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『ヒール158』

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『ヒール158』



 見たところ少女だった。

 身長は低くて竜人の子供だろうけど、なんでひとりぼっちなんだろう。

「サリオスは会ったよ。勇者と言ってた。勇者にしては情けない勇者だな。逃げちゃったしな。寝てるの起こされたんで、探しに行こうかな」

「サリオスを探すとか、情けないとか意味がわからないよ。キミは誰なのかな」

 サリオスを下に見る発言には驚いた。

 起こされたとかの話の内容は、もしかしたら長老の話とダブル。

 まさかこの少女が神様とか?

 まさかあり得ないだろう。

 どう見ても少女だしな。

「知らないのか。竜神様だよ。勇者サリオスが神殿に入って来たんだ。そして寝ていたのを起こされたわけだ。ムカついたから魔法で燃やそうとしたら逃げちゃった。残りの女と剣はも逃げちゃったよ」

「ええっ、竜神様か。やっぱり」

 やはり長老の話の通りだった。

 100年くらい寝ているのを起こすなと言っていたからな。

 サリオスが勝手に入って起こしたのは理解できる。

 サリオスならやりかねない。

 むしろ必ずやる。

「やっぱりとは」

「町の長老から聞いた。神殿には竜神様が寝ていて、100年に一度竜人の剣に変わると。本当かどうか信じられなかったけど」

「本当だよ長老の話は。そして私はね、起こされると機嫌悪いのよ。今も苛ついているしね。だから炎魔法で燃やしちゃった」

「もう止めてくれないか。町が燃えてしまうだろ」

「そうだね。町が燃えたなら大変だ。でも別の町や国を燃やすならいいだろう?」

「だめでしょ、神様なんだから、苦しませてどうするの」

 本当に神様かよ。

 燃やすとか、とても神様とは思えない発言だけど。

「キミも冒険者かい?」

「トレイル。竜の守りパーティーさ」

「トレイル……それに神殿前に来ている冒険者もみんな私と戦いましょうよ。なぜかって、起こされると、むしょうに戦いたくなるのよね」

「戦う気はない」

「キミになくても私にはある。竜人じゃないのだから構わないだろ」

「だめだ!」

 俺は竜神様を説得しようとしたところ、彼女は戦いたくて仕方ないらしい。

 抑えられないみたいだが、それって危なすぎだろう。

 長老の話ではあるが、異常なほど強そうだし、確か魔王ともやり会えるレベルなんだろう。

 とても俺たちの勝てる相手じゃないのは明らかだ。

 ましてサリオスや恐らくジェンティルとムジカのことだと思うが逃げちゃったと言った。

 あの3人が逃げちゃったのを俺にはどうにもならないよな。

「遅いよ、もう決めたこと」

「あの爆音はサリオス達との戦いの音だったのか……」

 今思えば、強烈な爆音は戦いの最中の音だったと推察できるな。

 もっと早く気づくべきだったな。

 長老の話から十分に推察は可能だったはず。

 これも俺の考えの甘さか。

「トレイルっ、誰なのその少女は?」

「パピアナ! 来るなっ!」

「エルフも居るのかい。久しぶりに見たわねエルフ族の女を。少しばかり楽しめそうだわね。ファイア」

「危ないぞ、パピアナ。この子は少女じゃない、竜神様だ。そして燃やした犯人だ」

「ええっ、竜神様なの! ヤバいでしょ」

 さすがに驚いたらしく、用心したパピアナ。

 ファイアを放ったけども、直ぐにパピアナは反応して回避した。

 良かった、無事だった。

 今の魔法で嘘でなく本気で殺しにきていたのがわかった。

「ちょっとパピアナ、トレイル、何なの、火魔法でしょ今のは!」

「敵なのかい?」

 ローズとミヤマもファイア魔法を見たのだろう。

 俺のところに来た。

 マズイな、みんな集まったじゃんか。

 これじゃ竜神様に有利になるばかりだ。

「みんな来るなっ。竜神様だ、魔法攻撃してくる!」

「ええっ神様!」

「神様ぴょん!」

「神様が神殿を燃やすとはバカかっ!」

 パピアナは怒って言ったが、神様の方も怒っているんでね。

 それを言っても無駄でしょう。

 それよりも避難した方が良さそうなのにシシリエンヌまでジャンプして来た。

「クールキャット、雷鳴のみんなを丘から避難させるんだ。竜神様は攻撃してくるから!」

「えっと……本当に神様なんだ、あんな少女なのに」

 神様と言ってもピンと来てない様子のクールキャット。

 危ないのをどうやって伝えたら良いのかな。

「おいおいトレイル、そんなに危険な神様なら俺の剣で神様を大人しくしてやるよ」

 逃げるよう言ったのに、前に出てきたのはタップアウト。

 この男は出たがりらしい。

 別に出なくていい場面なのにな。

 扱いに困るのが想像できるし、クールキャットも大変だろう。

 他の雷鳴メンバーは竜神様と聞いて動揺している様子だった。

「へえ~この少女が竜人の神様か。ずいぶんと可愛いらしい。剣を受けられるかな!!」

「やめろっバカっ」

 パピアナが注意したものの間に合わない。

 タップアウトは竜神様に剣を向け、突進してしまう。

 バカというか、怖い物知らずと言うべきか、あまりにも無謀では。

 結果は見てみればわかる。

「ほお~神に剣を向けるバカがいるとはな。どれどんな剣かみてやろう」

「なっ、嘘だろっ、本気の剣を尻尾で止めやがった!」

「あはははは、弱すぎるだろう剣士よ」

「タップの剣を簡単に受けてみせた。普通じゃない」

「物理攻撃は厳しい……」

 タップアウトの攻撃は無効だったのを受けて、仲間は口にした。

 ムジカと比べたらレベルは低くても、ああも簡単に止められる剣筋ではないはず。

 信じられないが、これが人と神様の核の違いと言われたらそれまでだが。

「俺の剣を舐めるなよっ!」

「死ぬかい、あははは」

 タップアウトは剣を滅多切りしたのにも、尻尾で防御されてしまう同じ結果になった。

 剣の切れ味関係ないのか。

 あの尻尾の前ではどんな剣も木の剣となるみたいなもの。

 口の達者なタップアウトも黙るしかないが、竜神様からの攻撃が来た。

 尻尾で防御しつつ、ファイアをする気だ。

 この距離では、タップアウトも逃げようがない。

 危ないっ!

 ファイア魔法が超近距離で放たれる。

 どう考えても逃げようがないよな。

 タップアウトだって防御するのが間に合わないのはわかったのか、竜神様から離れたいとしている。

 炎が手から生まれた。

 タップアウトのお腹に当たる。

 あれを受けて生きていられるならいいが、神殿付近の炎を見たら、無理だろう。

 致命傷になる前に俺がヒールするしかないと思うも、間に合えばの話だ。

「タップ、俺に掴まれ!!」

「トリプルアクセル!!」

「………速いな」

 炎が腹に当たった瞬間にトリプルアクセルが間に入って、立ったままアウトを救出。

 速いのはトリプルアクセルのスキル。

 トリプルアクセルにしか出来ない速さで救った。

 竜神様はちょっと驚く。
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