悪役令息の取り巻きになっても、音楽はできますか?!

ユパンキ

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第1章

キタラ伯爵家〈イル視点〉

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 「エウテルの境遇はイルから聞いた以上に酷いかもしれないね。」
 「同じ親として許せないわ!!!」
  
 「父上、母上。もしかしたら、ルテの両親は、このことをご存知ないのかもしれません。」
 
 「...どう言うこと?」

 「そのままです。ルテはメイド達に虐められていましたが、両親はその実情を把握していないと言うことです。」
 これは、あの小説の外伝を読んでから知ったことだ。僕が前世に読んでいたこの世界が舞台の小説には、悪役の過去が描かれていなかった。しかしその小説が発行されてから4年後、筆者が密かに執筆していた外伝が発売された。その外伝の内容に、悪役たちの過去が描かれていた。イルは、家庭内の問題はなかったが、ルテには、筆者に心はあるのかと疑うほど、酷い過去があった。
 
 ルテは、片方に赤い瞳を持つので、使用人たちに忌避されていた。この世界において、赤い瞳は血の象徴とされ、赤い瞳を持つ人は悪魔の子だと言われ、みんなから避けられ、罵られてきた。キタラ伯爵と夫人は、ルテが生まれた時、瞳を見た瞬間に悲しみはしたが、夫人が病弱だったため、やっと生まれた我が子を愛していた。しかし、社交界に出せばきっと周りの人間から忌避されてしまうだろうと考えた両親は、義務である学園に通うまでは、極力外に出さないようにした。それを使用人たちは両親がルテを嫌っていると勘違いしたのか、赤い瞳が気持ち悪いと言うこともあって、ルテを虐めるようになった。しかし、使用人たちは両親にバレないように自分の鬱憤をこっそり晴らしていたために、両親はルテの境遇に気づかなかった。おそらく、今もルテがいなくなったことさえ、知らないのだろう。使用人たちは、あたかもルテが両親を嫌っているかのような口ぶりで、ルテの様子を報告するからだ。それに騙された両親は、ルテのが嫌がることをしたくないため、ルテに会いに行かなかった。だから、ルテは両親に放置されていたと思っている。
 
 (そういえば、今のルテはどうやらこのことを知らないみたいだ。)
 
 もしかしたら、外伝を読んでいないのかもしれない。
 (ルテに伝えるべきか...)

 
 「それならば、まずは証拠を手に入れるために諜者を回すか。」

 「それがいいですわね。使用人の中に紛れて、証言を取りましょう。」
  
 僕が悩んでいる間に、父上と母上は話を進めていた。

 「父上、母上。ありがとうございます。」

 「なあに。同じ親の立場である身として、これは許せんのだよ。」
 「そうよ。騙されていたとはいえ、ほったらかしにしていたなんて、有り得ないわ。」

 「そうですね。僕もルテの友人として、全力で臨みます。」

 さっきルテは、自分のために怒ってもらえた程度のことに泣いていた。もしかしたら、前世でも辛い思いをしていたのかもしれない。
 にしても、ルテも転生者だったなんて驚いた。もちろん、自分の未来を変えることもすごく大事だけど、外伝を読んであまりにもルテというキャラクターが可哀想だと思った。ほぼほぼ脇役なのに。だから、ルテを幸せにしたいって、そう思ったから、ルテに友だちになろうって言ったし、会いに行った。もし、前世でも辛い思いをしていたのなら、その分も幸せにしてあげたい。あの子は、大分人を信用していなさそうだったから、今日少しだけ心を開いてくれて、嬉しかった。泣くのも今まであまりなかったのだろう。自分が泣いていたことにびっくりしていた。
 (ずっと、我慢していたのかな)
 もちろん、彼の過去のことは聞いていないから、あくまで推測でしかないが。僕は幸せ者だったんだなと思った。前世も友だちは多い方だったし、世間的には幸せだと思える家庭だった。転生後だって、イルは侯爵令息でなに不自由なく過ごせているし、両親も優しい。転生したときは、すごい焦ったし、周りの人たちにお別れを言えなかったから、すごく悲しかったけど、今はイルの人生を楽しんでいる。小説の主人公メニルの相手でもあるバトラ・ウィールに心底惚れてヤンデレになりさえしなければ、おそらく死刑は回避できるだろう。でも挿絵を見た感じ、めっちゃ好みなんだよなあ~。婚約者がいたのにメニルと惹かれ合うってのはヤバいけど、もともとイルのせいだし、イルがメニルを虐め始めた瞬間から、愛想つきて、もうバトラの中では婚約者じゃなかっただろうし。第一王子の妃がいじめっ子っていうのは絶対有り得ないことだからな。一番ダメなパターンでしょ。
 とりあえず、2人とも幸せに生き延びれるように、策を講じなければ。ルテにも好きなことをやらせてあげたい。今からだけど。

 そういえば、ルテの好きなものってなんだろう?
今度聞いてみよう!

 とりあえず、身の程をわきまえずにルテに傷をつけた奴らは絶対に許さない。早く捕まえて、ルテを安心させなければ。
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