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第八話
しおりを挟む彼との食事を終え、私は一足先に浴室を使うことにした。彼は引き渡しの際に綺麗にしてもらったから、購入したパジャマに着替えるだけだ。
異世界に来てからというもの、私にとって入浴は癒しのひと時になっていた。新しく買った香油は、とても良い香りでアロマ効果もあって気に入っているし、化粧水と乳液は混合肌の私にピッタリ合って使い心地は最高だ。
トリートメント効果のあるトロッとした別の種類の香油で髪をツヤツヤにし、ポカポカに温まってご機嫌で部屋に戻ると、ヴィンセントは渡したパジャマに着替えておらずその場に立ち尽くしていた。
「あれ、ヴィンセントさん。着替えないんですか?」
不思議に思って私が尋ねると、彼からとんでもない言葉が返ってきた。
「……俺のご主人は奴隷の取り扱いをよく分かっていないようだから教えてやろう。奴隷とその持ち主は一心同体、いついかなる時も離れてはならんのだ」
な、何ですと!?そんなこと奴隷商のおじさん一言も言ってなかった気がするけど!?動揺する私を前に彼は追い打ちをかけるかの如く続ける。
「つまり、持ち主であるご主人は、奴隷である俺と常日頃から共にいる義務がある」
その義務とは、衣食住の他、着替えや入浴の時も一緒であり、さらに就寝する際は同じベッドで眠らなければならないという信じられないものだった。私ったらそんなことも知らずに奴隷を購入してしまったのね!
「ご、ごめんなさい!私、そうとは知らずに勝手にお風呂に入ってしまって……」
明日からちゃんと気をつけますと言うと、「うむ」と応えて満足げなヴィンセントさん。危ない危ない、私ったらもう少しでネグレクトなご主人になるところだったわ。きちんと教えてくれたヴィンセントさん、良い人で本当によかった。
そうしてようやく私の前で着替え始めたヴィンセントさん。ちょっと気まずいけど、彼の下着姿も早く見慣れなくちゃね。
ところでやっぱり痩せているヴィンセントさんを見ていると痛々しい。一刻も早く筋肉をつけてもらえるよう、いっぱい食べてもらわねば!
さてと、それじゃあ同じベッドで寝ましょうかね。私は彼の教えに従って同じベッドに入った。シングルサイズなので二人で寝ると全くもって身動きが取れない。こうなると知っていればクインサイズのベッドの部屋にしたのに。そのことを伝えて謝ったが、彼は気にしていないと言って私を背後から抱きしめる形で横になった。
「お、おやすみなさい」
男性と寝るなんていつぶりだろう……しかも奴隷と一緒に寝るだなんて……奴隷を持つって大変なのね。責任重大だわ。
しばらくの間寝付くことができなかったけれど、背中に感じる人の温もりに安心したのだろう、いつの間にか眠りについていた。
翌朝、目を覚ますとなぜか上半身が裸だった。そして、どアップのヴィンセントさんが視界に映って驚きのあまり飛び起きた。
「ひゃっ、ビックリした……そ、そうだ私、昨日奴隷を買ったんだっけ」
小さく寝息を立てて眠るヴィンセントさん。こうして見るとまつ毛が長くて肌も綺麗だし、現役の頃はさぞモテたことだろう。そして閉じられた双眸の裏にあるルビーのような美しい赤を思い出してキュンとした。
ところで、何で私は上を着ていないのだろう。胸の辺りにキスマークがいっぱいある。もしかして、ヴィンセントさんが!?
あ、そうだった、こんなことしていられない!彼の食事をもらってこなくちゃ!けれど起きあがろうとしたら、彼の腕が伸びてきて再びベッドの中に抱え込まれてしまった。
「きゃっ!」
「起きたのか……」
「は、はい!おはようございます!」
起きて早々、耳元にハスキーボイスで囁かれてしまい、へにゃりと体から力が抜けてしまう。
「ユミよ、ご主人は朝起きたら奴隷を口づけで起こさねばならないのだ」
「えっ!?」
そうなの!?私ったらそれを知らずに一人で起きようと……。
「ご、ごめんなさい!今すぐします!」
私はギュッと目を閉じると、彼の唇に自分の唇を押しあてた。
……ちゅ。
ヴィンセントさんの唇は柔らかくて少しカサついていた。そして目を開けると、そこには朝日に輝く赤い双眸が私を見つめていた。
「うむ。ご主人、今日もよろしく頼む」
共に起床した私たちは、彼にガン見されながら一緒に着替え、そのあと食堂へと向かった。けれど奴隷は同伴できないと言われてしまい、お膳を持って部屋に戻った。
何よ、奴隷は家畜小屋で家畜と同じ餌を食べるだなんて!まったく頭にくるわ!
朝食をとりながら、私たちはこれからについて話し合った。とにかく今はヴィンセントさんを回復させなければならない。そこで彼に必要なことをリストアップしていくことにした。
一、充実した衣食住
二、程よい運動
三、主との良い関係
四、良いセックス
え?ちょ、ちょっと待ってヴィンセントさん。四番目の良いセックスとはどういう?
「ヴィンセントさん?こ、この良いセックスって必要なことなんですか?」
すると、彼はニヤリを笑って「当然だ」と言った。
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