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第1章
決意
しおりを挟む朝、目が覚めると隣には眠っているイルがいた。
(やっぱり、寝顔綺麗だな~)
なんて、お決まりの感想を持ってイルの顔をジッと観察する。見れば見るほど顔の整い具合が素晴らしいことがわかる。長いまつ毛が頬に影を落としていて、普段の活発な笑顔が嘘みたいな儚さを帯びている。
(あ、起きた)
イルと目が合う。至極色の瞳は吸い込まれそうな程に深い。10秒間くらい、見つめ合った。
「おはよう、ルテ」
「おはようございます」
イルがニコリと微笑む。
(女神...?)
そうじゃない。今はイルに伝えなければならないことがあるんだった。僕の、今後のことを、決意を。
「イル様」 「なあに?」
「今日、侯爵ご夫妻に話してみようと思います。僕が、家族になりたいってこと」
イルの目を見て言う。決意は固いつもりだ。
ちゃんと、伝わってるかな。
イルは、そんな不安も吹き飛ぶくらいの笑顔で僕を抱きしめる。
「うん!僕と、僕たちと、家族になりたいって思ってくれて、言うって決断してくれてありがとう!嬉しいよ」
「そ、...ありがとうございます..」
少々オーバーな反応だと思ったが、これがイルの通常運転なのだろう。イルに抱きしめられるたび、心があったかくなる。
「じゃあさ、早速言いに行こうよ!2人とも多分ソワソワしているだろうしさ!」
ソワソワ?なんて反応しているうちに、イルは呼び鈴を鳴らして準備に入る。本当にやることがとことん早い。僕もつられて急ぎ足で自分の支度をする。すぐに言いに行くなんて思っていなかったから、急に緊張してきた。でも、もう言うって決めたからには、言うしかないのだ。覚悟を決めなければ。
2人の支度が終わったところに、専属メイドのリファーがやって来る。
「旦那様と奥様のご準備は終わりました」
も、もう?!
いつの間に、イルが伝えていたみたいだ。まるで忍者のよう...
「じゃあ、行こうか。ルテ」
「はい」
また、イルに手を取られて部屋を出る。イルも一緒に来てくれるのは心強い。でも、このままだとイルに依存してダメ人間になっちゃう。ちゃんと自立しなければ。
なんて考えている間に、侯爵様の執務室の前に着いた。
一つ深呼吸をして、ドアをノックする。
コンコン
「エウテルです。お待たせいたしました」
「入りたまえ」
慎重にドアを開ける。就活時代の面接を思い出す。心臓のドキドキが止まらない。
「ゆっくりでいいからね」
コソッとイルが言う。そうだ、心強いイルがいるんだ。だから大丈夫。落ち着いて話せば。
少し緊張がほぐれた。侯爵様が座席を促す。ゆっくりとソファに座る。
「今日は、僕からお話があります」
2人とも笑顔で頷いてくれる。
「僕を、家族にしていただけないでしょうか」
そう言って、座ったまま最大限のお辞儀をする。
「我儘だということは分かっているのです。両親にとっても良いことではないと思います。でも、でも...」
そこで言い淀んでしまった。やっぱり、これっておかしいんじゃないかって、思ってしまった。実の両親もいて、嫌われていて虐待を受けているわけでもないのに、勝手に他の家族になるって。流石に我儘すぎるんじゃないか。侯爵ご夫妻が悪者にされたらどうするのか。
「あ....」
「...ルテ?」
イルが怪訝な表情で僕の顔を覗く。僕が悩んでいることが伝わってしまったのか、あるいはただ緊張していると受け取っただけなのかわからないが、イルは僕の手を握って
「昨日も言ったでしょ。僕たち、まだ12歳だよ?我儘だっていいじゃん。幸せを望むことは何も悪くないんだよ」
そうだ。僕は幸せになりたいし、それは悪いことじゃない。でも常識的に考えて、やっぱりおかしいんじゃないかな...
「ルテ、ここは日本じゃない。ここでは、こういう形の養子縁組とか、多いわけじゃないけど、別に珍しいわけでもないんだ。」
「そうなの?」
初耳だ。小説にはそんなこと書いてなかった気がするけど...
「そう。特に後継ぎの必要がない人とかが、いろいろな勉強のためにね。そういう風習がある家もあるみたいだよ。」
「そうよ。だから、あまり自分だけで背負い込まないで。貴方は別におかしくなんてない。我儘でもないの。」
「そうだ。エウテルは逆にもっと大人に甘えて欲しい。」
どうやら、僕の考えていることはみんなお見通しだったらしい。この世界のことも知らずに、1人でウジウジ悩んで、本当に恥ずかしい。
「では、もう1回聞こう。エウテル、私たちの家族にならないか?」
「っ..」
この家の人たちは、みんな神様みたいだ。こんな僕を、家族にしてくれるなんて。
「はいっ。家族になりたいです。お願いします...!」
また、最大限頭を下げる。
侯爵様は、ニコッと笑って
「うむ!これからよろしく頼むぞ!エウテル」
「エウテル、いっぱいお茶会しましょうね!」
「はい...はい!よろしくお願いします」
「ルテ。」
「...イル」
「あ!!やっとイルって呼んでくれた!!嬉しい」
家族になるのだから、イルの要望に応えて呼び捨てで呼んでみた。恐る恐るって感じだったけど、イルは喜んでくれて、僕に抱きつく。
「じゃあ、もう1個追加~!これからはタメ語で話してね!」
「え..」
「だって、僕たち家族になるんだよ?仲を深めるためにもまずはタメ語!」
この世界では、兄弟同士でも敬語を使う人が多いんじゃなかったっけ...タメ語か...あんま使ったことないから、話しづらい...
「ねえ、だめ...?」
「うぅっ」
またうるうる攻撃...!!これには首を縦に降らざるを得ない...
「わかり..わかった....」
「よし!これからもよろしくね!ルテ!」
こうして、僕は侯爵家の家族となった。苗字はそのままが一般らしいので、キタラのまま。
後日、またキタラ伯爵家に赴き、キタラ伯爵ご夫妻もルテの幸せだと思う方に従うということで、両者納得。両親は時々侯爵家に会いに来てくれるらしい。
結局、今回も兄弟の2人は会ってくれなかった。
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