悪役令息の取り巻きになっても、音楽はできますか?!

ユパンキ

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第2章

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 「コホン。聞きたいことがあるのだが、最近のマリーノ王国の、他国との関係は存じているか?」
 バトラが話の流れを変えてくれた。やっと、本題に入る。
 
 「うーん...どうなんだろうなあ。うちのお貴族さんは、あまり平民に情報を伝えてくれんからなあ」
 活気のあるお爺さんが答える。周りも、「知ってるか?」「知らねえな」という声ばかりだ。

 「...確信は出来ないけど、一個、興味深いことを聞いちゃったんだよねぇ」
 優しそうな女の人が手を挙げながら発言する。
 
 「この前、教会の人間がここに来てたんだけどね、あまりにも珍しかったものだから、少々盗み聞きをさせてもらったんだ」
 「教会の人間がここに来るなんて珍しいなあ」
 「そうなの。それで、話の途中にね、何回も『ウィール王国』って言葉が出てきたのよ」
 「「!!」」
 僕とグランは顔を見合わせる。重要そうな予感がする。
 
 「他に、なにか聞き取れたことはないだろうか?」
 グランもそう思ったのか、女の人に探りを入れる。
 
 「そうねぇ、『イストリア教会』も結構出てきてたわ。イストリア教会は、うちの国の中心地にある教会ね。ウィール王国と何か関わりがあるのかしら?」
 「ウィール王国って東隣の国だよな?」
 「戦争しない国として有名だよな!」
 平民は特別ウィール王国に何かを抱いているわけではないようだ。ということは、やっぱり王室が独自で進めようとしているのだろうか。

 「イストリア教会...」
 ウィール王国とはだいぶ離れているが、何かしらの関わりがあるかもしれない。グランを見やると、彼と目が合った。彼は頷き、それから女の人にお礼を言う。

 「とりあえず、助かった。ご協力感謝する」
 「いいのよ。そういえば、あなたたちはどこの国の留学生?」
 
 「...ウィール王国です」
 グランが正直に言うとは思わなかった。彼も平民は安心しても良いと判断したのだろうか。

 「あら、そうなの?じゃあ今の話を聞いて心配になっちゃったかしら...何もないと良いわね..」
 「お気遣い、ありがとうございます」
   
 さっきのお爺さんが、何か考えるような仕草をとっている。何か引っ掛かることでもあったのか?
 「...つい先日、ウィール王国から来た奴がおったなあ」
 お爺さんが難しい顔をして話す。
 「そやつ、どうも傲慢な雰囲気でな、挙げ句の果てに『僕は未来の王妃だ』なんて言っていた。加えて、『そのためにはまずウィール王国の邪魔な奴らを始末しなきゃ』だとかなんとか...物騒なやつだったわい」
 
 「もしかして...」
 それはメニルなのでは?そんなこと言う人、メニル以外に考えられない。ウィール王国を始末するだとかは、メニルが王妃になるためにマリーノ王国と共謀しようと...?でも、矛盾点がある。もしウィール王国がマリーノ王国に侵略されてしまったら、ウィール王国の王室は無くなり、メニルは王妃になることは叶わない。
 ...余計にわけがわからなくなってきた。

 グランもその傲慢な奴の正体を確信したのだろう。一瞬僕の方を向くと、また皆んなの方に向き直して礼をした。
 
 「貴重な時間と情報をありがとう。僕たちは、これで失礼し..「待ってくれ」」
 言い終わるところで、先程までライブをしていた人が、この場を離れようとしていた僕たちを止める。
 
 「お兄さんたち、折角だから一曲やっていかないかい?」
 「え?」
 「綺麗な兄ちゃん、さっき俺たちがライブやってたとき熱心に見ていただろう?僕もやりたい!って顔で見てたからつい気になったんだ」
 確かに熱心に見ていたが、そこまでダダ漏れだったとはつゆ知らず、とても恥ずかしくなってきた。

 「えっと...」
 やりたいけど、次のところに行かなくてはならない。...やりたい..けど!!

 「やってきたらどうだ?」
 グランが笑顔で送り出す。...いいの?!
 されるがままギターを渡され、演奏者のお兄さんの隣に立つ。
 
 「ハンサムな兄ちゃんも、なにかやるかい?2人でやったら、きっと絵になるだろうなあ」
 と、お兄さんがさりげなくグランを誘う。グランは一回考えるふりをしたあと、
 「笛なら吹けます」
 と答えた。グラン、笛吹けるんだ。少し珍しい。

 「笛かい。うーん、ここには無いなあ。...そうだ!そこの楽器屋から貰ってくるよ!」
 そう言って、お兄さんは走っていった。

 「...今、貰ってくるといったな。」
 「...そうですね」
 確かに、貰ってくると言った。買ってくるではなく。さっきののお爺さんが言うには、「あそこの店主はサービス心旺盛だから、理由を言ったらすぐ無料でくれるんだよ」らしい。....赤字にならないのか不思議だ。

 しばらくして、お兄さんが笛を持って戻ってきた。
やはり完全無料で貰ったらしい。グランは、「あとでお金を払いに伺う」と言いながら笛を受け取る。                  
 なぜか2人でセッションをすることになってしまったが、笛と合わせたことは一度もない。僕の不安を感じ取ったのか、グランは「大丈夫だ。君のギターに合わせる」と言った。
 
 即興でなんとかギターを弾いていると、隣から小鳥が飛んでいるような、軽やかな笛の音が聞こえた。音に誘われて、やってくる聴衆がだんだんと増えていった。みんな僕たちの演奏を楽しんでくれて、音に合わせて踊る人まで出てきた。
 
 すっかり楽しくなってしまい、ニコニコの笑顔でグランの方を向くと、グランもそれに応えて笑いかけてくれた。普段、学園では全く笑顔を見せない堅物として有名だから、こんなに笑いかけてくれると勘違いしたくなってしまう。
 きっと彼もこの場を楽しんでいるだけだと自分に言い聞かせて、高鳴る気持ちをそっと胸の奥にしまった。
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