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『ヒール166』

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『ヒール166』



 勇者パーティー編


 竜神様との格闘にショックを受けたのは勇者サリオスだった。

 嘘だろ、俺があんな風に追いやらるなんて、とんでもねえ化け物。

 あんな化け物を起こしてしまったのは俺の失敗か?

 いいや違う俺の失敗なんかじゃないとサリオスは思いたかった。

「なあ、ジェンティル、ムジカ。俺の考えは決まっている。あの化け物神様を起こしたのは謝るつもりはない」

「勝手な意見」

「謝れよ。ただ竜神様は今はどこかに行ったらしいぜ。今さ、宿屋の外に様子を見に行ったら、ドラゴンに乗って移動したらしいと話していたのを聞いた」

 サリオスはムジカの話に耳を傾ける。

 なんだと……竜神様がドラゴンにだと!

 俺の竜人の剣が離れていくだろうが、それはゆるさねえ、ゆるさねえとサリオスはムジカに、

「ドラゴンに乗った話はなぜ早く言わなかった!」

「知らねえよ、今知ったんだからよ」

「いいじゃない。ちょうどいい。あんな竜の神様とは要らないし。もうごめんよ、私はムカついたし」

 サリオスとは逆に嫌がるジェンティルは、嫌な顔を作る。

「ダメダメ、俺の剣だろあの神様は。今から宿屋を出るぞ」

 絶対に手に入れる、手にする。

 俺しかいないだろ、竜人の剣の持ち主はよ。

 それをみすみす逃すのは失策だろうな。

 ジェンティルとムジカには俺に付き合わせるのは当然だよな。

 だって仲間なんだから。

 当然に俺に協力するよなとサリオスは考える。

「ドラゴンを追いかける気かよ。悪手だろ」

「悪手は見逃すのが悪手さ。さぁ、準備しろ、これは森の王にとって極めて重要になるんだ」

 ムジカは仕方なく立ち上がり宿屋を出る準備に。

 ジェンティルはもっと嫌な顔をしたものの、サリオスは嬉しい。

 嬉しくて嬉しくてたまらないよな。

 ついに念願の竜人の剣が。

 俺が必ずや手にする剣!

 世界でどう考えても俺にふさわしい剣だ。

 さぁ、竜神様よ、最初は俺はあなどったが、今度こそ負かしてやろう、とサリオスはニヤケていた。






 宿屋を出るとドラゴンが飛んで行ったとされる方向の情報を集めた。

 直ぐに出発した方が探しやすいのもあるので。

 竜人から方向を聞いておき、さっそくだが、その方角に行くとしよう。

 ドラゴンが去った方角に進路を取り、進むとしたら、その前方には見たことのある人物が見える。

 あれは、トレイルだ。

 トレイルとその仲間の猫人ならだ。

 なぜ俺と同じ方向に向かうのだろうか。

 気に食わない野郎だ。

 俺が聖なる光魔法で、竜人を攻撃したのを、トレイルは回復させて英雄気取りらしいな。

 気に食わない奴だ。

 森の王を追放して殺してやったら、なぜか生きていたしな。

 さらに雑用係を邪魔で殺したら、それにも現場にいて、俺の邪魔する。

 森の王にもう一度入れてやって、雑用係にしてやるのがお似合いなんだよ、トレイルは。

 俺のパーティーと張り合おうなんて考えがあるなら、叩くのもいい。

 いずれにしろ俺のパーティーに入れて雑用係にするか、もう一度痛い目に合わせるかのどちらかだな、とサリオスはトレイルを後ろから追う。

 トレイルが馬車に乗るのも後方から見学していてムジカが、

「おい、サリオス、あれはトレイルのパーティーだよな。馬車に乗るぞ。どこに向かうのか。もしや…………竜神様を追いかけるのでは?」

「バカを言え。あの底辺回復術士のトレイルが竜神様を追いかけるなんてするわけねえっての。むしろ逆だ、あいつはこの町が怖くて怖くて逃げ出すのさ」

 逃げるに決まっているさ。
 
 あの最弱だったころのトレイルは今でも忘れやしない。

 ヒールだって最弱だったな。

 俺の勇者としての雑務をさせるのに最適だった男だ。

 それがなにゆえに俺ですら脅かした竜神様を追いかけるのだ。

 バカを言えっての。

 あいつらがまとめて戦っても竜神様に勝てる見込みはゼロだ。
 
 勝てるのは俺だけ、この世界最強の勇者であるサリオス様だけなんだよと、サリオスはトレイルを失笑した。

「トレイルの行ったあとに御者に聞けばいい。行き先を」

「そうだな」

 サリオスはトレイルが馬車で出発したのを見て御者に聞いた、

「今の冒険者達はどこに向かったかを教えろ」

「えっと……あなたは誰ですか。誰だか知らない人には教えられませんね」

 あっさりとサリオスの質問を拒否った。

 なんだこの野郎は!

 俺が誰だか知らねえのかよ!

 俺は世界最強のパーティーである森の王のリーダーのサリオス。

 知らねえはずがねえし!

 しかしまぁいいか、こんな田舎町だ。

 知らないのと無理はないから、この際に教えておくのもいいだろう。

 いずれは世界のすべての人々が俺を尊敬し憧れる日が来るのだからな!!!!!

 もう直ぐ来るんだよな、とサリオスは御者を攻めるのをやめて、

「俺が誰か知らないなら今だけ教えておくのもいい。俺は森の王だ。そして勇者サリオスだ」

「えええええっ! あの森の王!!!!! 勇者サリオス!!!!」

 あはははははは、やっぱり驚いたなこいつ!

 そりゃそうだろう。

 名前を言えば誰だって知ってるな名前。

 そこらのAランクパーティーですら、怯えて俺の顔も見れないのが俺だ。

 それだけ勇者ってのは特別な存在。

 さぁ、詳しく教えてもらおうと、サリオスは思う。

「さぁ、教えろ」

「はい、あなたがサリオスなら教えても問題ないでしょう。普通は教えませんけど、さっきのパーティーはこの町に起きた竜神様と関係してます。パーティーは竜神様を追いかけています。ドラゴンで飛行して行った方向に進むそうです。そこまでしかわかりません」

「なんだと!!!」

 信じられなかったから言ってしまった。

 まさか最弱だったトレイルが本当にドラゴンを追いかけているなんて。

 嘘だろとしか言えないし、しかしだ、この馬車の御者がこの俺に対して嘘をつくとは思えない。

 てことは、ドラゴンを追いかけているのはなぜだ。

 あいつはバカだから竜神様の強さを知らないのだろう。

 単にドラゴンが危険だから追いかけていると思われる。

 あははははは、死ぬなと、サリオスは笑いをこらえる。

 サリオスが肩を上下に動かすとムジカは、

「トレイルが追いかけているなら、不味いのではないか。そのまま行ったら死ぬ。そしたら森の王に呼べなくなるぜ」

「う~~~ん、トレイルに死なれたら困るか。そうだな、ムジカの言う通り、森の王に再び呼ぶのは大切だよな」

「ドラゴンを追いかけるのならトレイルを追いかけていけばいいとなるぜ」

「なるほどな。そうしよう。ドラゴンの竜神様から助けてやろう!」

 そうだよな、そうしよう、トレイルは竜神様似会ったら死ぬな。

 そこで俺が助けてやったら再び森の王に帰ってくるかもな。

 なにせあいつは雑用係としては一流だからな、とサリオスはトレイルを雑用係としか見ていなかった。
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