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第1章
後悔〈キタラ家使用人視点〉
しおりを挟む全てがうまくいっていると思っていた。
「坊ちゃま、今日は食べ方が乱れていましたね。お仕置きですよ」
「なんですか、坊ちゃま。その反抗するような目は。貴族たる者、ポーカーフェイスを乱してはなりません。」
片眼が赤色の気持ちの悪い悪魔の子には、お仕置きをしてやらなければ。悪魔の子の分際で、なぜ人の上に立っているのだろうか。許せない。
そう思っている仲間が多くいたおかげで、私は日々ストレスの発散が出来ていた。坊ちゃまが声を上げない限り、このことはバレない。しかも、私たちの作戦により、今は伯爵ご夫婦と坊ちゃまは互いに嫌われていると思っている。ご兄弟も不干渉。バレるはずがない。ああ、なんで気分が良いのだろう。
今日はご三男のお披露目パーティー。朝から大忙しで、だいぶストレスも溜まっていた。パーティーも終わりに差し掛かったとき、1人のメイドから、坊ちゃまが外に出ていたと報告が来た。
絶好の機会だ。最近どれだけお仕置きをしても、表情があまり変わらなくなり、つまらなくなってきたので、今日はとっておきのものを出そう。
そして、私は坊ちゃまに死なない程度の毒を混ぜたお茶を飲ませた。すると、なんということだろう。気持ち良い程に苦しみ絶望する姿を見せてくれた。お茶を飲ませる前、気持ちの悪いことに何か話しかけられたが、機嫌が良くて態度が少し優しくなった私に期待したのだろうか。なんて無様な!
案外気絶するのが早かったが、その無様な姿を見れて、ストレスも少しばかり発散できた。
(今日は気分が良い)
しかし、次の日に坊っちゃまの部屋をノックしても返事がなく、勝手に部屋に入ると、そこには坊っちゃまの姿はなかった。とうとう辛くなってこの家を抜け出したのだろうか。お貴族の坊っちゃまなんて貧困の中で生きる術なんて知らないからどうせ道でのたれ死ぬことだろう
他の使用人たちも、
「働かないで金をもらえるなんて、この上ない幸せだわ~!」
「もうあの悪魔の子の世話をしなくて良いなんて、最高~!!」
などと、みんな喜んでいた。
ストレス発散の対象が無くなるから、少し辛いが、悪魔の子を視界に入れるよりは断然良いわ!
でも、幸せはそう長く続かなかった。
坊っちゃまが消えてから1週間ほど経ったある日、新しい使用人がこの邸に来た。その人もすぐに私たちと打ち解け、私たちはよく坊っちゃまに対してしていたことを自慢していた。それが、私たちを破滅に導く原因だとも知らずに。
そのまた2日後、ヴァディエ侯爵家の人間が急に邸にやってきた。坊っちゃまが居ないことがバレないように、体調不良だと報告をし、勝手に入られたらまずいので、済ました顔で坊っちゃまの部屋の前に立っていた。
数分後、急にこちらに数人の騎士がやって来た。
「お前が、エウテル様に毒を飲ませたメイドだな」
「なっ?」
なぜバレているの?しかもこの騎士、ヴァディエ家の騎士服を着ている。どういうこと?
「連れて行け。」
目の前のガタイの良い騎士は、後ろの女騎士にそう伝え、私はすぐさま拘束された。
「!!」
その拘束してきた女騎士に見覚えがあった。そうだ、こいつは新人の使用人だ!!まさか、スパイだったの?!
ほぼ茫然自失の状態になったころ、なぜか私は伯爵様の執務室に入れられた。そこには、憔悴しきった伯爵ご夫婦、そして侯爵ご夫婦と、おそらくご子息、先日この家から逃げ出したはずの坊っちゃまがソファに座って少し怯えた目で私を見ていた。
なぜ、ここに坊っちゃまがいる?!
「例の者を連れて参りました。」
女騎士はそう言って後ろに下がった。まずい。このままでは殺される。そう思った私は、勢いよく土下座し、謝罪を繰り返した。
「申し訳ございません!!申し訳ございません!!」
「平謝りなんぞ聞きたくもないわ」
ビクッ
今のは...侯爵夫人?
「顔を上げなさい」
そう優しい声で言ってきた。もしかして、私は助かる?そうよ!きっとそう!!やっぱり夫人も赤い眼を気持ち悪いと思っているのね!!だって悪魔の子だもの!!
バチンッッ!!!
「ぇ」
「あなたのその欲望に満ちた目の方がよっぽど気持ち悪いわ。自分がやったことはどのくらい酷いことなのか、自覚しているかしら?」
夫人は平手打ちをしながらそう怒りに満ちた目で言ってきた。
「だって...だって、しょうがないじゃない!!逆に感謝してよね!私がみんなの代わりに罰してあげていたのよ!!だって、みんなも赤い眼が気持ち悪くて避けているのよ!?悪魔の子なんだから、大人しく罰を受けていればよかったものを...!!」
全部、ぜんぶあんたが悪いのよ!!この悪魔の子!!!
「五月蝿い!悪魔はアンタだ!!たかが伝説を鵜呑みにして...!!ルテがお前に何かしたの?!」
次は侯爵家のご子息が怒る。
あいつが私に何かした?そんなの決まってるじゃない!悪魔の子は存在自体が罪なのよ!!
「お前は、信憑性のない伝説を言い訳にただ虐めたいだけなんだろう!」
「っ!」
「もういい。連れて行け。証拠がある使用人たち全員だ。」
私が言い返せなくなったのを機に、侯爵様がそう言った。
クソっ!!もっと徹底的に隠すべきだった!!私は悪くない!!悪くないのに!!
連れていかれた使用人は、リズを虐めたことではなく、それを隠し通せなかったことに酷く後悔した。
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