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第2章
誤解
しおりを挟むイルの歩くスピードが早くて、追いかける途中で見失ってしまった。
焦りながら辺りを見回していると、1人の男と目が合った。その男は、目が合った瞬間、形相を変えて僕に近づいてきた。
オレンジ色の髪に群青色の瞳...どこかで見た気がする。確か、小説に出てきていた、エウテルの兄...
(ヒューズだ!)
そう気づいた時には何故かヒューズに胸ぐらを掴まれていた。
「わ..っ」
力が強すぎて息が苦しい...
ヒューズは、親の仇でも取るような表情をしている。エウテルの兄弟とは会ったことがなかったため、何故今このような状況になっているのかが分からない。僕がヴァディエ家に養子に入る時も、会ってくれなかった。
「あの...何故、このようなことをするのですか..」
「分からねえのかよ!!俺の...俺たちの大事な人たちを消したくせに幸せそうにしているのが気に食わないんだよぉっ!!!」
大事な人...もしかして、
「あの使用人...」
「ああそうだよ。お前はすっかり忘れてたみたいだけどな」
忘れてなんかいない。エウテルが、どれだけ苦しんだか、忘れちゃいけない。
だけど、やっぱりヒューズと弟のルイは僕を恨んでいるみたいだ。
「その使用人が、僕にしたことはご存知ないのですか?」
「はっ、お前が嘘をついて、ヴァディエ侯爵家に媚売ったんだろう?!そんな事は分かってるんだよ!!!」
どうしたら信じてくれるの?
早く終わりにして、僕はイルを探さなきゃならないのに...もしイルだったら、すぐに言い返していただろうか。いや、いつまでもイルに頼ってばっかじゃダメだ。僕自身も強くならないと。
「違います!!使用人がした事は事実です。貴方たちの使用人は僕を悪魔の子だと罵って暴力を振るっていたんです!!」
バチンッッ
「悪魔の子だと言うことの何が悪いんだよ。実際そうだろ?お前は俺たちの大切な人たちを奪った。正真正銘お前は悪魔の子...いや、悪魔そのものだ!!」
頬が、焼けるように熱い。身体つきの差も相まって威力が強く、脳が揺れたような気がした。それ程、僕に対する恨みの念もあるのだろう。
結局、ヒューズも赤目を忌み嫌っていることが分かった。しかし、事実は事実だ。使用人のした事は変わらない。その人たちを愛していたとしても、悪いことと良いことの区別はしなきゃだめだ。
「っ...」
意思と反して、涙がポロポロ流れてくる。今は絶対に泣きたくないのに。叩かれた衝撃であればいいのだが、やっぱり僕はまだ心が弱いのかもしれない。イルには到底届かない。
「そうやって泣いだって無駄だ。俺は許さない!まずまずな、使用人から聞いてたお前の話だけでもうお前が嫌いだったんだよ!!やっぱり、赤目は許されてはならないんだ」
どうして分かってくれないんだ。
「現実から、目を背けてはなりません」
「...は?」
声が震える。でも、言われてばかりじゃいけない。強くなれ、エウテル。
「赤い目を持つ人は、人一倍魔力があり、魔法も強かった。僕は、弱いですけど...でも、それだけで、忌避されてきたんです。なにもしていないのに。」
「....」
「それどころか、差別を植え付けて、赤目の人たちを迫害してきた。...貴方がその立場だったら、どう思いますか?」
「はっ!俺は赤目じゃないんで、知ったこっちゃねえよ!しかも、実際お前はナニかしたんだからな」
「だからそれは、使用人が...」
「それはお前の言い分だろう?使用人たちが気に食わなくてやったんだろう。それに、証拠はどこにあるんだ?ないだろう?」
そうニヤついた顔で言ってくる。
しかし、証拠はある。
「本人が自供していました。」
「なっ」
しかも自分から。あの時の記憶は鮮明に残っている。そこで赤目が世間では好かれていないことを思い知った。
「う、嘘だ...だってあんなに優しい人たちが、」
「やったんです」
どんどんヒューズの顔が青ざめる。まるで信じられないものを見たかのよう。実際そうであるが。
ヒューズは震えながら口を開いた。
「それでも...お前が悪魔の子だと言うことに、変わりはない...!!」
その言葉を最後に、ヒューズは去っていった。
そう簡単には受け入れられないか..。余程ヒューズたちには優しかったのだろう。それにしても、赤目で魔力が多いと言うだけでここまで忌避されるのは些か疑問である。何か理由があるのだろうか。
とりあえず、イルを探さないと。
イルが向かった方角へ走る。
しばらく探していると、裏庭の木の下でイルらしき人が座っているのを見かけた。
急いで近寄って、声をかける。
「イル...?」
僕の呼び声に気づいて振り返ったイルは、涙で頬を濡らしていた。
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