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第2章
恋〈イル視点〉
しおりを挟むメニルと初めて会ってからというもの、あちらから行動を起こすことがなかったので、こちらも無闇に動くことは控えていた。油断してたといえば、そうなのだろう。このままの生活が続いてくれれば、と思っていた。しかし、天は味方してくれないのだろう。自分の願った通りになるわけがなかった。
ルテと校舎の階段を下っていたとき、前に歩いている人が急に落ちたかと思えばそれはメニルで、何故か僕が突き落とした犯人に仕立て上げられようとしていた。しかし、本当に最悪なのはこの後だ。騒ぎを聞きつけて、バトラがここに来てしまった。このような状況を見られてしまったら、断罪への道が近づいてしまう。...それに、好きな人に嫌われるのは怖い。
色々な恐怖から、頭が混乱して思考停止状態。バトラからの質問さえも、答えることができなかった。
幸い、ルテが機転を効かせて話してくれたから助かったものの、あのバトラの冷たい視線が、脳裏にこびりついて離れない。メニルに初めて会ったときの一件から、バトラと仲良くしようと思って行動してみても、大体メニルと一緒にいて近づくことさえ許されなかった。だから、もしかしたら、すでに愛想を尽かされているかもしれないと考えてしまう。
早くこの場から離れたかったと言う思いが伝わったのか、ルテが行こう、と促してくれた。しかし、何故かバトラに呼び止められた。僕を貸してほしいとルテに頼んだのだ。驚きを隠せなかった。ルテが笑って頷いてくれたので、とりあえず承諾して、僕とバトラは一通りが少ない庭へ移動して、そこにあるベンチに座った。
「どうか、今までのことを詫びたい。すまなかった、イル」
沈黙が続くと思ったが、案外早くバトラが口を開いた。謝罪、か。何に対してのだろう。婚約者がいるのにも関わらずメニルと2人きりでよく会っていたこと?今回の騒動で誤解したこと?なんて答えたらいいのかわからなくて言葉が出ない。
「...」
「...許してほしいとは言わない、だが、もしよければ弁明する機会がほしい」
「....分かりました」
「ありがとう。僕がメニルに付きっきりだったのは、メニルを保護下に置いている教会と関係しているんだ」
「教会?」
小説では、教会は目立って出てこなかったはずだ。メニルが何かしたのだろうか。
「この国には、複数の教会がある。そして、教会は、人々の善意によって成り立っている。しかし、全ての教会が善良というわけではない。まさに、メニルのいた教会、ニアマライア教会のようにな」
「ニアマライア教会は、確か、〈歴史〉の守護者の信仰に基づくマリーノ王国との国境付近に位置していますね」
「まさに、そのマリーノ王国が元凶なんだ。ニアマライア教会が善良でないことのね。」
バトラが言うには、マリーノ王国は密かにウィール王国を侵略しようとしていて、最初に目をつけたのが、ニアマライア教会らしい。ニアマライア教会は、私欲のためにマリーノ王国と手を組んで、ウィール王国の情報提供などをしているらしい。そのことが王宮の耳に入った。
「そこで、ニアマライア教会出身のメニルが何か知っていないか、探りを入れていたんだ。」
「そういうことだったのですか..」
僕が勘違いしてたってことか。1人で落ち込んで怒って、恥ずかしすぎる。でも、少し安心した。
「いやでも、それでイルを蔑ろにしていい理由にはならない。本当に申し訳なかった」
そう言って、バトラはバツの悪い顔をしていた。本心だと、信じていいのだろうか。でも傷ついたことに変わりはないのだから、少し文句は言ってやりたい。
「僕はあとどれだけ嫉妬すればいいんですかね?卒業する頃には鬼になっているかもしれませんよ」
...つい本心が出てしまった。まずまず恋愛結婚じゃないのに、嫉妬だなんて呆れられてしまっただろうか。無言のバトラに不安になって顔を上げると、彼は顔を真っ赤にして固まっていた。
「嫉妬...してくれていたのか?」
「え...?」
「嬉しい....てっきり、嫌われているものだと思っていた」
なぜ?!そんなバトラを嫌っているような行動はしていなかったはずだけど...
「ずっと片思いだと思っていたが...両思いだったのだな。ああ、はやく気づいていればもっとイチャイチャできたのに...」
「りょ、両思い...?!」
聞き逃せなかった言葉があったが、そんなのは気にしていられない...両思いだったのか?!
「殿下が僕のことを好きだなんて、全く思っていませんでした...」
「気づいていなかったのか?!幼少期の頃から、必死にアピールしてきたのに...!!」
全く気づかなかった。そんなシーンはあったかも覚えていない。
「使用人にも驚くほど相談したんだぞ」
「そ、そんな...」
今まで悩んでた時間を返してくれ!!ルテに泣きついたのも勘違いからだったと思うと、申し訳なさすぎて合わせる顔がない...あとで謝っておこう。
「しかし、今俺たちは両思いであることがわかった。」
「う...はい」
改めて口に出されると少し恥ずかしい。
「だから、イルの口から聞きたい。俺のことをどう思っているのか」
もっと恥ずかしいことを要求してきた...!!でも、ちゃんと僕の想いを伝えたい。
「お慕いしています..殿下のこと」
「俺も愛してる...絶対に離さないから覚悟しておけ」
そう言ってバトラは唇を近づけてくる。
僕はそれを静かに受けとめる。
「んっ」
優しい触れるだけのキスなのに、全身が熱くなる。これが、恋ってことなのかな。
今だけは、今後のことは何も考えずに、幸せに浸っていたい。
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