上 下
25 / 37
第2章

誤解

しおりを挟む
 
 イルの歩くスピードが早くて、追いかける途中で見失ってしまった。
 焦りながら辺りを見回していると、1人の男と目が合った。その男は、目が合った瞬間、形相を変えて僕に近づいてきた。
 オレンジ色の髪に群青色の瞳...どこかで見た気がする。確か、小説に出てきていた、エウテルの兄...
 (ヒューズだ!)
 そう気づいた時には何故かヒューズに胸ぐらを掴まれていた。 
 
 「わ..っ」
 力が強すぎて息が苦しい...
 ヒューズは、親の仇でも取るような表情をしている。エウテルの兄弟とは会ったことがなかったため、何故今このような状況になっているのかが分からない。僕がヴァディエ家に養子に入る時も、会ってくれなかった。
 
 「あの...何故、このようなことをするのですか..」
 
 「分からねえのかよ!!俺の...俺たちの大事な人たちを消したくせに幸せそうにしているのが気に食わないんだよぉっ!!!」

 大事な人...もしかして、

 「あの使用人...」
 「ああそうだよ。お前はすっかり忘れてたみたいだけどな」
 忘れてなんかいない。エウテルが、どれだけ苦しんだか、忘れちゃいけない。
 だけど、やっぱりヒューズと弟のルイは僕を恨んでいるみたいだ。
 
 「その使用人が、僕にしたことはご存知ないのですか?」
 「はっ、お前が嘘をついて、ヴァディエ侯爵家に媚売ったんだろう?!そんな事は分かってるんだよ!!!」
 どうしたら信じてくれるの?
 早く終わりにして、僕はイルを探さなきゃならないのに...もしイルだったら、すぐに言い返していただろうか。いや、いつまでもイルに頼ってばっかじゃダメだ。僕自身も強くならないと。
 
 「違います!!使用人がした事は事実です。貴方たちの使用人は僕を悪魔の子だと罵って暴力を振るっていたんです!!」
 
 バチンッッ

 「悪魔の子だと言うことの何が悪いんだよ。実際そうだろ?お前は俺たちの大切な人たちを奪った。正真正銘お前は悪魔の子...いや、悪魔そのものだ!!」
 
 頬が、焼けるように熱い。身体つきの差も相まって威力が強く、脳が揺れたような気がした。それ程、僕に対する恨みの念もあるのだろう。
 結局、ヒューズも赤目を忌み嫌っていることが分かった。しかし、事実は事実だ。使用人のした事は変わらない。その人たちを愛していたとしても、悪いことと良いことの区別はしなきゃだめだ。

 「っ...」
 意思と反して、涙がポロポロ流れてくる。今は絶対に泣きたくないのに。叩かれた衝撃であればいいのだが、やっぱり僕はまだ心が弱いのかもしれない。イルには到底届かない。

 「そうやって泣いだって無駄だ。俺は許さない!まずまずな、使用人から聞いてたお前の話だけでもうお前が嫌いだったんだよ!!やっぱり、赤目は許されてはならないんだ」
 
 どうして分かってくれないんだ。
 「現実から、目を背けてはなりません」
 「...は?」
 声が震える。でも、言われてばかりじゃいけない。強くなれ、エウテル。

 「赤い目を持つ人は、人一倍魔力があり、魔法も強かった。僕は、弱いですけど...でも、それだけで、忌避されてきたんです。なにもしていないのに。」
 「....」
 「それどころか、差別を植え付けて、赤目の人たちを迫害してきた。...貴方がその立場だったら、どう思いますか?」

 「はっ!俺は赤目じゃないんで、知ったこっちゃねえよ!しかも、実際お前はナニかしたんだからな」
 「だからそれは、使用人が...」
 「それはお前の言い分だろう?使用人たちが気に食わなくてやったんだろう。それに、証拠はどこにあるんだ?ないだろう?」
 そうニヤついた顔で言ってくる。
 しかし、証拠はある。

 「本人が自供していました。」
 「なっ」
 しかも自分から。あの時の記憶は鮮明に残っている。そこで赤目が世間では好かれていないことを思い知った。

 「う、嘘だ...だってあんなに優しい人たちが、」
 
 「やったんです」
 どんどんヒューズの顔が青ざめる。まるで信じられないものを見たかのよう。実際そうであるが。
 
 ヒューズは震えながら口を開いた。
 「それでも...お前が悪魔の子だと言うことに、変わりはない...!!」
 その言葉を最後に、ヒューズは去っていった。

 そう簡単には受け入れられないか..。余程ヒューズたちには優しかったのだろう。それにしても、赤目で魔力が多いと言うだけでここまで忌避されるのは些か疑問である。何か理由があるのだろうか。

 とりあえず、イルを探さないと。
 イルが向かった方角へ走る。

 
 しばらく探していると、裏庭の木の下でイルらしき人が座っているのを見かけた。
 急いで近寄って、声をかける。

 「イル...?」

 僕の呼び声に気づいて振り返ったイルは、涙で頬を濡らしていた。

     
 

 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

処理中です...