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第2章
秘密基地
しおりを挟む入学式から1週間。メニルのことはとりあえず様子見ということになり、自分たちもなるべく普通の学生生活を送れるようになった。
相変わらずクラスメイトは僕を避けるばかりで友人が1人もできない。グランは僕を避けないけど、どうも彼と「友人」という関係を想像できない。余計なことをしないためにも、彼とはあまり関わらない方がいいのかもしれない。
今日の全ての授業が終わり、寮に戻っている途中、ふと草木が繁茂してほぼ森になっている場所が目に入った。気になってその森のなかに行き、数メートルほど進んでみると、ひらけた場所があった。太陽の光が程よく差し込み、木々に囲まれているためか涼しく、息がしやすい。我ながら最高の秘密基地を見つけたと思った。ここなら、人が侵入してくることはないだろうし、ギターの音も外には聞こえづらいだろう。
最近流行りの、⚪︎次元ポケットによく似た、なんでも収納できる袋に入れておいたギターを取り出し、早速弾いてみることにした。
風が吹いたとき、草木が揺れて、まるで植物たちが僕の音に応えているみたいで心地が良かった。心の髄まで浄化されている気分になる。自然とギターも爽やかな音色になる。
しばらく弾いていると、何故か鳥やリスなどの動物が僕の周りに集まってきた。特別音に乗っているわけではないが、どこか楽しんでいるように感じる。都合のいいように解釈しているだけだとは思うが。客観的にこの様子を見ると、ディ⚪︎ニー映画のワンシーンのようで、少し可笑しくて笑ってしまった。ディ⚪︎ニーの曲は弾いたことはないな、と思い、記憶を頼りに少し弾いてみる。自分がいつも弾いているのとは違う系統だが、今の状況にピッタリで、思ったよりも楽しくてはしゃいでしまった。
だから、まさか近くに人がいるなんて、気づきもしなかった。
ガサッ
「!!」
足音がしてやっとそこに人がいたことに気づいた。急なことだったので、驚いて固まってしまい、動くことができない。
足音の主は、僕にどんどん近づいてくる。やっと顔を上げその人の顔を見ると、仮面をつけていて素顔が見えなかった。ローブを羽織り、高級そうな模様が入っている仮面をつけた(おそらく黒髪..)
男性は、僕の目の前で止まった。
もしかして、ここはすでに彼の秘密基地だったのか?だとしたら、僕は急に侵入してきて秘密基地を荒らしたヤバい奴なのでは...!!
「も...申し訳ございません!!まさか、先に使っている方がいたとは知らず...すぐに消えますのでどうかご容赦を」
「その必要はない」
とりあえず謝って早く退こうと思ったが、彼は大きな器の持ち主だったようで、僕がここにいるのを許してくれた。そして、彼は隣に座ってきて、こう言った。
「続けてくれないか」
「え?」
「先ほどの貴方の演奏だ」
なんと、彼は僕の演奏の続きをご所望だったらしく、手から離しかけていたギターを持って、僕にしっかりと掴ませた。
無言で僕の目をまっすぐ見てくる彼の目は、暖かい黒色の眼の持ち主だった。どこかで見たような...
彼の顔を間近で見るのは初めてだが、仮面の上からでも、秀美だということがわかる。あまりにも長く向き合っているものだから、ドキドキして顔が赤くなってしまう。と、とりあえず答えないと...
「し、承知致しました。」
そう言って演奏を再開する。仮面の彼は僕の隣に座って聴いている。するとまた、動物たちが僕たちの周りに集まってくる。一匹のリスが、彼の肩の上に乗ってきた。クールなイメージの彼には珍かな光景で、少し笑ってしまった。彼は何故か笑う僕を見て驚いている様子だったが、すっかり楽しくなっていた僕はあまり気にしなかった。
しばらく時間を忘れて楽しんでいたが、日が沈みそうになっていたのに気づき、お開きになった。
「またここに来て演奏してくれないか」
仮面の彼はそう優しく言った。夕日の光に照らされた彼は、さっきよりも雰囲気が柔らかくなったように見えた。
「僕でよければ、毎日でも来たいです」
そう言ってすぐに、流石に毎日は図々しかったかと後悔したが、彼は嬉しそうに微笑んでああ、と答えてくれた。
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