悪役令息の取り巻きになっても、音楽はできますか?!

ユパンキ

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第2章

会話

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 1週間が経ってしまった。
 ついに、調査が始まる。大量の荷物を持って別荘まで馬車で向かう。イルたちは、違う別荘に泊まるみたいだ。だから本当に、2人きり。ロネの言った通り、グランにちゃんと謝罪して、話し合ってみようと思う。ロネは、会話が大事だって言っていた。僕とグランの会話が成立したことはあまり無いけど、それでも、話し合いたい。
 ここに来る前、事前に会議という名目で、別荘に着いたらまず話し合う予約を入れておいた。案外グランはすぐに頷いてくれた。
 
 そしてついに、話し合いの時。
使用人は何人かいるけど、あまり干渉してくることはないので、ほぼ2人きりの場だ。
 僕たちは向かい合って座ると、グランはすでに用意されていたお茶に口をつける。この使用人がどういう価値観のもとで働いてるのかは分からないが、赤目に偏見がないかがはっきりしていない人が入れたお茶を飲むのは、まだ恐怖心が勝ってしまう。僕はお茶を飲まずに話を始めることにする。
 
 「本日は、お疲れ様でした。急にこの場を設けてしまったことを申し訳なく思っております。」
 「構わない」
 相変わらず冷徹な話し方だが、ロネに背中を押してもらったからか、以前より話しやすい。

 「まずは、幼少期の愚行を謝罪させてください。本当に、申し訳ございませんでした」
 「...」
 「これから話すことは、貴方にとって理解し難いものとなるかもしれません。」
 それから、以前ロネに話した事と同じような内容でグランに伝えた。彼は一度も驚かずに僕の話に耳を傾けていた。

 「再三にわたり、僕は貴方を傷つけてしまった。一生憎むべきことです。一緒に過ごすことなんて以ての外だと思います」
 手が震える。今すぐ目線を下に向けたい。前世でも多かったが、こっちに来てから赤目ということもあり目を逸らすことが癖になってしまった。でも、伝えたいことがあるときは目を離しちゃいけない。だから、グランの目を見て話す。

 「ですが、今回の調査が終わるまででいいんです。僕と協力してくださいませんか。」
 お願いします。そう言って頭を下げる。今回の調査はイルと僕の今後がかかっているといっても過言ではない。だから、どうにか真実を追い詰めたいんだ。なれるものなら、グランと、本当は他の人たちとだって仲良くなりたい。けど、なれるわけがない。彼にとって僕と仲良くするメリットなんてないし、逆に僕と一緒にいることで、彼の評判を悪くさせてしまう。
 だから、この期間だけでいいから...
 
 「俺の気持ちを勝手に決め付けるな」
 グランは怒りと悲しみが混ざったような表情をしていた。

 「俺がいつ、君を嫌いだと言った?憎んでいると言った?君は...自分が嫌われていると思い込んで、勝手に落ち込んで、勝手に安心したいだけなのだろう」
 ...そうだった。僕は嫌われ者だって思い込むことで、酷い態度を取られても、それが安心材料になっていた。でも、苛烈なやり取りをしてから大した会話もしてないのに、どうして僕のことを嫌いじゃ無いんだろう。小説では学園に入る前にはとっくにエウテルのことを嫌いになっていたのに。
 そんな僕の疑問を表情から読み取ったのか、彼はまた口を開いた。
  
 「それに俺は君といつも会っ......いや、なんでもない。数回しか会ったことがないのに、それで人を嫌うような人間だと言うのか」
 「そんなことは...!」
 「ならもう勝手に決め付けてひとりで悲しむな」
 「え」
 グランから、そんな優しい言葉が出るとは思わなかった。いや、迷惑だと言う意味だったのかもしれない。でも、彼のおかげで、自分の考えがおかしいと言うことに気づけた。

 「ありがとうございます。自身の、考えを改めてみます」
 「....他人を頼れ」
 それはもう、しすぎていることだ。ずっと、イルや、周りの人たちに。
 頷けずに黙っていると、グランはフッと笑って

 「君は本当に頑固だな」
 と言葉をこぼした。




 ーーーーーーーーー
 
 空気が和んだところで、今日はお開きになった。
だが、しかし!!何故か寝室がひとつしかなかったのだ。確か出発する前、バトラが「別荘といっても、1人用のやつだから少し狭いが許してくれ」とか言ってた気がする。ここに来た時、使用人が僕とグランを見て顔を染めていたのはそういうことだったのか!!...どうか勘違いしないで欲しい。しかしどうする...

 「...僕、客室のソファで寝ますね!」
 他にベッドが無いならソファだ。これなら多少は寝れるだろう。
 「...いや駄目だ。」
 「え」
 「少し狭いが2人なら充分に寝られる。明日から忙しくなるんだ。疲れはとっておいた方が良い」
 
 ...僕のことを嫌ってないのがわかって、恐怖はもうあまり無いんだけど、じゃあ次、何を思うかって...“恥ずかしい”だ。
 もじもじヴジヴジを繰り返している僕を見て、グランはため息をつき、
 
 「嫌なら...悲しいが俺がソファで寝よう。体力は君よりあるからな」
 「そ、それはダメです..!!」
 「では、2人で寝るしか無いな」
 「う...わかりました」

 だめだ、あっさり決まってしまった。グランの方が頑固だよこれ!!とりあえず、しょうがない。恥ずかしいとかそんな感情は捨てて、寝ることだけに専念しよう。そうすれば大丈夫なはず...


 ーーーーーーーーー
 
 ...思ったよりも距離が近くてドキドキが止まらない。どうすればいいんだ。ついさっきまでグランに怯えていたくせに、なんだこの心の変わりようは..グランは意外とすぐに寝てしまって。僕ひとり悶々としている。

 ギュ...
 「!?!?」
 な、な?!グランが...抱きついてきた...!?もしかして、抱き枕とかいつも常備してる系の人なのか?!もう心臓がもたない。
 結局、極度の緊張からか、気絶するように眠りについた。
 
 
 
 





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