それでもまだ...

【45】

「ごちそそうさまでした！」

「お粗末さまです」

「何それ！」

「えっ？」 
「おばあちゃんとかよく言ってなかった？」

「えっと、私まだ若者すけど」
「なにか？」

「...すいません」

そんな馬鹿な会話のなされた、早目の夕食

「お腹とか痛くないのな？」

「うん、大丈夫だよ」
「でも、ガーゼ変えてくる」

ガーゼ？

朋はトイレへと消えていった

「血の塊が出てきた..」
「しばらく血が出るって言ってたけど、ビックリした」

泣きはじめた...

「赤ちゃん痛かったかな」
「私の事恨んでるかな」
「まだ、あんなちっちゃかったのに」

零れる大粒の涙

何も言えず、何も出来ないでいる俺がいた

「動画で見ちゃったの...」
「中絶の動画...」
「逃げるんだよ..逃げるの..」

抱きしめた

「そんなに辛いならもう馬鹿な事はするな」
「一瞬でもママになったんだからな、その気持ち忘れるなよ」
「忘れない事が、思い続ける事がその子の幸せだからな」

泣きながら頷く朋

「私がママでいいのかな」
「ごめんなさい！」
「ごめんなさい！」

そう言うと俺の胸に顔を埋めた

どんだけ辛かったのだろう

どんだけ悩んだんだろう

どんだけ悲しんだんだろう

倫理的に許されない事なのだろうが

当事者だとしたら？

目の前に現実があるとしたら？

「気の済むまで泣けばいいよ」
「そばに居るから...」