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第1章
幸せ
しおりを挟む話し合いの次の日、僕は正式に侯爵家の一員となった。王宮から使者が来て、いろいろな書類を書いたら王様が正式に認めてくれるのだそう。侯爵家に相応しい人物になれるよう、これから精進すると、みんなに誓った。
今日は家族全員での夕食。僕が侯爵家に加わった記念に豪華な食事が食卓に並べられた。みんなで談笑しながら、楽しいひと時を過ごした。
「ねえテル。」
「なに?」
食事も終わったところで、イルが急にかしこまった口調で僕の名前を呼んだ。少し緊張して返事をする。
「少し、目瞑ってて」
「...?わかった」
言われた通り目を瞑る。侯爵様も、夫人もニコニコしていたが、何かあるのだろうか。期待と不安を膨らませながら待つこと数十秒。
「...いいよ!」
イルの合図で目を開ける。
「!?」
驚いたことに、目を開けた先には大きな箱が置かれていた。
「...箱?」
箱...この中に入れってことかな?ギリ入れる大きさだし。
しばらく首を傾げていると、
「ねえ...なんか変なこと考えてない?普通に開けるんだよ!」
とイルに怒られた。そうか。普通に開けるのか。ということは...この箱の中身はなんだろう?
不思議に思いながらも、3人からキラキラした期待の目を向けられたため、急いで箱を開ける。
「っ!!」
箱の中身の正体に気づいたとき、僕はあんぐり口を開け固まった。
「ルテ、これの話してたとき本当に嬉しそうで、輝いてたもん!ちょうどルテへのプレゼントで悩んでたんだけど、すぐに決まったよ!」
テヘヘ...とイルは照れくさそうに笑う。
そう、箱の中には僕が愛してやまない楽器、ギターがあったのだ。プレゼントだけでも飛び上がるほど嬉しいのに、イルはほんの短い、すぐに忘れるような会話を、覚えてくれていたのだ。嬉しすぎて頭がパンクしそうになる。こんなに幸せでいいのかと、最近は思ってばかりだ。
「...本当に、嬉しい..!!ありがとう、ありがと...うぅ」
涙が出そうになるのを堪える。泣かずに感謝を伝えたい。侯爵様と夫人は、温かい目で見守ってくれていた。
「ここに来てから、嬉しいことばっかりで」
「うん」
「...僕、今が一番幸せです」
前世で親に始めてギターを買ってもらったときも、それは飛び跳ねるほど嬉しかった。でも、今ここでは、もしかしたら僕のことを愛してくれるのかも、なんて期待をすぐに抱いてしまうような人たちに何かをされることが、こんなにも嬉しくて、幸せでたまらない。期待が絶望に変わる瞬間は、とてつもなく辛いことだけど、今この瞬間が幸せで、その期待を手放す気にはなれない。
食事が終わり、自分の部屋に戻って幸せの余韻を噛みしめる。ずっと胸がポカポカして、熱でも出ているみたいだ。
コンコン
しばらくして、イルが訪ねてきた。
「今日も、一緒に寝ようよ」
「うん」
イルがベットに上がってくる。
「どう?ギター弾いた?」
「ごめん..余韻を味わっててさっきまでぼーっとしてた...」
「あはは!そんなに喜んでくれて、僕も嬉しいよ!ねえ、今弾ける?ルテの音聴きたい!!」
「いいの..?ここ、防音室じゃないけど、」
そう、防音室がない家に住む人のタブー、それは夜に楽器を弾くこと。近所迷惑で怒られかねない。今は近所とかないけど、侯爵様と夫人が寝ているかもしれない。
「大丈夫だよ!防音魔法かければいいし。」
「え、魔法..」
「うん!魔法。」
すっかり忘れていた。この世界、魔法が使えたんだった。でも、どんな感じだったっけ?所々、思い出せない。
「あの...」
「ん?」
「僕、この世界が魔法使えるの忘れてたみたいで..どんな魔法が使えたかすら思い出せないんだ。読んだのが結構前だったからかな...所々、思い出せないことがあるんだ」
「そっか...結構前なら、忘れてることも多いかもね...でも大丈夫!僕と一緒に思い出していこう!」
「うぅ..ごめんね..ありがとう」
とても情けない...
「そうだ!しばらく予定あんまないから、この世界について、毎日ちょっとずつ勉強していこうよ!」
「たしかに、この世界のこと何も知らないと、計画も立てづらいしね」
今思えば、この世界について知らないことがありすぎる。小説の中には入ってないけど、知ってなきゃいけないこともあると思う。特に貴族だから、社交とかも気にしないといけない。
(社交...不安だ)
「社交性のない僕に、貴族なんて務まるかな..」
侯爵家に相応しい人間になるって誓ったばっかりなのに、もう躓いてる。
「そこはもう、慣れなのかなぁー。僕も緊張しちゃうかも」
多分だけど、イルは絶対大丈夫だ。元々、人を惹きつけるような人柄だし、こんな僕にも、気さくに接してくれるし。
(僕も頑張らなきゃ)
「ルテは、今まで家に閉じ込められていた分、貴族同士の繋がりとかがないから、これから頑張らなきゃだね...」
そうだ。エウテルは今まで外に出たことがなかったので、繋がりが当然ない。12歳にして、これは大問題だ。繋がりがないと、味方がいないも同然だ。もし断罪されるようなことがあれば、味方してくれる人がいないとシナリオ通りになってしまう。
「てことで、今は魔法という便利なものがあるので、夜でも楽器鳴らし放題!!ルテ、お願い!」
あまりにもキラキラな目で訴えてくるのでつい笑ってしまう。
「わかった。弾いてみるよ」
「おお!」
ギターを取り出して、太腿の上に置く。左手で弦を押さえてみるけど、やっぱり、この体では初めてだから指が痛い。
音を鳴らしてみる。前世で弾いていた音と少し違うけど、とても優しい音色だ。
「わあ~、優しい音!」
イルも同じことを思ったようで、感嘆の声を上げる。
「うん。とても弾き心地がいいよ」
久しぶりにギターを弾いて、本気で涙が出そうになった。やっぱり、僕にはギターが必要不可欠だ。
「よかった!これからたくさん使ってね!修理は職人が魔法でやってくれるみたいだし!」
「魔法って、本当に便利だね」
「こっちの世界の人からしたら当たり前だけど、僕たちにとっては画期的すぎるよね~」
それから、しばらくギターを弾いていたらいつのまにかイルは眠りについていた。
(僕もそろそろ寝ようかな)
イルの隣で、眼を閉じる。
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