悪役令息の取り巻きになっても、音楽はできますか?!

ユパンキ

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第1章

2人で過ごす夜

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 侯爵様にはああ言われたけど、やっぱり一晩で答えを出すことにした。というか、答えはほぼ決まっていたんだ。けれど、僕が小心者だから、確定することができないでいた。

 寝室に入ったあと、僕はベッドの上で悩むことにした。しばらく無駄な悩みを続けていると、コンコンと、ドアの叩く音が聞こえた。
 (こんな時間に誰だろう?)

 「イルだよ!入ってもいい?」
 イル?どうしたんだろう?
 「ど、どうぞ..」

 イルは入ってきて早々、驚きの言葉を口にした。
 「ねえルテ、今日一緒に寝てもいい?」
 「一緒に?」
 「うん!少しお話ししたくて。」
 「...はい!誰かと一緒に寝られるの初めてだから嬉しいです」
 「っ...じゃあお邪魔するね」

 そう言ってイルは僕の隣に腰掛ける。

 「ここでの暮らしはどう?不自由してない?」
 「全然そんな事ないです!むしろ今までで一番良い場所で...目が合うとみんな挨拶してくれるし、話しかけてくれる人もいるんです。特にシンとリファーは気さくに接してくれて、嬉しいです!」
 「そう。よかった!僕もリズが居てくれて毎日楽しいよ!」
 そうリズは満面の笑みで応える。 
 (やっぱり綺麗だな~)
 なんて推しの顔面をニコニコ見ていたら、
 
 「だからさ、やっぱり僕はここで暮らして欲しいんだ。これからも。」
 「え」
 「ルテって、自分が思っているよりも結構自己肯定感が低いっていうか、自分が嫌われる前提で話している節があるんだよね。だから、今回のことも、それで悩んでるのかなって。」
 「...」
 周りからは、そう見えていたんだ。でも、前世でも、今世でも、周りから嫌われていたのは事実だし、多分、イルや侯爵家のみんなは今は僕に好意的だから、その中で過ごすのがすごく幸せなんだ。けど、迷惑をかけて、嫌われてしまうのが怖い。一回天国を見ると、地獄を見るのがこんなにも怖いだなんて、思ってもみなかった。
 こういうのを、イルに伝えたいけど、伝えて失望させるのが怖い。こんなにひ弱な考えを持ってる人だったなんてって。だから言い出せない。
 なかなか返事をしない僕に、イルは怒らずに、

 「ルテ、そんなに思い悩む必要はないよ。もっと気楽に考えてみようよ。」
 と、優しく言ってくれた。気を遣わせちゃったな。やっぱり僕はダメ人間だ...。
 
 パチッ
 「いたっ」
 急におでこに衝撃が...デコピン?

 「ほら、また自分が悪いなんてこと考えてるでしょ。まずまずさ、確かにルテを伯爵家から救い出すためっていうのもあるけど、僕はルテにここにいて欲しいから父上にこの提案をしたんだよ。」
 「イルが提案したのですか?」
 「そう。ルテに傷ついて欲しくないっていうのもあるけど、ルテと一緒に居たいから。小説のことも、僕たちの絆が深ければ深いほど、破滅回避の可能性が高くなるしね!作戦もたくさん立てられるし。」
 確かに、破滅回避のためには2人の協力が必要だし、そのためには信頼が必要不可欠だ。
 でも、それ以上に、僕と一緒にいたいって思ってくれてたことが嬉しい。あんまり、自分のことを卑下し過ぎても、自分が病んでいくだけで、周りには迷惑かけるだけなのかな。もう少し、自分の考えを改めてみようかな、少なくともここでは。

 「ルテはどっちで暮らしたい?」
 それはもちろん、
 「ここで暮らしたい...」

 「ルテはもっとルテの思うままに生きてよ。ルテのしたいことを、幸せだと思うことをするべきだよ!」
 「したいこと...」
 「そう!周りの目なんか気にしないでさ!しかも、転生したとはいえまだ12歳だよ?!大人の顔色なんて窺ってちゃダメでしょ!!」
 
 そうだ、自分が子供なのをすっかり忘れてた。でも意外と、子供らしい態度をとっていた気がするけど。....思うままに、か。

 「そういえば、僕たちお互いのこと全然知らないよね、ルテがしてて一番幸せだと思うことはなに?」

 イルは期待満々といえるキラキラの目で僕を見て言う。幸せだと思うこと...それは、

 「音楽。僕にとって...音楽が1番大切で、僕を幸せにしてくれるんです。」
 「音楽!!じゃあ楽器とかやってたの?」
 「ギターを趣味でちょっと...」
 「じゃあギターはルテにとって1番の宝物なんだね!」
 「!そう!1番、1番の宝物なんです!」
 僕に興味もなかった親からのプレゼントで貰ったギターが、宝物なんだ。
 そういえば、こっちに来てから一回も音楽に触れてないな。色々とありすぎて、少しだけ忘れていたけど、今ちょっと余裕が出てきたら、急に音楽不足だったのを思い出して、心も体も急激に音楽を求めている...。

 「ねえ、この一連が終わったら、何か聴かせてよ。僕、ルテが奏でる音が聞きたい!」
 「え...ほ、本当に僕なんかで良いのですか?」
 「だから、いつも言ってるでしょ!!ルテがいいの!!」
 膨れっ面で可愛く怒られて、僕は笑ってしまった。
 「この世界、ギターとかあるのかな...」
 「うーん、あるんじゃないかなあ...なかったら、作らせよう!!」
 貴族の特権!!とか言って、胸を張ってるイルが可笑しくて、また笑ってしまった。
 それにイルもつられたのか、笑い出して、2人してベットの上で笑っていた。

 笑い疲れたのか、いつの間にか僕たちは深い眠りについていた。
 

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