勇者に祝福したら職業(ジョブ)が入れ替わった!?

青い墨汁

文字の大きさ
上 下
4 / 8

第3話

しおりを挟む
 グレンは相変わらず休日は街に出かけているらしい。

「視察も兼ねているからね。それに街のみんなの顔も見たいんだ」

 そんな風に言っていた。
 王様なのに、忙しいだろうに。ちゃんと街の空気を感じたいらしい。

 そう。街だ。

 アンフェールの好奇心がむくりと起き上がる。
 アンフェールは現在の街を知らない。古代竜エンシェントドラゴン時代の街なんて遥か昔だ。色々変わっているはずなのだ。
 精霊の目を通して街を見た事はあるけれど、それはあくまで精霊の目。
 見えるビジョンはふんわりぽやんなのだ。

 見たい。歩き回りたい。そしてグレングリーズが作った国を、グレンが治める国を知りたい。

 ぱぁぁぁぁっ、とアンフェールの夢の情景が花開く。

 これは崇高な目的なのだ。
 別に美味しいものが食べられるんじゃないかなんて微塵も思っていない。
 連れてってくれないだろうか。
 王弟だって視察してもおかしくないと思うのだ。

「兄上、私も街に行きたいです」
「駄目だ」

 秒で断られた。
 もっと、うーん、とか思い悩む間合いを入れてくれてもいいのに。

「私は外の世界を知りません。この国を支える者として、このままではいけないと思うのです」

 アンフェールは尤もらしい理由をひねり出した。王族ぶりっこだ。
 表情も真面目だ。
 こんなに真剣に国の事を考える弟を見たら、グレンも考えを改めると思うのだ。

 思った通り、グレンはうっとなった。
 グレンは真剣に国の事を考えている。だから弟の高い志を折る事はしないだろう。
 策士アンフェールはにやりと笑った。

「……私一人ではアンフェールを守りきれるか不安だ。護衛もつけていいなら相談してみよう」

 勝った。

 アンフェールの中の小さいアンフェールたちが拳を突き上げ、わ~わ~と勝鬨かちどきを上げた。



◇◇◇



「おっ、殿下、可愛いな!」
「ありがとうございます」

 エドワードが軽い調子で声を掛けてくる。
 離宮の馬車どまりには既にエドワードとロビンが待っていてくれた。

 本日の護衛はロビンとエドワードだ。
 ロビンはグレンの夜間護衛をしていただけあって、体術に関してはかなりのものらしい。
 エドワードも第二王子の閨係を目指した時点から体術を仕込まれたんだそうな。七年、かなり強くなったんだぞ、と自慢された。

 アンフェールは素のままだと目立って仕方がない。
 なので目立つ髪を隠し、『認識阻害』の魔道具を使って目立たないようにしている。

 『認識阻害』の魔道具は眼鏡だ。太古の時代から『認識阻害』と言えば眼鏡だ、という位定番の魔道具である。
 アンフェールと親しい者は顔を認識してしまうけれど、知らない者は認識できないという術が仕込まれている。

 髪の毛はシンプルにアップスタイルにして、帽子をかぶっている。側仕え達は可愛い髪形にしたいとウズウズしていたが、そこは抑えて貰った。
 ファッションは街中にいそうな平均オブ平均の少年の格好らしい。
 これでどこから見ても街の子にしか見えないのだ。

「エドワードとロビンの普通の恰好を初めて見ました」
「はは。様になってるだろ? でもロビンは目立つかもな」

 エドワードの言葉に、ロビンをまじまじと見てしまう。
 普段着を着ている壁だな、って思う。ロビンが側にいるだけで、アンフェールは全然目立たないだろう。

「すまない、待たせた」

 グレンがやって来た。
 ラフなシャツと簡素なパンツスタイルだ。それでも内側から品の良さがにじみ出ている。番びいきのスパイスを抜いても平民には見えない。
 カッコいい。
 アンフェールは見惚れてしまう。番はいついかなる時もカッコいいのだ。

 そんなアンフェールとは逆に、グレンはこちらを見て早々渋い顔をする。

「アンフェールの可愛さが、隠せていないと思うのだが……」
「兄上、認識阻害の魔道具を付けているのです。眼鏡なのですが」
「認識出来ているが……」
「親しい相手には効かないんですよ。だから兄上には分かってしまうのです」

 そう言っただけでグレンは途端に機嫌が良くなった。
 弟に親しいと言われただけで喜んじゃうなんて、本当に可愛い兄なのだ。

「本当は護衛であればギュンターに頼みたかったのだがな。今は忙しいらしい」

 グレンは今回の護衛が二人であることの説明をしてくれた。

 ギュンターが忙しい理由は、アンフェールが渡した証拠資料関係で動いているからだ。
 あちらはとても重要な事なので邪魔してはいけない。
 ぶっちゃけ何に襲われてもアンフェールは一人で対処できる。『護衛を付けた』というアリバイ用の護衛なら誰でもいい。

「でも、エドワードとロビンとお出かけできるのは嬉しいです!」

 アンフェールはギュンターに処々任せてしまっている分、彼をフォローしたくなってしまった。
 ギュンターが来られなかった結果、教会時代の仲良し二人と時間を共に出来るのだと、嬉しさを前面に出して伝えた。

「いやあ、そうですね! ダブルデートみたいだなぁ! 勿論俺の相手はロビンですよ!」

 何故か急にエドワードが音量高めにロビンとの仲を主張しだした。
 なんだろう。二人の仲が良いのは知っている。

 エドワードの方を向いていたグレンがこちらを向く。優しい微笑みを浮かべていた。

「……そうか、アンフェールと私がカップルか」
「兄上と仲良しなのは嬉しいです」

 ダブルデートごっこでも、カップルごっこでも嬉しい。
 グレンと顔を見合わせ、えへへ、と笑い合った。
 手を取ってくれる。
 アンフェールはグレンにエスコートされ、馬車に乗り込んだ。




 馬車は街に向かいガタゴト走る。いつもと違う情景が車窓に流れるだけで随分刺激的だ。
 グレンは普段馬に乗り、街に行くらしい。
 馬に乗るグレンは精霊時代何度も見ている。絵本の王子様のようにカッコ良くて憧れてしまう。

 アンフェールも一回くらい乗ってみたい。

 アンフェールは前世でも今世でも馬に乗った事は無い。でも馬に『乗せて』ってお願いすれば乗れる気がする。
 しかし一度も乗った事が無い十四歳が急に乗馬が出来るのも不自然だ。
 だからいつも大人しく馬車に乗せられている。

「兄上、私も馬に乗ってみたいです」

 アンフェールは馬内のグレンに視線を移した。おねだりするよう、上目遣いだ。

「……一人で乗るのは危ない。二人で乗ろう」

 グレンはアンフェールの肩に腕を回した。

「いいのですか!」
「ああ。ちょっと先になるが纏まった休暇が取れる。その時に遠乗りをしてみようか」
「はい!」

 アンフェールは嬉しくなってしまった。
 グレンが纏まった休暇が取れると。しかもその時に遠乗りに連れていって貰えると。


 目の前のエドワードが「さりげなく次のデートの約束を成立させる手腕」と小さな声で呟いていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...