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第一部
招待状
しおりを挟む「あんの小僧、いないと思ったらこんなところに忍び込みやがって」
いつもは落ち着いているレラージェが、王子らしからぬ声で怒りをあらわにした。どうやら真希が受け取った封筒は、貴賓客のために開かれる舞踏会の招待状だったようだ。
「……あの、ごめんなさい。私、何かやらかしちゃいました?」
「いや、違うんだ、君は何も悪くない。今回の件は、もっと厳重な警備を敷かなかった僕に落ち度がある」
レラージェが落ち込む真希を抱き寄せて、なだめるように背中を撫でた。
現在、真希が暮らしている場所は、レラージェに充てがわれた王宮の一画だ。本来であれば、許可のない者は立入禁止区域になっている。おそらく第三王子は、王族の権力を笠に着て警備兵を脅したのだろう。
「それに遅かれ早かれ、稀人が来たことを公表しなければならない。それが少し早まっただけで、良い機会なのかもしれない」
稀人に不思議な力があるという言い伝えを知っているのは、真希と王族だけだ。それでも妙齢の女性が現れたとなれば、結婚を申し込んでくる輩(やから)が大勢出てくるのは容易に予想できた。
「舞踏会は三日後に開かれる。急な話だから、今回は既製品をマキのサイズに仕立ててもらうことになる」
「……先に言っておきますけど、私ダンスなんて踊れませんよ?」
真希が踊れる曲といえば、せいぜい“ド○えもん音頭”くらいだ。煌びやかなダンスホールで、貴婦人たちに混ざってド○えもん音頭を踊る自分の姿を想像し、真希は一瞬気が遠くなった。
「大丈夫、マキはただそこにいてくれるだけで良いんだ。今回はナーガ王国の王族がメインで、君はお披露目をするだけだ。何も心配する必要はないよ」
ホッとした真希を、今度はアルマロスが抱き寄せてチュッと口付けた。
「当日、俺は警備に回るから近くにいてやれない。だからレラージェの側から絶対に離れないこと。もし何かあったら、近くの兵に言って俺を呼ぶと約束してくれ」
少々過保護な気もしたが、警戒するに越したことはないのだろう。そこのところは彼らに任せるしかない。
それよりも問題はドレスだった。これまでも屋敷にいた時にアルマロスがたくさんのドレスを用意してくれたが、そのどれもが童話に出てくるようなプリンセスドレスで、いい歳をした真希には着る勇気がなかった。なので普段は淡い色味のシンプルな物を好んで着るようにしていたのだが、今回はそういうわけには行かなそうだった。
「そうと決まれば、すぐ仕立て屋を呼んでドレス選びだ。それから身に着ける宝石も決めなくちゃね。僕の大切な伴侶のお披露目なんだから、目一杯着飾ろうね」
レラージェがニコニコ顔でいろいろ思案し始めた。とりあえず真希はひらひらのドレスや、ごてごての飾りはやめて欲しいとだけ伝えて、あとは運を天に任せることにした。
「マキ、礼儀作法はセバスを呼んで習うよう手配をする。基本マナーさえ出来れば十分だ」
久しぶりにセバスと会えると分かって、不安だらけだった真希の気持ちが少しだけ浮上した。それを見て取ったアルマロスは、ルビー色の目を細くして真希を見つめた。夜空を切り取ったような闇色の瞳に下から見上げられ、気が付くとアルマロスは唇を重ねていた。
久方ぶりのキスだった。ここのところ、ナーガ王国の来賓客を迎える準備でバタバタしていたのもあって、アルマロスと最後に体を重ねた日がずいぶん昔のように感じられた。
唇を合わせるだけのキスが、いつの間にか舌を絡めた深いものへと変わっていく。だんだん呼吸が苦しくなってきたところで、彼は真希の唇から離れた。
「はぁ……マキを今抱きたい」
熱っぽい表情の彼に見つめられ、真希の胸が高鳴った。そんな彼と見つめ合うのに耐えられなくなり、真希は眼差しを伏せた。それを見て、彼が再び唇を重ねようと顔を近づけてきた。
「はい、そこまで」
「グッ……」
「マキと過ごしたいのは僕も同じだ。それよりも、三日後に備えてしなくちゃいけないことが山ほどあるだろう。だからマキに触れるのはしばらくおあずけだ」
レラージェに後ろから手刀打ちされ、アルマロスは頭をおさえた。確かに今はイチャイチャしている場合ではない。
まずはセバスが城に到着し次第、マナーの勉強だ。そう気持ちを改めていると、グイッと腕を引き寄せられ、次の瞬間、今度はレラージェに口付けられていた。
「レラージェ、貴様ぁ……!」
アルマロスの声を聞いて唇を離したレラージェは、「それじゃ、またね」と真希にウインクをして足早に去って行った。
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続き楽しみに待っています~頑張って下さいね~
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