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第2章
危機
しおりを挟む「なんだそのアホみたいな面は」
予想もしていなかったその人物は、僕を嘲笑う。
なぜ、この人がここに、マリーノ王国にいるのか。どうして、僕の居場所を知っているのか、全く、理解ができない。
同様で声が出せずにいる僕に何故か苛立ったその人は、顔を歪ませて再び嘲笑う。
「なんだ、自分の兄の名前さえ呼べないのか?」
僕の右目とほぼ反対色の瞳を持つ彼は、自分の兄である、ヒューズ・キタラだった。
「なんでここにいるのかわからないっていう表情がただ漏れだぜ」
「...」
「理由は簡単だ。昨日からお前をつけてたんだよ、メニルに頼まれてな」
メニルも、行動を起こしているみたいだ。...そんな簡単に敵と言えるであろう人間に言ってしまって良いのかは定かではないが、コレは重要な証言になる。
「それで、何故僕を捕まえたのですか?」
「ああ、お前喋れたのか。だが残念だ。メニルはお前を捕まえてあいつの元へ持っていくように言われただけで、理由は言われていない」
「...では、何故メニルに協力しようと思ったのですか?」
ヒューズのメニルに対する口調は、特別好いているそれではないし、仲が良さそうなところは一切見かけなかった。普段メニルは、バトラに必死になっているからだ。
「...利害関係が成立したからだ」
「利害関係?」
「あいつは邪魔者を排除できる。俺は怨念を晴らすことができる。それだけだ。」
そう言ってヒューズはニヤリと笑う。2人とも、僕を害すことが目的だったらしい。思っていたより早く対立することになりそうだ。まず僕の身が保つかわからないが。
「もうすぐ迎えが来る。これからお前の身にかかることを想像して恐怖しながら待つことだな」
ヒューズは僕の不安を駆り立てるように、そんな不吉なことを言ってみせる。
「お前の大切な大切なイル・ヴァディエも、今頃どうなっていることだろうなあ」
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、僕はヒューズに飛びかかろうとしたが、柱につながれている体では、どうすることもできなかった。
「がはっ!」
急に腹へ衝撃がはしる。ヒューズが僕を蹴ったのだ。
「反抗しようとしてんじゃねえよ!!」
「ぐぅっ、」
ヒューズは僕を蹴り続ける。
「お前がヴァディエ家に入った時からおかしくなったんだ!!今までのようにおとなしく従って引きこもっていればよかったんだよ!!」
蹴られ続けて何分経ったのだろう。ヒューズは疲れたのか、蹴るのをやめた。痛みと絶望で心が折れそうになる。
そんな僕を見下ろしながら、ヒューズは憎しみに満ちた言葉を投げつける。
「ふんっ、ざまあないな」
ヒューズはそれだけ言うと、さっさと部屋を出ていこうとする。
「...ま、待って、兄さ...」
立ち去ろうとするヒューズを呼び止めるが、彼は振り返りもせずに言い放つ。
「お前を弟だと思ったことは一度もない」
「っ」
その言葉には、聞き覚えがあった。
『お前を弟だと思ったことは一度もない』
そう言われたのは、いつのことだっただろうか。
親に愛されていなかった僕は、兄弟とも、仲が良くなかった。兄とも、弟とも。
兄と弟は平凡な僕に比べて顔も良く、勉学も運動もできる優秀さで、友達も多くいた。全てにおいて完璧な2人の唯一の汚点が僕だと思っていたんだろう。2人は、僕と同じ空間にいることを嫌い、常に僕を避けて行動していた。
それでも僕は、血の繋がった家族として、どうにか仲良くしたかった。だから、中学生のときに一度、兄を「兄さん」と呼んでしまった。
「なんだい」でも、「なに」でもいいから、応えてくれると少しでも期待した僕が馬鹿だった。彼は美しい顔を歪ませて、「お前を弟だと思ったことは一度もない」と吐き捨ててその場を去ってしまった。
運悪くそこに居合わせてしまった弟には、「こんな人と血が繋がっているなんて理解できない」とまで言われてしまった。小学生の弟に。
そんな過去を思い出して、なにも答えないでいた僕に、ヒューズは勘違いしたのか嘲笑してこう言った。
「なんだ、弟じゃないと言われて悲しかったのか」
「ちがっ...」
いや、違わないのかもしれない。大した情もない人に弟じゃないと言われて、何故こんなに心が痛むのだろう。涙が出そうになるのだろう。前世の兄だって、ヒューズだって、生まれてから今まで弟らしい扱いはされていなかったのに。
押し黙ってしまった僕に、ヒューズは顔を歪ませて無言でこの部屋を出ていった。
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