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第2章
『悪役』になったとき〈イル視点〉
しおりを挟む僕は前世で、猫をトラックから助けた時に轢かれて死んだ。目が覚めたと思ったら豪邸のベッドで寝ていて、急いで鏡を見ると前世で読んでいた小説の悪役令息であるイル・ヴァディエの顔と目が合った。驚きはしたものの、イルの運命が死刑ということを思い出しそんな場合ではないと、急いで今の自分の年齢を確認した。部屋にやってきたメイドに確認したら「11歳であらせられます」と、答えた。
さらに、その日はなんとバトラとの初の顔合わせだった。それを聞いたとき、どんなに焦ったことか。とりあえず、小説のイルにはならないように至って普通の貴族を演じるように頑張ろうと決心した。
そして、ついに彼と対面したとき、顔面と所作の美しさに驚愕した。元々、僕は小説の中でバトラが一番好きだったので、生で見られることに喜んでいたが、想像以上に美しかったのだ。イルが変な態度を取らなければ、相手も普通に接してくれたので、心地よい時間を過ごせた。
対面が終わってからも、ドキドキがおさまらなかったが、僕にはもう一つ、どうしてもやりたい事があった。
それは、エウテル・キタラをあの地獄から救い出すこと。その理由は小説の外伝だった。外伝では、悪役中心で話が広がっていた。イルはあまり辛い過去を送っていなかったのに対し、ルテの過去は悲惨なものだった。片目が赤色で生まれたためにキタラ家の使用人から虐待を受け、学園に入ってからも皆に遠巻きにされていた。イルがメニルを暗殺するという計画に参加した理由である、グラン・ヴィオローネとの因縁の大きな土台となっている。
だから、このような未来を彼が歩まないために一刻も早くルテを救い出したかった。そう思い立ってから、両親を説得し許可を取り、彼を出迎える準備をして、12歳になって1ヶ月の頃、ようやく彼と出会うことができた。
その日はキタラ家の三男であるルイ・キタラのお披露目パーティーだった。僕はヴァディエ家の子息として参加し、ルテを探し回った。運良く彼は裏庭にいたみたいで、母上が先に見つけていた。案の定彼は痩せこけていた。最初は怪しまれないよう、友人になるという口実で近づいた。しかし、彼の言動があまりにも小説のエウテルとはかけ離れていたため、もしかしたら彼も転生者なのかもしれないと疑った。しかし、彼の境遇は変わらないため、作戦はそのまま実行。そして、翌日、彼を地獄から助け出すことに成功した。
ルテがヴァディエ家に来てからも、片付けなければならないことがたくさんあったが、彼は苦しみながらも乗り越えてくれた。
ルテと毎日を過ごしていくうちに、彼は控えめながらも、心優しい人物であることがわかった。しかし、彼の言動から、前世の境遇を窺えるものが多くあった。おそらく、その影響もあってか彼は周りの人間を信用していない。いや、彼はすぐに人を信用してしまうけど、同時にすぐに裏切られると思っている、が正解だろうか。どっちにしろ、彼の心には何かしらの深い傷が残っている。故に、エウテルとして生きていくには、少し心配なところがある。だから、僕が守っていかなければならない。そう思った。
彼と過ごしている間にも、バトラとは度々会っていた。彼はとても知的で、様々な話を繰り広げるのが楽しく、いつも時間を忘れてしまうくらいだった。
いつの間にか、彼を好きになっていた。
これでは、小説のイルと何も変わらない。そう言い聞かせて、この想いを心に閉じ込めてきた。しかし、そう簡単には自分の心をコントロールすることができるわけもなく、学園で彼とメニルが一緒に行動していたことに嫉妬してしまった。やはり、運命は変えられないのだろうか。
初めて、ルテの前で無様な姿を晒してしまった。しかし、彼は全てを包み込むように優しく僕を抱き、励ましの言葉をくれた。
彼らしい言葉を紡いでいくのを聞きながら、ああ、彼は強くなったんだな、と思った。僕を守ってくれてるような、そんな安心感があった。そして、彼が僕のことを大好きだと言ってくれたことが、何よりも嬉しかった。
小説の展開も気にしなければならないけど、これもイルとして一度きりの人生。もう少し、自分の思うままに生きてみようと思う。
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