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『ヒール 154』

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『ヒール154』


勇者パーティー編


 竜神様は聖なる光の魔法を炎で弾き飛ばす。

 光は消え去り、炎に飲み込まれた形になった。
 聖なる光はサリオスが持つ魔法でも最上位魔法である。

 それを一瞬で飲み込んでしまった炎。

「バカなっ! 俺の魔法が消えた!」

 消えたあとはサリオスの方に接近する炎。

 あり得ない状況となったサリオスは、次の魔法を放った。
 
「聖なる光!」

 同じ魔法であったのは、消えたのはなにかの間違いだろうと信じたいから。

 消えたなどなかったし、過去にも経験がなかったので、信じられない。

 もう一度聖なる光を使用しても、光は飲み込まれ、炎の勢いが勝った。

「勇者の魔法って、この程度かしら?」

「ま、ま、魔法のレベルが違う!」

「あら、どこへ行くの。竜人の剣が欲しかったのでしょ」

「剣は欲しいけど、この魔法とやり合うのは」

 メガフレアを触れて初めてサリオスは恐怖心が生まれた。

 あらためて神の存在を知った感じになる。

 それはサリオスが普段感じない感情だったので、逃げるのは久しぶりの行為になった。

 このままでは危ないとわかった。

 神殿に入り来た通路へと向かうと、走って通路に行った。

 背中から竜神様の逃げるの?と言う声が聞こえたものの、引き返すつもりはない。

 必死になって通路へ。

 自分で壊した入り口の扉に。

 早く神殿から出たい。

 早く神殿から逃げたいと、思った。

 なぜ神殿に来たのかという後悔の考えがサリオスの中に。

 どうして来ちゃったのか。

 あの剣、伝説の剣、竜人の剣が欲しかったから。

 ところが竜人の剣よりも自分の命の方が欲しかった。

 あまりの強さに逃げ出す勇者。

 全力で走り、扉が見えた。
 勇者は壊した扉から光が指すのを見えて安心する。

 扉を蹴飛ばして神殿の外へ出た。

「助かった」

 怖かった。

 とても怖くて逃げて来た。

 自分が殺してきた雑用係の顔が浮かぶ。

 サリオスに殺さないでと言う雑用係の顔。

 虫けらのように殺した。

 自分よりも下の人を見下す快感。

 助けてと言うのを無視する快感。

 圧倒的な快楽だった。

 パーティーから追放した。

 それが今はサリオスが雑用係と同じ位置に逆転した。

 竜人様からの視線は、正にサリオスを雑用係にしか見ていなかった。

 はるか下の人を見る優越感をした視線だったのは忘れられない。

「お~い、竜人の剣は手にしたのかい。私にもみせてよ」

「ジェンティル!!」

 両手を地面についた。
 サリオスが両手を地面煮付けている姿は、ほとんど見てないので、変に思う。

「なぁ、なんかサリオスの様子が変だぞ」

「サリオスにしては、怖かってるわね。珍しい、なんて珍しいの。勇者が怖かったのかな」

「楽しむな」

 サリオスの苦しむ姿を楽しむジェンティル。

 サリオスの付近にまで行ったら、ぶるぶると震えている。

 ダンジョンでどんな魔物にも怖がらなかった勇者がこんなにも震えているのにムジカは異様に感じる。

「お目当ての竜人の剣は持っていないところを見ると、剣は無かった。そして何かがあったのだな神殿で。話してくれ。聞く必要がありそうだ」

「逃げよう早く逃げよう」

「なんて?」

 聞き返すムジカ。

 サリオスの声が小さかったが、逃げようと聞こえたので。

 まさか逃げようと言うわけないから。

「逃げようと言ったんだ。危ないからだ!」

 今度は声の大きさを上げたのでジェンティルにも聞こえた。

「あはははは、逃げようって。どうしたのよ、サリオスらしくない言葉ね、笑っちゃうけど」

「中に入ったら神、竜神様がいた。神が居たんだよ」

「えっ、本当に居たの?」

「ああ、本当だ。神殿内部の箱の中に居た。寝ていたのだが、起こしたらムカついたらしく戦いになった。魔法はえげつなかった」

 恥ずかしい感情はあるも、今は恥ずかしがっている場合ではなく、説明したのだった。

 説明されたジェンティルは、サリオスが怖かって神殿から出てきた理由がわかった。

「それで慌てて神殿から出てきたわけか。じゃあなに、サリオスは逃げて来たわけね。嘘みたい」

「嘘みたいとか言うな!」

「だってあなたが逃げるの、想像したら笑いが」

 ジェンティルはその場で笑い出す。

 勇者が逃げるのを想像したら、思わず笑いが出てきたからで、サリオスには悪いとは思っていない。

「竜神様と戦ったんだ。そして、逃げてきた。それで神様は今はどうしている?」

「わからないよ。しかし怒らせてしまったみたいだ。とにかく神殿から遠くに行こう。ここに居たくないんだ」

 ムジカはサリオスの混乱ぶりから信じるとした。

 ジェンティルとは対象的に深刻に思うのは、ムジカは用心深い性格をしているからだった。

 サリオスの言うとおりに神殿から遠くに行くとし、サリオスがゆっくりと立ち上がった時。

 ドーーン!

 神殿の扉から爆音がした。

 サリオスは立ったまま反射的に振り返ると、

「なんだ!」

「扉が吹き飛んだわ!」

「あああ竜神様」

 サリオスが神殿内で会った少女が扉から出てきて、笑顔を見せていた。

 その笑顔を見たサリオスは身震いする。

 先ほど戦った記憶。

 人を遥かに超えた魔法を体感した。

 あれは人の姿をした悪魔だと感じる。

 そこまでしてサリオスを怖がらせる少女は近くにやって来る。

「あら~勇者殿。私を倒すと豪語していたのに、なぜ逃げていきますの。もっと楽しみたかったから、神殿から出ちゃった。何十年ぶりかしら外に出るのは。外に出るのも悪くないわね」

「もう来るな。俺に近寄るな!」

「剣は諦めちゃった?」

「竜人の剣は欲しい。欲しいさ。でもお前には会いたくないがな」

 怖がりながらも剣を手にしたい欲求は消えていない。

 まだ竜人の剣への執着心はあったのがサリオスらしかった。
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