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第2章

調査

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 あれからイルは大丈夫なのか心配になったので、明日の昼に聞いてみることにした。入学してからずっと、お昼はイルと過ごしているからだ。
 ちなみに、グランとのあの会話の後、無言が続いてしまった(僕をじっと見てた?)ため気まずくなって「そ、それではまた明日..」と言って逃げてきた。いじめてくるやつの方が怖いのに、なぜか彼からは逃げたくなってしまう。後ろめたいこともないのに。

 
 次の日の昼、早速イルに昨日のことを聞くと、イルは顔を赤く染めて事情を話してくれた。
 驚きすぎて2度聞いてしまったが、なんとバトラとイルはずっと両片思い状態だったのだ。加えて、バトラがメニルと一緒にいることが多かったのは、メニルのいた、ニアマライア教会の陰謀を探るためだったとか。

 「そ、その...僕、ファーストキスを奪われちゃった...」
 「え!?」
 もうそんなところまで...やる事が早いのではと思ったが、それよりも両思いだということが何よりも嬉しい。イルの努力が報われる一歩目だ。バトラがイルのことをどのくらい好きかわからないけど、メニルを犯罪の関係者としか見ていないのであれば、僕たちが断罪される可能性も格段になくなるだろう。
 
 「本当におめでとう、イル」
 「ありがとう!」
 そう言って幸せそうな顔をするイルは、やっぱり可愛い。イルが別の人に夢中になっちゃうのは寂しいけど、これもイルが幸せになるためだと思って我慢する。僕も自立しなければいけないしね。

 「それで、急なんだけど、そのメニルの調査に僕とルテも参加することになったんだ。...グランも、バトラの護衛騎士で一緒にいるから、参加するらしい..」
 「え」
 急情報すぎる。

 「もし嫌だったら断ってもいいんだよ!めんどくさいことに巻き込みたくないし...でも、最近メニルの親衛隊みたいなのができたっぽくて、調査に苦戦しているみたいなんだ」
 イルの頼みなら断るわけがないが、親衛隊ができているとは思っていなかった。小説ではそんなの無かったし。

 「わかった。僕も調査に参加するよ」
 断罪のフラグは折れるだけ折ったほうがいい。
 「ありがとう!!それで...またまた急なんだけど、明日の放課後に4人で会議するらしくて」
 空いた口が塞がらない。直接会うのには覚悟がいるものだ...


ーーーーーーーーー 
 そして次の日の放課後。結局会議に行くことになってしまった。緊張するがこれもイルのためと思おう...!
 学校のガーデンルームのようなところにイルと一緒に向かうと、バトラとグランの2人はすでに来ていて、お茶を嗜んでいた。
 
 「遅くなりました..!」
 急いで席に着く。うぅ..グランと向かいになってしまった。緊張して目が合わせられない...
 
 「俺たちが早く来ただけだが気にするな。
イル、こちらにおいで」
 バトラはそう言って、イルを自分の膝上に招く。...大胆だ!!
 
 「もう...真剣な話し合いなんだからおふざけはやめてください」
 イルが顔を赤くしながら怒る。これもまたイルの幸せなら、ありがたく傍観するに限る。
 「言っておきますけど、ルテが困るようなことをしたら、容赦しませんからね!」
 どんなときでも僕を気にかけてくれるイルはやっぱり優しい。そんなイルに愛されてるバトラが少し羨ましい。
 
 「ほう...イルはエウテルを心底愛しているのだな。嫉妬してしまうぞ」
 「バトラ様!!!」
 痴話喧嘩なのかよく分からないが、僕を巻き込まないでくれるとありがたいです...


 「殿下、そろそろ本題に入りましょう」
 グランが話を促してくれ、会議が始まった。

 「まずは、メニル・リードレのことだが、平民出身で、ニアマライア教会に身を置いていたことは皆知っているな?」
 メニルについては小説の内容を覚えていたのでおおよそ分かる。皆んなが頷くと話を再開する。
 ニアマライア教会がマリーノ王国と繋がっていて、このまま放置しておけばウィール王国はいつかマリーノ王国に侵略されてしまうらしい。そのため、ニアマライア教会にいたメニルから情報を得ようと探りを入れることにした。

 「そこでだ、その調査を皆にも協力してもらいたい。今までの調査によると、おそらく、メニルもこの一件に関わっている。なんとか証拠を掴むために、人員を増やしたいのだ。」
 やっぱり、メニルは関わっていたのか。小説には教会の陰謀なんて書かれていなかったから、唯一小説とは違うイルの仕業なのかと疑っていた。そこにマリーノ王国が好機だと付け入ったのかもしれない。

 「もしかしたら、メニルは関わっているどころか、この陰謀の根幹に係っているのかもしれません」
 イルも、メニルが原因だと考えているみたいだ。

 「その可能性も大いにある。動機を聞きたいところだが、まずは....1週間後から、夏期休暇がある。そこでなるべく証拠を掴みたい。」
 この学園にも夏休みがある。約2ヶ月半と、前の世界より少し長い。小説では、この期間で、イルとエウテルが手を組んだ。
 
 「そこで、二組に分かれて行動しようと思う。ニアマライア教会付近での調査と、マリーノ王国での調査だ。どちらも相手にあまり気づかれないように行動して欲しい」
 「もちろん、イルと俺は一緒だ。つまり、グランとエウテルで一緒に行動してもらう。イルが奪われてしまっては、調査などやっている場合では無くなってしまうからな」
 そうニヤリと笑うバトラが悪魔に見えてきた。長い期間、グランと一緒なのか...絶対に何かやらかしてしまう気がする...!!当のグランは表情一つ変えず何故か僕を見ていた。
 助けを求めイルを見ると、イルはバトラの言葉に顔を赤くしていた。
 
 ....仕方ない、頑張るしかない。

 
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