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序章
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琉璃が通っている桜塚高校は自宅から徒歩15分ほどの距離にある。
入学当初は自転車通学も考えたが、結局徒歩通学にする事にした。15分くらいの距離ならば、ゆっくりと周りの景色をみながらのんびり帰るのも悪くないなと思ったからである。
校門をでて、少し蕾がつき始めたばかりの桜並木の続く長い下り坂を降りていく。5分ほど歩いたところで立ち止まり、小さな脇道に入った。この脇道はほのかと一緒に偶然見つけたもので、きちんと舗装されている道ではなく、誰かが何回か通って草を踏んだ為にできたのだろうと思われる、道と言っても良いのか迷う程度の本当に小さな道だ。
そのせいか皆ここの存在になかなか気づかないようで、ほのかと一緒に静かな穴場として、度々ここにきてはのんびりと過ごしている。
河原についた琉璃は傾斜一面に生えるシロツメクサの緑の絨毯の上にゆっくり腰を下ろし、近くの木にもたれかかった。
5月に入ればこの緑の絨毯は白く変わり、今もたれている桜の木も、もう少しすれば見事に花を咲かせる事だろう。
桜並木からちょっと外れたこの河原に、忘れられたように一本だけポツンと生えている桜の木。樹齢がいくつ位なのかはわからないがこれだけ大きい木ならば、気が遠くなるくらいの年月をかけて成長してきたのだろう。
学生鞄を傍らに置き、ぼんやりと川を眺める。
「……あれ?」
おかしい。目の前の景色が歪んで見える。慌てて目をこする。
しかしいくら目をこすってみても、目の前の歪みは一向に治らない。冷静に考えてみると、歪んで見えるのは目の前のたった一カ所の景色だけ。どうやら目のせいではないようだ。
(何だろ、これ? 変なの……。なんか蜃気楼みたい……)
そんな事を思いながら見つめていると、ふと歪みの奥でなにかが光った気がした。
誘われるように、思わず手を伸ばしてみる。
「うわっ!!……」
その瞬間、肘から先の手が消えた。
あまりの事に驚き、思わず手を引っ込めようとした瞬間、消えたはずの手のひらが強く引っ張られるような感覚をおぼえる。全体重をかけて必死に抵抗する。しかしその努力もむなしく、身体はどんどんゆがみの中に引き込まれていく。
顔面蒼白になりながら、助けを求めて周りを見渡すがもともと人気がないこの川原では、そんな努力も空しいだけだった。その時、遠くからほのかの声が聞こえた。
「るり~。遅くなってごめんねー」
息を切らしながらようやく川原の入り口に走り込んだほのかは、自分の到着を首を長くして待っているであろう友人に向け大声で話し掛けた。
「もう! 野田ってば相変わらず最悪……」
話しながら桜の木に近づいた瞬間、ほのかの目が奇妙な物を捕らえた。
それは、何も無い空間、いや……蜃気楼の様に微妙に歪んだ空間に顔半分まで飲み込まれた琉璃だった。
ほのかは呆然とその場に立ちつくした。
目の前で何が起こっているのかまったく理解できず、一歩も動けずにいると、
「ほ、……ほのか! たすけ……!!」
緊迫した友人の言葉が耳に届いた。体中から血の気が引き、一気に現実に引き戻される。
あまりの事に脳は思考を止めていたが、助けを求める友人の声に思わず体が反応し、既に腕だけしか残っていない友人の左手へと必死で手を伸ばした。その時、ほのかの立っている地面が盛り上がり、えぐれ、舞い上がった。
「わぁぁ!!」
盛り上がった地面と共にほのかは後方に大きく飛ばされる。
衝撃で体を強く打ち付けた。そのせいで体がすぐには動かない。そんなほのかの目の前で、土砂は勢いよく歪みに吸い込まれていく。
