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第1章

この世界について【人物編】

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 侯爵家に帰った後、疲れてるだろうからと今日はもう寝ることになった。
 「今日のことは明日話そう」
 そう言ってイルは僕の部屋でまた一緒に寝た。

 
 次の日、僕たちはまた机に向かうと、すぐにイルが説明し始めた。
 「それで、グラン・ヴィオローネなんだけど、彼は小説でルテがイルの計画に参加した理由の一つなんだ。とりあえず、小説の内容と一緒に思い出していこう。」
 まず、グラン・ヴィオローネはヴィオローネ公爵家の次男で、バトラ王子の護衛騎士らしい。イルよりも身分が上だとは思わなかったが、しかしそんな彼に過去のエウテルは無体を働いてしまったのか...そして昨日も..
 幼少期にエウテルがグランを傷つけてしまったことで、因縁の仲となってしまった2人だが、学園に入学したことで再会する。当然、2人の仲は悪いまま。すれ違う度に睨み合い、ときにはルテが一方的にグランに突っかかっていた。
 そんなある日、学園に平民のメニルという、光魔法を持つ美少年が居るという噂が広まった。殆どの人がメニルに対して好意的だったが、よく思わない者もいたため、日が経つにつれいじめをする人も出てきた。段々メンヘラ化していくイルに辟易していたバトラ王子は、イルを避ける口実のため、表向きは生徒会長として、メニルに付いて周りの脅威から守る生活を続けていた。それにグランや他の従者も参加していた。
 イルはその行動を知り、いじめのエスカレート。メニルの周りの人間は、心優しい彼と過ごしていくうちに、恋に落ちていた。バトラ王子もグランも、一人残らず。それにイルは激怒し、メニル暗殺の計画を立てる。エウテルは、グランを幸せから引き摺り下ろしてやりたいと思っていたため、利害が一致しイルの計画に参加した。
 
 幼少期のエウテルがグランを傷つけてしまうまで荒れ狂った理由は、エウテルの育ちと、グランへの嫉妬にあった。エウテルは物心がつくころから使用人からの虐待が始まっていた。だから、世の子どもたちは皆こういう扱いだと思っていた。しかし、度々キタラ家で行われるパーティーを部屋の中から覗くと、そこには幸せそうな顔をした子どもが何人もいた。そこで初めて、ああ、僕は普通じゃないんだ、と小さいながらエウテルは気づいた。そして、なぜ僕はこんな目に遭っているのだろう、と疑問を持つと共に、他の子どもへの嫉妬を募らせていた。
 そのため、グランが話しかけてきたときに、「今までずっと幸せだったやつには僕のことなんて何にも分りゃしない!」と感情を爆発させ、結果グランを傷つけてしまった。

 「これは、難しい話だよね..これからの対応が。」
 イルが難しい顔で唸る。
 
 「エウテルとグランはもう仲直りできないのかな?」
 学園卒業後も生きていられるよう、蟠りは無くしておきたい。
 「グランは結構堅物だって聞くし、僕にも分からないな...とりあえず、今のところはあまり関わらないように注意しといた方がいいかも」
  
 学園に入れば会うことも多くなるだろうし、これ以上すれ違わないためにも、無害だということを証明しなければならない。小説のエウテルは学園でグランに突っかかっていたらしいし、その逆の行動を取ればいいよね。



 「そういえば、他の登場人物とかも予習しとかなきゃだよね!ゲームじゃないから、あまりいないけど、ちゃんと覚えておいた方がいいかも」
 そう言って、イルはまた説明を再開する。

 小説に登場するキャラクターは、主人公(受け)のメニル、攻めのバトラ王子、王子の護衛騎士のグラン、昨日パーティーで出会ったシュタイン、そしてイルとエウテル以外に、バトラ王子の従者や生徒会としてのキャラクターが2人いる。

 「それが、ルテの兄であるヒューズと、弟のルイなんだよね」
 「...前途多難になりそうな予感がする..」
 たしか、小説でもエウテルのことをひどく嫌っていて、「あれは俺(僕)の弟(兄)じゃない」というセリフを何度か見た気がする。僕がヴァディエ家に養子入りするときに、2人は会ってくれなかった。侯爵家に養子入りしたことで、もしかしたら小説のエウテルよりも嫌悪されているかもしれない。
 2人は何不自由なく育ったため、ルテは2人にも嫉妬し、直接対決などは無かったが、周りが引くほどお互い仲が悪かった。
 
 「正直、グランよりもこの2人の方が対応が難しいかもね...」
 真実を話しても、信じてくれるとは到底思えない。こちらは本当に関わらない方が身のためだと思う。僕は、できたらみんなと仲直りしたい。誤解を解ければ、もしかしたらだが可能性はある。学園内に仲の悪い人がいるっていうのは、お互い気分良くないだろうし、僕はいろんな人と仲良くしたい。密かにみんなと仲直りという目標を立てることにした。

 「それじゃあ、今日はここまでにしよっか!僕、今日は庭でピクニックしたい!一緒に行こうよ!」
 
 「いいね!色々考えて疲れてきた頭もリフレッシュできるかも。」
 ギターも持っていこう。



 そうして、庭でピクニックをすることになり、部屋で食べる予定だった料理を包んでもらい、2人の護衛騎士とメイドと共に外に出る。

 外で食べる料理は新鮮で、小学校の頃の遠足を思い出す。あの時はただ、無邪気な子どもだった。
 食べ終わってからは、ちょっとした演奏会になった。まだイルの前でしか演奏したことがなく、護衛騎士など複数人の前で演奏するのは初めてだったので少し緊張したが、皆んながニコニコでのってくれて楽しかった。やっぱり、ギターを弾いている時が一番幸せだ。これからの大変だろうことも、演奏しているとき、ギターのことを考えているときだけは、忘れられる。 
 
 まだ青い葉が茂る木の下で演奏する楽器は、爽やかな音を奏でていた。
 






 
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