35 / 42
第2章
会話
しおりを挟む1週間が経ってしまった。
ついに、調査が始まる。大量の荷物を持って別荘まで馬車で向かう。イルたちは、違う別荘に泊まるみたいだ。だから本当に、2人きり。ロネの言った通り、グランにちゃんと謝罪して、話し合ってみようと思う。ロネは、会話が大事だって言っていた。僕とグランの会話が成立したことはあまり無いけど、それでも、話し合いたい。
ここに来る前、事前に会議という名目で、別荘に着いたらまず話し合う予約を入れておいた。案外グランはすぐに頷いてくれた。
そしてついに、話し合いの時。
使用人は何人かいるけど、あまり干渉してくることはないので、ほぼ2人きりの場だ。
僕たちは向かい合って座ると、グランはすでに用意されていたお茶に口をつける。この使用人がどういう価値観のもとで働いてるのかは分からないが、赤目に偏見がないかがはっきりしていない人が入れたお茶を飲むのは、まだ恐怖心が勝ってしまう。僕はお茶を飲まずに話を始めることにする。
「本日は、お疲れ様でした。急にこの場を設けてしまったことを申し訳なく思っております。」
「構わない」
相変わらず冷徹な話し方だが、ロネに背中を押してもらったからか、以前より話しやすい。
「まずは、幼少期の愚行を謝罪させてください。本当に、申し訳ございませんでした」
「...」
「これから話すことは、貴方にとって理解し難いものとなるかもしれません。」
それから、以前ロネに話した事と同じような内容でグランに伝えた。彼は一度も驚かずに僕の話に耳を傾けていた。
「再三にわたり、僕は貴方を傷つけてしまった。一生憎むべきことです。一緒に過ごすことなんて以ての外だと思います」
手が震える。今すぐ目線を下に向けたい。前世でも多かったが、こっちに来てから赤目ということもあり目を逸らすことが癖になってしまった。でも、伝えたいことがあるときは目を離しちゃいけない。だから、グランの目を見て話す。
「ですが、今回の調査が終わるまででいいんです。僕と協力してくださいませんか。」
お願いします。そう言って頭を下げる。今回の調査はイルと僕の今後がかかっているといっても過言ではない。だから、どうにか真実を追い詰めたいんだ。なれるものなら、グランと、本当は他の人たちとだって仲良くなりたい。けど、なれるわけがない。彼にとって僕と仲良くするメリットなんてないし、逆に僕と一緒にいることで、彼の評判を悪くさせてしまう。
だから、この期間だけでいいから...
「俺の気持ちを勝手に決め付けるな」
グランは怒りと悲しみが混ざったような表情をしていた。
「俺がいつ、君を嫌いだと言った?憎んでいると言った?君は...自分が嫌われていると思い込んで、勝手に落ち込んで、勝手に安心したいだけなのだろう」
...そうだった。僕は嫌われ者だって思い込むことで、酷い態度を取られても、それが安心材料になっていた。でも、苛烈なやり取りをしてから大した会話もしてないのに、どうして僕のことを嫌いじゃ無いんだろう。小説では学園に入る前にはとっくにエウテルのことを嫌いになっていたのに。
そんな僕の疑問を表情から読み取ったのか、彼はまた口を開いた。
「それに俺は君といつも会っ......いや、なんでもない。数回しか会ったことがないのに、それで人を嫌うような人間だと言うのか」
「そんなことは...!」
「ならもう勝手に決め付けてひとりで悲しむな」
「え」
グランから、そんな優しい言葉が出るとは思わなかった。いや、迷惑だと言う意味だったのかもしれない。でも、彼のおかげで、自分の考えがおかしいと言うことに気づけた。
「ありがとうございます。自身の、考えを改めてみます」
「....他人を頼れ」
それはもう、しすぎていることだ。ずっと、イルや、周りの人たちに。
頷けずに黙っていると、グランはフッと笑って
「君は本当に頑固だな」
と言葉をこぼした。
ーーーーーーーーー
空気が和んだところで、今日はお開きになった。
だが、しかし!!何故か寝室がひとつしかなかったのだ。確か出発する前、バトラが「別荘といっても、1人用のやつだから少し狭いが許してくれ」とか言ってた気がする。ここに来た時、使用人が僕とグランを見て顔を染めていたのはそういうことだったのか!!...どうか勘違いしないで欲しい。しかしどうする...
「...僕、客室のソファで寝ますね!」
他にベッドが無いならソファだ。これなら多少は寝れるだろう。
「...いや駄目だ。」
「え」
「少し狭いが2人なら充分に寝られる。明日から忙しくなるんだ。疲れはとっておいた方が良い」
...僕のことを嫌ってないのがわかって、恐怖はもうあまり無いんだけど、じゃあ次、何を思うかって...“恥ずかしい”だ。
もじもじヴジヴジを繰り返している僕を見て、グランはため息をつき、
「嫌なら...悲しいが俺がソファで寝よう。体力は君よりあるからな」
「そ、それはダメです..!!」
「では、2人で寝るしか無いな」
「う...わかりました」
だめだ、あっさり決まってしまった。グランの方が頑固だよこれ!!とりあえず、しょうがない。恥ずかしいとかそんな感情は捨てて、寝ることだけに専念しよう。そうすれば大丈夫なはず...
ーーーーーーーーー
...思ったよりも距離が近くてドキドキが止まらない。どうすればいいんだ。ついさっきまでグランに怯えていたくせに、なんだこの心の変わりようは..グランは意外とすぐに寝てしまって。僕ひとり悶々としている。
ギュ...
「!?!?」
な、な?!グランが...抱きついてきた...!?もしかして、抱き枕とかいつも常備してる系の人なのか?!もう心臓がもたない。
結局、極度の緊張からか、気絶するように眠りについた。
16
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

婚約者の恋
うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。
そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した!
婚約破棄?
どうぞどうぞ
それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい!
……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね?
そんな主人公のお話。
※異世界転生
※エセファンタジー
※なんちゃって王室
※なんちゃって魔法
※婚約破棄
※婚約解消を解消
※みんなちょろい
※普通に日本食出てきます
※とんでも展開
※細かいツッコミはなしでお願いします
※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。

使命を全うするために俺は死にます。
あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。
とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。
だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった
なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。
それが、みなに忘れられても_
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる