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『ヒール155』

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『ヒール155』



 勇者パーティー編


「この大魔道士が相手をしてやろう。魔法で来い、竜人の神様」

「ふ~~ん、大魔道士の女か。面白そう。それに性格強いところもいい。そこの勇者よりはやりがいありそうだし。それに隣の大きな大剣を持っている男も一緒に戦いましょう」

「ご指名か。本来なら神様と戦うのは避けたいところだが、この場では逃げるのは失策。叩き潰すのが得策」

 ムジカは竜神様に指名されて大剣を握ると、体の前に構えた。

 見た目はただ少女にしか見えない。

 逃げるよりも戦いしかないと判断した。

「ずいぶんと言ってくれるわね。大魔道士の私では役不足とはね。それならお先に魔法しますから、氷の月」

「氷の魔法か。面白い、人がこれほどの強い魔法を使えるとは」

 氷の魔法が竜神様を包み込むようにして広がった。

 神殿の石の床を氷に変えるも、竜神様は慌てることなく、冷静にジェンティルに言った。

 氷の月は大魔道士レベルの魔法使いが使える上級魔法。

 この時点でAランク冒険者ですら凍りつく程だった。

 たとえ神様でも氷つくと考えたからで、しょせんは同じ皮膚や血管を持っているので、氷つくだろうと。

 ジェンティルは初めての神様との戦いに全力で魔法をした。

 サリオスが警戒する相手であるから、一撃で勝負をつけたかった。

 氷の月による攻撃で竜神様は氷の塊となっていた。

 凄まじく冷たい氷河になった。

 過去のどんな戦いにも、氷河にならなかった魔物はいなかったから、自信はあった。

 逆にサリオスが情けないとも思うくらいに。

 勝負あったと思った。しかし直後に氷河は破裂し、竜神様が現れる。

 全身は凍っていなくて、皮膚が凍りついているくらいのダメージだった。

 ジェンティルの予想とは違っていて、竜神様の皮膚は遥かに強かった。

 想像以上に防御力が高いのを知る。

 吹き飛ばした氷の破片が周囲に飛び散ると、ジェンティルの顔をかすめた。

「サリオスの言うとおり、危険な強さかもね」

「まさかジェンティルの魔法を受けて余裕なのはあり得ないぞ!」

 見ていたムジカは警戒心を最大にする。

 ジェンティルの魔法の凄さを一番知っている一人だったから。

 この余裕は信じることは出来なかったし、信じたくない。

 魔物なら確実に息絶えているレベルだ。

 近くにいるムジカでさえ、直接凍っていないが、寒気はしている。

 寒気は氷魔法だけでなく竜神様に対しても感じる。

 おぞましい強さに寒気を感じる。

「今のが全力じゃないわよね大魔道士さん。魔法ならこちらも行きますわよ。メガフレア」

 竜神様がサリオスに使用したのと同じ魔法。

 神殿内でサリオスの魔法を圧倒した魔法がジェンティルとムジカに向かった。

 単なる火魔法とは違う。

 魔法に精通したジェンティルでも言葉を無くすレベルの魔法だとわかる。

 巨大な炎が生まれていき、ジェンティルの前まで来ていた。

 熱波の熱が肌に届く。

 一瞬で皮膚がじりじりと熱くなる。

「逃げろジェンティル!」

「アホか、私が逃げるわけない、氷の月」

 逃げるよう言われても無視し、再び魔法で対抗する。

 フレアの炎と氷河が激突。

 全く逆の魔法をぶつける。

 爆裂音が発生した。

 あまりの音の大きさにまたも下の町に届いた。

 町の竜人は怖くて何が起きたのかわからない。

 大地震でも起きたのかと騒ぎ出す。

 トレイルもこの音が耳に届いていた。

 ローズやパピアナも反応する。

 異変が起きているのに、何が原因なのかわからないで混乱していた。

「ううううぁー!!!!!」


 ジェンティルが叫ぶ。

 炎との競り合いになり頑張るもののジェンティルの勝てる炎ではなかった。

 ジェンティルの体は火の勢いに押され、熱波に襲われた。

 叫び声が神殿前の広場に広がる。

「あははははは、大魔道士さん、燃えてますわよ!」

「うううあ~~」

 悲痛な叫びが響く。

 その姿を見たムジカも防御に移る。

「ジェンティルの氷の月よりも強い魔法かよ、とりあえず防御だろ、渾身の一撃」

 普段なら攻撃手法である渾身の一撃をあえて防御に使用した。

 迫る炎に対して大剣をかざした。

 大剣を自分を中心に振り回していく。

 大剣を炎に合わせ、一撃振り切った。

 地面に下ろした大剣。

 ムジカは炎を切ることで防御を取った。

 並の剣士にはあり得ないことだが、ムジカには剣を振ることで魔法を切れたりする。

 ムジカは炎を切ったと思った。

 実際に炎が真っ二つに切れたからだ。

「むむむっ、炎が切れない!!」

 切れたと思ったのに、炎は直ぐに復活していた。

 切ったのに切れていなくて、ムジカの体、大剣は炎に包まれていった。

「ああああああ!」

 ムジカもジェンティルと同じく叫び声を出す。

 2人が戦いの最中に悲鳴を出すのは珍しかった。

 サリオスはほとんど聞いたことなかった。

 3人で構成された森の王は、攻撃主体のチーム。

 攻撃力こそ全て。

 防御や支援回復魔法など要らないという考えだった。

 回復は回復薬で雑用係に任せればいい程度に。

 他のパーティーではあり得ないメンバー構成だが、サリオスとジェンティルとムジカの3人なら可能だった。

 敵の魔物を圧倒的に攻撃て制覇する。

 相手は攻撃する間もないわけで、防御は心配なかった。

 支援回復要因はパーティーには必要はないというのが結論となる。

 それで破格の勢いでSランクにまで到達した。

 揺るぎない自信があったが、今回は裏目に出る。

 今までの相手とは次元が違う強さに、防御や回復の無さが弱点となり現れたからだ。

「お~い、サリオス、早く回復薬をくれ!!」

「回復薬を頼む!!」

 ジェンティルとムジカからの訴え。

 熱波によってだいぶ体力を消耗したからで、まだ余力のあるサリオスに頼んだ。

 雑用係がいれば雑用係の仕事になるところだが、その雑用係はサリオスが2人とも殺してしまった。

 殺してしまい現在はいなくて、回復薬を使えるのはサリオスのみに。

 2人の必死の要求はサリオスに伝わったけども、直ぐに行動に出ない。

 なぜ回復を使用しないのかと、2人は思ったのは当然。

 何か考えている風に見えるが、理由はわからない。

 この時にサリオスが考えていたのは、回復薬がどこにあるのか考えていたのだった。

 普段からアイテム袋には入れてあるはずだが、そのアイテム袋がなかったからだ。

 どうしてないのか?

 サリオスは頭をそのことに集中する。

 そこで判明したのが、アイテム袋は雑用係が持っていたと。

 雑用係を殺してきた時に、そこにアイテム袋もあったのだと気づいた。

 つまりは死体と一緒に置いて来たと気づいた。
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