そして、土砂がすべて吸い込まれた後には、琉璃の姿も、歪んだ空間もまるで最初からなにもなかったかのように消えていた。
入学当初は自転車通学も考えたが、結局徒歩通学にする事にした。15分くらいの距離ならば、ゆっくりと周りの景色をみながらのんびり帰るのも悪くないなと思ったからである。
校門をでて、少し蕾がつき始めたばかりの桜並木の続く長い下り坂を降りていく。5分ほど歩いたところで立ち止まり、小さな脇道に入った。この脇道はほのかと一緒に偶然見つけたもので、きちんと舗装されている道ではなく、誰かが何回か通って草を踏んだ為にできたのだろうと思われる、道と言っても良いのか迷う程度の本当に小さな道だ。
そのせいか皆ここの存在になかなか気づかないようで、ほのかと一緒に静かな穴場として、度々ここにきてはのんびりと過ごしている。
河原についた琉璃は傾斜一面に生えるシロツメクサの緑の絨毯の上にゆっくり腰を下ろし、近くの木にもたれかかった。
5月に入ればこの緑の絨毯は白く変わり、今もたれている桜の木も、もう少しすれば見事に花を咲かせる事だろう。
桜並木からちょっと外れたこの河原に、忘れられたように一本だけポツンと生えている桜の木。樹齢がいくつ位なのかはわからないがこれだけ大きい木ならば、気が遠くなるくらいの年月をかけて成長してきたのだろう。
学生鞄を傍らに置き、ぼんやりと川を眺める。
「……あれ?」
おかしい。目の前の景色が歪んで見える。慌てて目をこする。
しかしいくら目をこすってみても、目の前の歪みは一向に治らない。冷静に考えてみると、歪んで見えるのは目の前のたった一カ所の景色だけ。どうやら目のせいではないようだ。
(何だろ、これ? 変なの……。なんか蜃気楼みたい……)
そんな事を思いながら見つめていると、ふと歪みの奥でなにかが光った気がした。
誘われるように、思わず手を伸ばしてみる。
「うわっ!!……」
その瞬間、肘から先の手が消えた。
あまりの事に驚き、思わず手を引っ込めようとした瞬間、消えたはずの手のひらが強く引っ張られるような感覚をおぼえる。全体重をかけて必死に抵抗する。しかしその努力もむなしく、身体はどんどんゆがみの中に引き込まれていく。
顔面蒼白になりながら、助けを求めて周りを見渡すがもともと人気がないこの川原では、そんな努力も空しいだけだった。その時、遠くからほのかの声が聞こえた。
「るり~。遅くなってごめんねー」
息を切らしながらようやく川原の入り口に走り込んだほのかは、自分の到着を首を長くして待っているであろう友人に向け大声で話し掛けた。
「もう! 野田ってば相変わらず最悪……」
話しながら桜の木に近づいた瞬間、ほのかの目が奇妙な物を捕らえた。
それは、何も無い空間、いや……蜃気楼の様に微妙に歪んだ空間に顔半分まで飲み込まれた琉璃だった。
ほのかは呆然とその場に立ちつくした。
目の前で何が起こっているのかまったく理解できず、一歩も動けずにいると、
「ほ、……ほのか! たすけ……!!」
緊迫した友人の言葉が耳に届いた。体中から血の気が引き、一気に現実に引き戻される。
あまりの事に脳は思考を止めていたが、助けを求める友人の声に思わず体が反応し、既に腕だけしか残っていない友人の左手へと必死で手を伸ばした。その時、ほのかの立っている地面が盛り上がり、えぐれ、舞い上がった。
「わぁぁ!!」
盛り上がった地面と共にほのかは後方に大きく飛ばされる。
衝撃で体を強く打ち付けた。そのせいで体がすぐには動かない。そんなほのかの目の前で、土砂は勢いよく歪みに吸い込まれていく。
そして、土砂がすべて吸い込まれた後には、琉璃の姿も、歪んだ空間もまるで最初からなにもなかったかのように消えていた。
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