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第1章
初めての社交
しおりを挟む朝早くメイドに起こされて、今は何だかかっちりとした服に着替えている。
(今日なんかあったっけ..?)
今日は小説の登場人物を思い出していくというので少しワクワクしていたが、そのような雰囲気ではないことを察知する。
しばらくして、イルが眉毛をハの字にして部屋に入ってきた。
「ルテ....今日パーティーらしい...」
「ふぇ?」
パ...パーティー?そんなの聞いていないよ...
「僕とルテの勉強も兼ねて抜き打ち練習のためにパーティーに行くことを隠してたらしい...」
どどど....どうしよう、、僕、本当に何もできない...地獄の空気を作ってしまいそうで怖い...
「そ...それで、場所は?」
「サクスム子爵家だって..サクスムって、あれだよね..小説に出てきた、見た目に反して岩のように固い精神を持ってる奴。」
その人には覚えがある。
「たしか、シュタイン・サクスムだったよね?」
「そう!結構正義感も強くて、メニルを虐めるイルやルテの前に現れて説教してた..」
サクスム子爵家自体、貴族でありながらとても正義感のある家柄で、悪い噂を聞かないことで有名だった。その子息であるシュタインもまた正義感に満ち溢れていて、一見優しそうな見た目とは裏腹に、悪事を働いている人間を見つけたらすぐさま説教するような熱い系の人だった。そう、すぐに殺したり罰を与えるのではなく、更生させようと説教から入るような、優しい心の持ち主でもあった。
小説のイルやルテにも、同じだった。メニルに対して姑息な虐めをしているところを見つければ、飛んできて説教をする。しかし、メニルへの虐めがエスカレートするにつれ、シュタインは怒るのに疲れてゆき、結局、もう許せない!と2人を断罪する計画を立て始める。バトラ王子やメニル、その他の登場人物を巻き込んで。なかなか証拠が揃わなく苦戦していた時に、メニルの暗殺の計画を立てていることを知り、証拠を揃えて断罪を行った。
まさか断罪の考案者が優しい心を持つシュタインだと気づいた時は、本当に驚いた。
しかし今日、登場人物の予習をする前に、その1番不安要素である人に会うことになってしまった...!
「僕たちどうなっちゃうんだろう...」
「まあ僕たちまだ何もしてないし、普通に接してくれるでしょ!」
「そうだよね...」
もう、なるようにしかならないだろう。良い印象を与えれば友達になれるかもしれない。
(幼少期の姿も気になるしね)
僕たちは覚悟を決めて馬車に乗り込んだ。
サクスム子爵家へは1時間程で着いた。
馬車を降りると、そこはすでに人で溢れかえっていた。僕たちと同じ歳っぽい人が殆どだったため、子どもだけでの交流会みたいなものなんだろう。おそらく、少し遅めの婚約者探しや、学校に先取って友人づくりのためだと思う。エウテルは殆ど家に閉じ込められていたから、婚約者はいないと思う。イルは、もうバトラ王子とは婚約しており、対面も済ませているそう。
「対面の前に転生してよかったあ~。やっぱり人って第一印象が大事だもん。今は無害ですよって証明できただけでも十分!」
問題はやはり僕か...この世界では大体9歳頃から皆んな婚約者を決める。12歳では結構遅めなのだ。
小説でも、エウテルには婚約者がいなかった気がする....後継でもないし、何か才能が開花しない限り、婚約者がいないと将来苦労することになる。
(まあとりあえず、生きて学園を卒業できるかが問題だけどね)
2人でパーティー会場へ入ると、そこに居る人全員、好奇の目で僕たちを見た。それはそのはず。つい最近、何故か社交場に殆ど来ない伯爵令息が、侯爵家の養子になったからだ。多分全員、頭に疑問符が浮かんでいるだろう。
赤目がバレるのが怖いため、僕は下を向いて歩く。
「ほらルテ、堂々と歩くんだよこういう時は!」
「でも....」
励ましてくれているのだろうが、これ以上の痛い視線が刺さったら耐えられる気がしない。
「イル様いつでも爽やかでいらっしゃるわ~!」
「麗しいわあ~」
と、イルには賛美ばかりなのに対し、
「あの幽霊伯爵令息、やっと出てきたと思ったら侯爵家の養子になっていたなんて。どんな汚い手を使ったのかしらね」
「侯爵家に相応しいはずがないのに、図々しいわよねー」
と、僕には非難の嵐。それに加えて、赤い目だということがバレたら、どうなってしまうのだろう。もちろん、偏見による差別はいけないという認識だが、悪魔の子だとかいう考えは根付いている。そろそろ泣いていいですか。
顔を上げるのはできないとして、せめて泣くのは絶対ダメだと頑張って耐えて歩く。そんな僕に気づいたのか、イルが僕と手を組む。
「!!イル...?」
イルはニコッと笑って、無言で周りに圧をかける。皆んなはイルの行動に驚き、発言を慎んだ。
(やっぱりイルってすごい)
ボーッとイルを見上げていると、いつの間にかシュタインの前に着いていた。
「お初にお目にかかります。私、ヴァディエ侯爵家よりイル・ヴァディエと申します」
イルは完璧な挨拶をする。僕も姿勢を正して、
「お初にお目にかかります。私、ヴァディエ侯爵家よりエウテル・キタラと申します」
ヴァディエ侯爵家と名乗ったことで、より自分は侯爵家の一員になったんだと自覚する。
「ようこそいらしてくださいました。私、サクスム子爵家よりシュタイン・サクスムと申します。以後宜しくお願いいたします。」
シュタインは、栗色の短髪に空色の瞳で、小説のシュタインと変わらず優しそうな顔をしている。幼少期はやっぱり幼く、可愛い顔立ちだ。思わずじっと見てしまった。
「赤い瞳...」
「あ..」
しまった。周囲の人に絶対聞こえてる。やばい、ここにいる全員にばれてしまったかもしれない。焦りで汗が滲み出る。
「...綺麗ですね!オッドアイって、初めて見ました!」
シュタインはそう笑って僕の瞳を褒める。そうだ、シュタインは人格者だった。偏見など、持っていないんだろう。イルや侯爵家のみんな以外に褒められたのは初めてだったので、嬉しくて、すごくドキドキしている。
「あ...ありがとうございます..」
顔がニヤけているのが分かる。イルも隣でニコニコしている。
「よろしければ、今度お二人をお茶会にお誘いしてもよろしいですか?」
シュタインが緊張した面持ちで聞く。さっきの笑顔は消えたが、頬は紅潮して、少し震えている。そうか、僕たち一応身分が上なのか。それは緊張するだろう。
「ぜひ!そちらにお伺いしたいです!」
イルが元気に答える。僕も何か言わなきゃ...
「ご...ご連絡お待ちしております...!」
シュタインの目を見て言う。
「ありがとうございます!予定が決まり次第、ご連絡いたします!」
と、シュタインは嬉しそうに返事をした。
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