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第2章
急変
しおりを挟む事態が急変したのは、ロネと出会ってから1ヶ月と半分が経ったくらいのとき。イルと僕は、メニルの監視を続けていたが、特に変わった様子もなく、少し油断していた。が、ある日、イルと一緒に校舎の階段を降りていたら、前にメニルがいたらしく、メニルが勝手に階段から落ちた。僕は、メニルがつまずいてしまったと思って助けに行こうとしたら、彼は涙を浮かべながら
「酷い...!いくら憎んでいるからといって、階段から突き落とすなんて!!」
と、叫んだ。びっくりして助けようとしていた手を引っ込めメニルを見ると、彼の目線の先は僕ではなくイルだということがわかった。周りにいる人たちも、それに気づきイルを見る。当のイルは、急なことに驚いて固まってしまっていた。
「何事だ」
騒ぎを聞きつけ、バトラとその護衛騎士であるグランがやってきた。メニルはバトラに気づくと、すぐさま擦り寄り訴えた。
「バトラ様ぁ...僕、イル様に突き飛ばされて..階段から落ちてしまいました..」
そう言ってバトラに縋り付く。
...一番なりたくなかった状況だ。ここが断罪場になってしまうこともあり得る。
「...それは真か、イル」
少し冷たい表情のバトラはイルに問う。
「殿下...」
イルはまだ状況が処理できていないのか、驚きを隠せていない。急に自分が悪者にされようとしているのだ。ここは自分がなんとかしなければ!
「殿下、発言をお許しいただけないでしょうか」
そう言ったとき、メニルの顔が微かに歪んだのが見えた。やっぱり、自作自演だったのだ。
「...良いだろう」
「僕はイルと共に歩いていましたが、メニルを突き落としたような行動は見受けられませんでした。」
そう意見すると、メニルが焦った様子で反撃してくる。
「そ、そんなの、エウテル様が見ていなかっただけなのでは?!」
明らかに焦っている。自分が階段から落ちたのにも関わらず、彼はさっきとは違い自力で立って僕を指差す。周りの人たちも、あまり僕を信じてくれない。理由は分かりきっている。赤目だからだ。しかし、ここで負けるわけにはいかない。
「では、なぜあなたを突き落としたはずのイルの両手は、教科書や筆箱で塞がっているのですか?」
「そ、それは...」
必死に言い訳を考えている。反論されるとは思っていなかったのだろう。
周りの人たちが無言で見守る中、イルが口を開いた。
「それよりも、メニル様は階段から落ちたのでしょう?どこか打ちどころがあったら大変です。」
イルがそう言うと、周りの人たちも心配を口にしだした。
「そ、そうですわよ!打ちどころが悪かったら..」
「救護室に行かれては?」
「何かあったら大変だわ」
イルによって流れは変わった。やっぱり、イルの影響力はすごい。メニルも今回はどう足掻いてもイルを悪者にできないと思ったのか、
「ご、ごめんなさい..僕の勘違いだったみたいです!救護室に行ってきます..」
そう言ってそそくさとこの場から離れた。去り際、こちらをギロリと睨んでいた気がしたが、気にしている場合ではない。
「イル!大丈夫?」
「ルテ...大丈夫だよ、急だったからちょっとびっくりしただけ」
口ではそう言っているが、イルの顔は真っ青だ。早くこの場から離れたほうがいいだろう。
「イル、行こう」
「うん...」
「待ってくれ」
この場を離れようとしていた僕たちをバトラが止めた。...イルを見てわからないのか、明らかに気が滅入ってるのに。不敬だと承知しながらも、こっそり冷たい視線を送る。
「...なんの御用でしょうか、殿下」
最近イルとバトラの関係を聞いていなかったから分からなかったが、イルの反応からして仲は進展していないのかもしれない。こんなに冷たい返事は聞いたことがなかった。
「エウテル殿」
え、僕?
「君の兄君を少しばかり貸してくれないだろうか」
...どうやら、バトラはイルと2人きりで話したいみたいだ。正直、意外だと思った。僕のバトラに対するイメージは、まだ小説の中の彼の方が強いから、自分からイルに近づくなんてことはしないと思っていた。バトラを変えたのも、イル自身の功績だろう。イルが今まで頑張ってきたおかげだ。
「...それは、イル自身にお尋ねください。僕はイルの意思に従います」
僕としては、少しでも前向きになれるのなら、バトラと話し合ってほしいと思ってる。しかし、イルが今どう思っているかはわからない。体調も悪いわけだし。
イルがこちらをチラリと見る。まるで、いいのかな、と心配しているみたいだ。もしイルにその気があるなら大丈夫、と言う気持ちで頷く。それが伝わったのか、イルは承諾し、バトラと2人でこの場を離れた。弱っているイルの背中を見えなくなるまで見送る。
「兄が心配か」
急に横から話しかけられた。びっくりして声のした方を向くと、グランだった。相変わらず仏頂面だ。
「彼を世界で一番愛しているから、世界で一番幸せになってほしいんです」
そう答えると、グランは目を見開き意外そうな顔をした。当たり前だ。イルがいなきゃ僕は生きていないんだから。
「たとえバトラ殿下であっても、イルを不幸にするなら容赦しません」
バトラの護衛騎士であるグランにこれを言うのは自殺行為だが、そのくらい覚悟はしている。
「そうか」
グランは珍しく表情を緩めて返事をした。
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