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手の話【1話完結】
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「それじゃ、夏祭りの寄付の集金をよろしくお願いします」
──最悪。
今年はパートの仕事も忙しいのに、それに加えて夏祭りの集金係をやらないといけないとか……
思わず重いため息を吐きそうになるのを抑える。
「お子さんが小さくて大変なのにごめんなさいね~。だけど、みんなやってることだし……。順番だから、よろしくね」
去年集金係をつとめた井上さんのその言葉は一見申し訳なそうな感じを装っているけど、
"私も大変な中やったんだから、あんたもやりなさいよ"
と言いたい思いが薄っぺらい笑顔の奥から溢れダダ漏れていた。
こちらも苦笑いをしながら、その要請を受けるしかない。
田舎に住みたいという夫の強い願いを受け、都会に住んでいた私達はこの地に引越し、家を購入した。
こんなに干渉し合う羽目になると知っていたなら、絶対、家など購入しなかったと今なら声を大にして言える。
地域のほとんどが知り合いというこのあたりでは、単純にお金の集金だけで済むわけがない。ちょっとした世間話が始まり、そして最終的に干渉になっていくのだ。
やっぱり断ればよかった……。
そんなモヤモヤとした気持ちを抱えて渡された地図を見ながら、各家をまわっていく。
その日はパートが遅くなったので集金は諦めたかったけれど、期限が2日後に迫っていた。
遅い時間の訪問は気が重いけど仕方ない。行くしかない。
「次は山本さんちね」
山本さんには会ったことがない。
家の前に着くと、家の奥の方のカーテン越しに少しだけ灯りのようなものがみえた。
──ピンポーン
呼び出しのベルを押してみるけど反応なし。
一瞬影が揺れた気がして、もう一度押してみる。
ガチャ
暗闇からスッとあらわれたのは、
──真っ白な……手、?
玄関の電気はつけられず、暗いままで。
私の手もとの携帯の明かりだけが頼りなその薄暗い空間に白い手が見える。
「ヒッ!」
驚いて思わず悲鳴がもれる。
気味が悪い。
「あ、あの!今年の夏祭りのお金を集金にきました」
早く終わらせたくて捲し立てるようにそう口にする。
──そういうのはしてません。
その白い手の主はひどく小さい声でそう言った。
背筋がゾクっとして身体を引くと、玄関のドアはゆっくりと閉まった。
怖くなった私は、そのまま逃げるようにしてその家から離れた。
だけど帰り道をしばらく歩いているとイライラが募ってくる。
──というか、そういうのしてないってどういう事よ?
恐怖が抜けた後には、こっちだって好きで集めてる訳ではないのにという苛立ちが湧いてきた。
──もう帰ろう。やっぱり残りは明日集金しよう。
そう思って家に帰る途中、井上さんに出会った。
世間話の中に、ついつい愚痴がでる。
「山本さんの家に集金に行ったんですけど、そういうことはやってないってさっき追い返されちゃったんですよね」
その瞬間、目の前の井上さんの顔からサッと笑顔が消えた。
「えっ、山本さんの家に行ったの?渡した地図からは抜いておいたはずなんだけど……」
「?……それって、どう言うことですか?」
「山本さん、少し前に不幸なことがあってね。……今、あの家にはだれもいないのよ」
「え……」
──ねぇ、あなた。
いったいダレと話したの?
──最悪。
今年はパートの仕事も忙しいのに、それに加えて夏祭りの集金係をやらないといけないとか……
思わず重いため息を吐きそうになるのを抑える。
「お子さんが小さくて大変なのにごめんなさいね~。だけど、みんなやってることだし……。順番だから、よろしくね」
去年集金係をつとめた井上さんのその言葉は一見申し訳なそうな感じを装っているけど、
"私も大変な中やったんだから、あんたもやりなさいよ"
と言いたい思いが薄っぺらい笑顔の奥から溢れダダ漏れていた。
こちらも苦笑いをしながら、その要請を受けるしかない。
田舎に住みたいという夫の強い願いを受け、都会に住んでいた私達はこの地に引越し、家を購入した。
こんなに干渉し合う羽目になると知っていたなら、絶対、家など購入しなかったと今なら声を大にして言える。
地域のほとんどが知り合いというこのあたりでは、単純にお金の集金だけで済むわけがない。ちょっとした世間話が始まり、そして最終的に干渉になっていくのだ。
やっぱり断ればよかった……。
そんなモヤモヤとした気持ちを抱えて渡された地図を見ながら、各家をまわっていく。
その日はパートが遅くなったので集金は諦めたかったけれど、期限が2日後に迫っていた。
遅い時間の訪問は気が重いけど仕方ない。行くしかない。
「次は山本さんちね」
山本さんには会ったことがない。
家の前に着くと、家の奥の方のカーテン越しに少しだけ灯りのようなものがみえた。
──ピンポーン
呼び出しのベルを押してみるけど反応なし。
一瞬影が揺れた気がして、もう一度押してみる。
ガチャ
暗闇からスッとあらわれたのは、
──真っ白な……手、?
玄関の電気はつけられず、暗いままで。
私の手もとの携帯の明かりだけが頼りなその薄暗い空間に白い手が見える。
「ヒッ!」
驚いて思わず悲鳴がもれる。
気味が悪い。
「あ、あの!今年の夏祭りのお金を集金にきました」
早く終わらせたくて捲し立てるようにそう口にする。
──そういうのはしてません。
その白い手の主はひどく小さい声でそう言った。
背筋がゾクっとして身体を引くと、玄関のドアはゆっくりと閉まった。
怖くなった私は、そのまま逃げるようにしてその家から離れた。
だけど帰り道をしばらく歩いているとイライラが募ってくる。
──というか、そういうのしてないってどういう事よ?
恐怖が抜けた後には、こっちだって好きで集めてる訳ではないのにという苛立ちが湧いてきた。
──もう帰ろう。やっぱり残りは明日集金しよう。
そう思って家に帰る途中、井上さんに出会った。
世間話の中に、ついつい愚痴がでる。
「山本さんの家に集金に行ったんですけど、そういうことはやってないってさっき追い返されちゃったんですよね」
その瞬間、目の前の井上さんの顔からサッと笑顔が消えた。
「えっ、山本さんの家に行ったの?渡した地図からは抜いておいたはずなんだけど……」
「?……それって、どう言うことですか?」
「山本さん、少し前に不幸なことがあってね。……今、あの家にはだれもいないのよ」
「え……」
──ねぇ、あなた。
いったいダレと話したの?
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