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『ヒール72』

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『ヒール72』


 ローズだけは緊張した目つきに変わる。
 ミヤマも一瞬にして気合が入り、俺も音を立てないようにした。
 ローズの話では相手は複数人。
 どこから来てるかまでは定かではなく、漠然として館の外らしい。
 ついに来たか?

「ローズ、トレイル、みんなはこの部屋で見ていてください。私の出番がきたのです。一人で外に行くぴょん」
「わかった。ここは約束通りにシシリエンヌに任せる。しかし危なくなったら、全員が支援しに行くが」
「はい、わかったぴょん」
「複数人いるらしいから、気をつけてよ、もしダメならエルフの私が館ごとふっ飛ばす!」
「財産は飛ばすな」
「それでは、行ってきますぴょん」
「頑張れ!」

 盗賊の登場にシシリエンヌが立ち上がり、部屋から出ていった。
 俺達は、部屋にある窓からシシリエンヌの応援となるも、落ち着いていられる感じではなく、落ち着かない。
 盗賊は冒険者からなったものが多いと聞く。
 元々は冒険者で、パーティーにも所属したいたのもいて、戦闘経験はあるとみていい。
 冒険者よりも金が入るならと、冒険者から盗賊になるのが理由。
 世間では生活が苦しい人は多いのはどこも一緒だ。
 生きていくのに食べる金が必要だし、金が全てと言えるのは、冒険者も盗賊も同じ。
 しかし盗賊にもリスクはあり、ギルドや騎士団に捕まったら終わりだ。
 厳しい刑が待っている。
 領主と騎士団の領主派閥の人がそれだ。
 今頃は後悔していても始まらない。
 能力のある冒険者が盗賊に流れたなら、シシリエンヌの身にも危険が降りかかるので、放っておけなくなる。
 
「シシリエンヌが館の中庭に居ます」
「堂々と出ていったな。あれじゃ盗賊に丸見えだ。警備していますと言ってるのと同じだよ」

 入り口の門があり、中庭に繋がる。
 中庭の真ん中にシシリエンヌは立っているのが見える。
 盗賊らしき姿も見えた。

「盗賊だな。明らかに怪しい」
「普通の人じゃないですよ、武器を装備してますし、人数は10
人います」

 ローズが確認して10人と判定した。
 予想よりも多いか。

「盗賊って目立たなくなるよう少人数が基本と思った。10人てシシリエンヌ一人では多すぎでしょ、トレイル、どうするの」
「盗賊で10人は多いよな。普通の盗賊なら。しかし堂々と10人で来たからには自信があると判断出来る」
「そうなるとプロの盗賊団かな」
「部屋から出よう。シシリエンヌの後ろに控えるぞ」
「はい!」

 相手が思った以上の強敵の盗賊団なら落ち着いているわけにはいかなくて、シシリエンヌの後方に向かった。
 後方に行くとシシリエンヌの前に盗賊団はいて、囲むようにしているのがわかる。

「館の警備にしては手薄だな。お前一人とはな」
「一人で戦えるぴょん」
「団長、この女は兎人です」
「珍しいな、売ったら高く売れそうだな。へへへ、領主の財産を奪ったら兎人も確保しておこう。金になるからな」
「その前に倒すぴょん」

 会話の内容から、盗賊団だったのは伝わった。
 しかもシシリエンヌを売ると言った。
 領主も悪いがこの盗賊団も同じく悪そうだ。

「兎一匹で我ら盗賊団を倒すか。みなどもよ、生意気な兎人を取り押さえろ、そして後悔させてやれ、暗闇の牙にはむかったらとうなるかを!」
「団長、わかりました!」
「思い知らせてやれ!」

 団長と呼ばれる男。
 そいつは自分を暗闇の牙と呼んだ。
 シシリエンヌに複数人の盗賊がいっせいに襲いかかる。
 
「暗闇の牙て知ってるか?」
「知ってます。私が知っている暗闇の牙なら、Cランクの冒険者パーティーと同じくらいの力はあるはずです。それと団長と呼ばれた男は、ウィザード。悪い方で有名人」

 ローズからの情報ではあまりよろしくない奴らしい。
 見た目からして盗賊風に悪い感じするし、シシリエンヌが不安だな。
 ウィザードの仲間の盗賊が先に襲いかかる。
 数は圧倒的に上。
 剣やナイフ、オノを持った盗賊もいて、全員が男だ。
 体はシシリエンヌよりも遥かに大きく、腕も太い。
 対してシシリエンヌは槍。
 体に似合わぬ立派な槍を構えているが、一発でシシリエンヌがなぎ倒されるのが想像できてしまった。
 
「魔神の槍ぴょん!」

 盗賊がいっせいに襲いかかるとシシリエンヌはその場で跳ねる。
 跳躍力は凄い。
 人の二倍は跳躍した。
 盗賊は剣やナイフを振り下ろしたが、シシリエンヌは盗賊の視界から消えて居なかったらしい。

「消えた!」
「上だ、飛び跳ねているんだ!」

 シシリエンヌが槍を上から突き刺すようにして落下。

ドスン!
ドスン!

「ぐわあ~~~」

 盗賊達に突き刺さる槍。
 頭上から来る攻撃は防御しにくいのか、全員が槍の攻撃を受けていた。

「凄い、シシリエンヌ!」
「槍を刺した!」
「ウィザード、兎人に刺されました」
「ただの兎じゃないようだな。お前達、起きろ、兎一匹に負けて悔しくないのか!」
「やろ~、兎だと思って舐めてたぜ!」
「シシリエンヌ、まだ起き上がってくるよ!」
「私の魔神の槍を受けて立てるとは褒めてやりますぴょん」
「何がぴょんだ。調子にのるな!」

 起き上がってきた盗賊。
 目つきが最初とは違い鋭い。
 本気の攻撃に思えるが。

「魔神の槍ぴょん!」
「また跳ねるぞ!」
「2度も喰らうかよ!」

 同じ槍の攻撃をした。
 盗賊は今度はわかっているだろうから、防御されるかもだ。
 シシリエンヌは空中から盗賊に槍を狙い定める。
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