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『ヒール12』

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『ヒール12』


「ピンク、お父さんが回復魔法士を呼んで来たからな、もう案内だよ」
「はい」

 俺が来るのを待ちわびていたようだ。
 凄いプレッシャーですが。

「はい」
「どうも俺はトレイル。キミに回復魔法を使うために来たんだ。大丈夫かい?」
「トレイル、元気が出ないの。お願いします……」

 ピンクは元気のない声で答えるのがやっとだった。
 それを見て、なんとしても治してみたいと思った。
 回復魔法士を名のる者として、せめて努力だけでもしたいと。

「トレイル、お願いします娘にヒールを」
「はい、やってみます。俺のヒールは特殊なヒールですので、効果のところは俺にもわかりませんが……魔王竜ヒール!」

 いつものとおりにヒール魔法をしてみる。
 本当に大丈夫かな。
 いくら魔王竜とはいえ、上位回復魔法でも治らない病気まで治せるをものなのか……。
 ピンクはヒールしてから、少しの間は目を閉じていたら、目を開いた。

「あっ、お父さん、元気になったかも!」
「本当にか!」
「うん、ほら、ベッドからも起き上がれるよ、トレイル、ほらね!」
「良かったなピンク。もう大丈夫だな!」
「トレイル、魔王竜ヒールはこんな能力もあるみたい」
「俺も知らなかったけど。治ってるなら、嬉しい」

 ローズが言うように魔王竜ヒールはまだ俺の知らない力を持っていそうだ。
 魔王だから、これくらいは出来ると言われたら、確かにそうも言えなくもない。

「ありがとう、トレイル。キミに頼んで正解だった。噂に聞いた天才だ!」
「いや、俺は天才とかじゃないですよ!」

 ちょっと嬉しいので、照れてしまう。

「ピンクが元気になって私たちは帰ります」
「ちょっと待ってくださいローズ、トレイル」

 もうピンクが回復したから用事はない。
 帰ろうとした時に、呼び止められる。
 まだ何か俺にヒールして欲しいのかな?

「まだヒールですか?」
「これをどうぞ……娘を回復してくれたお礼です。うちは貴族の家。この程度ですが受け取りください」
「あっ、ありがとうございます」

 俺の手に渡されたのは大金だった。
 回復したお礼は貰う予定はなかったけど、コージは貴族らしいし、お金持ちらしいからもらっておこうと。
 確かに家は立派な家だなと思ったし、身なりも騎士風で風格があった。
 お金を受け取り家を後にした。
 コージとピンクが手を振ってくれるから、俺とローズも手を振る。

「こんな大金もらえるなんてね」
「うん、俺も驚いたけどさ、100万必要なわけだし、もらっておいたよ」
「100万に足りそうなの?」
「足りてる。ギルドに行こう。契約の仲介は受付嬢がする」
「これで、私は自由になれるのかな……」
「なれるとも! ローズはバーニングから自由になれるさ!」
「嬉しい!」

 直ぐに冒険者ギルドへと向かう。
 受付嬢に相談し、100万バルを渡した。

「トレイル。しっかり100万バルを預かりました。これをバーニングに渡します。ローズは契約にあるようにバーニングから開放されます」
「良かったな!」
「うん!」

 ホッとしているローズ。
 受付嬢の口から直接に言われるまでは、信じられなかったのかもな。

 パチパチ……。
 するとギルド内からは拍手が起きた。
 ローズの方を向いての拍手。

「おめでとうローズ!」
「100万返せるとは思わなかったぜ!」
「ありがとう、です!」

 100万を返済したのを喜ぶ冒険者達の拍手だった。
 これでバーニングとローズ、俺も無関係になった。
 もう何も言われることはないし、気を使うこともない。
 ローズが抱きついて来るのを俺は受け身した。
 大きな胸が弾力いっぱいであった。
 このままずっとローズと抱きあっていたいな。

「ひゅ~、仲がいいこと。トレイル君、契約した100万は用意したのは褒めてあげよう」

 その声は聞き間違えることはない。
 バーニングの声。
 ギルドに来ていたのか。

「受付嬢に金は渡した。これであなたとも会うことはないだろう」
「それは違うな。ローズは返してもらおう」
「どういうこと?」

 ローズが俺と離れて言った。

「100万バルは奴隷商人に売り渡すのを止める金だ。ローズはまだ俺の物だ。完全にトレイルに引き渡すには、さらに100万バルを用意しろ。明日までにな」

 いきなり無茶な要求を押し付けてくるバーニング。
 あいかわらず、要求するのと金が好きな男だ。
 
「待て、そんなの無茶苦茶だ!」
「そうよ、大嘘つき!」
「なんとでも言え、俺は初めから言った。ローズは俺の物だ、やれっ!」
「きゃあっ! トレイル!」
「ローズ!」
「放せっ!」

 バーニングの仲間に俺は拘束されてしまうと、ローズも連れ去られる。
 背後から来られてしまい、不意をつかれた形だ。
 人数も多く、汚い連中だ。
 ギルドに居る冒険者もバーニングとは付き合いたくないらしい。
 拍手していた人も急に視線を外した。
 まるで知らないふりだ。

「じゃあなトレイル君。しっかりと100万バルを用意するのだぞ!」
「あははははは!」

 仲間とともにローズを連れ去る。

「トレ……」

 ローズは口をふさがれていた。
 俺は拘束されているおかげで、見動きできなかった。
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