかしサリオスの誘いではあるが、サリオス達にヒールをしたら、どうなるか。

 サリオスとムジカとジェンティルは直ちに回復する。

 現在の傷の具合を見ると体力の消耗はかなりある。

 サリオスらと一緒に、俺達の竜の守りも合わせて戦えば、竜神様に勝てる可能性は高くなる。

 サリオスの誘いはそんなとこだろうけど、簡単に誘いに乗るのはどうか?

 俺が一番ヒールしたくない人間達だ。

 そんな奴らにヒールしたくないし、一緒に戦うのも嫌だ。

 みんなも同じ気持ちだろうよ。

「トレイル、サリオスの言うことを聞いたらだめよ。あいつはトレイルを利用しようとしているだけよ。利用したらまた直ぐに消すのがサリオスでしょ」

「そうです、サリオスはトレイルを道具としか見てないぴょん」

「サリオスを無視して」

 みんなからはサリオスを無視するよう説得された。

 しかし俺は揺らいでいて、気持ちはグラグラと揺らいでいる。

「待って濡れローズ、パピアナ、ミヤマ、シシリエンヌ。俺の話も聞いてくれ。俺はみんなと仲間だ。大事な仲間だ。だから考えていて悩むよ。サリオスを無視して、果たして俺達だけで竜神様と戦えるかな。勝てないのなら、みんなを犠牲者にしてしまうこともあるんだ。ここに来たからには、来る前から覚悟はあったと思う。でも今はサリオスがいる。あいつを俺達が利用したらいい。サリオスにヒールするだろ、そしたら消耗した体力は完全に回復する。何度と回復してやる。そうして俺達も戦う。竜神様に勝てる可能性は出てくるかもだ」

 俺の置かれた立場で最大限の考えられることを、みんなに伝えた。

「トレイルが逆に利用するわけかサリオスを」

「そうだよ、利用したい。みんなを少しでも傷つけたくないし、犠牲者とかになって欲しくないからな」

「あのバカを利用しよう!」

 最初は反対していたミヤマとパピアナとも、利用する方法に賛成してくれたのは良かった。

 もちろんサリオスにヒールして回復させて、利用しつつ竜神様に勝てるのが条件だが。

 それでも勝てないのなら、利用も何もない。

 無駄に終わるので、最後は竜神様に殺されるのか、どうなるのかは俺にはわからないな。

 しかし今の時点でそこまで考えてしまうのは良くない。

 今の俺の出来ることは、最善を尽くすことだ。

 そして最善なのはサリオスを利用してやることだ。

 その方がいい方向に向かう気がする。

 そこでみんなと相談した結果をサリオスに伝えて、

「サリオスの提案を受けるよ。サリオスとムジカとジェンティルに俺のヒール魔法をするのを約束する。その代わり俺達竜の守りと一緒に竜神様を倒すのが条件だ。その条件でいいか?」

「約束しよう。森の王は一時的に竜神様を倒すのを、竜の守りと仲間になる。これは勇者の名前をかけて約束する」

 サリオスは約束すると言ったら、ムジカとジェンティルも頷く。

 ジェンティルは約束するか怪しいかな。

 そこで確かめたい。

「ジェンティルは?」

「私も約束するわよトレイル。早くヒールをお願いする」

 かなり苦しそうであるため、約束をすると言った。

 竜神様は、俺達の動きを様子を見ている。

 どうやら俺がサリオスの誘いに乗るかを見ているようで、楽しんで待っている感じ。

 余裕あり過ぎでしょ。

 これでサリオスにヒールするのは決まったため、直ぐに魔王竜ヒールをした。

「魔王竜ヒールをサリオスとムジカとジェンティルに!」

 本来ならしたくないけど、魔王竜ヒールを三人にした。

 ゲオルギウスはどう感じただろうか?

 ゲオルギウスはサリオスとの戦いに敗れてしまい、死となった。

 それを俺がサリオスにヒールしたら、怒るかな。

 怒ってしまい、加護を辞めたりしてな。

 特別にゲオルギウスが俺の行動に影響することはない。

「ほお~~~、トレイルがサリオス達にヒールをしたのか。なるほどな。憎いサリオスにヒールしてまで私を止めたいのだな。ふふふふふ、面白いな。サリオスだけでは、思ったよりもつまらなかったからな。もう少し楽しませてくれよトレイル。ふふふふふふ」

 竜神様は俺がヒールするのを許した。

 サリオスを回復させるのを反対しなかった。

 もっと楽しんでいたいという、神様ならではの欲求があるらしい。

 困った神様だよな。

 ヒールが効いてきたと思える。

 サリオスは苦しい顔から回復して、元気になるだろう。

 サリオスは良い顔に戻っていった。

 竜神様につけられた傷は回復して、血も止まった。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...