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メイランの古い洋館
シスターの決意
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「こっちがマーテルで、こっちがエンヒです」
「ど、どうも……」
まるで嫁の実家にでも来たかのように肩をすくめて挨拶をする。マーテルと呼ばれた、ツンツン頭の女の子は、腰に手を当てて歩み出た。
「今回はスピカが世話になったみてえだな。この通りだ」
「い、いいよそういうのは……」
姉御肌なのか言葉遣いは荒くてもたいへん律儀だ。言われてるこっちが緊張する。
「俺も一応は勇者って役割を授かった身だし、その一歩を踏み出させてくれたのがスピカってわけだからな」
「スピカちゃんがいなければヒロキ様は村を出ようとしなかったかもしれませんし。ね?」
う、アナから笑顔の圧力が……。まあ結果として勇者の仕事をこなしてるんだから終わりよければなんとやらだ。
「うちのスピカはご迷惑をかけませんでしたかぁ?」
もう一人のエンヒと呼ばれた涙ぼくろが目立つ彼女は、ゆったりとした動作でそう言った。マーテルとは対照的だ。
「いやそれはもう、ドジという言葉では片付けられないくらいで」
「ガーン!」
正直に言うとスピカはショックを受けた顔をする。いや、それはさすがに誤魔化せないわすまん。
「でしょう?昔からガラス製のものを全て割っちゃうし、魔法で家を全焼させちゃうし、魔物を自ら連れ帰ってくるし、何回命の危機にあったか……」
マーテルもそれを聞いてやれやれとため息をつく。二人とも相当苦労してきたみたいだ。
「それもこれもアカツキ様がなんとか収めてくれてたんだが……」
「アカツキ?」
「ああ、私らがメンバーに加わってたパーティの勇者だよ。町の結界が解けて以来行方知れずだけどな」
そうか、一応設定的には主人公がスピカの暴走をなんとかしてるんだな。で、主人公がいなくなったから暴走してしまったと。
「それから二人はどうしてたんだ?」
「どうもこうも、一応は教会の周りに来た淫魔は退治してるけど勇者がいないんじゃ力が半分も出やしねえし……。正直今できることは何もないな」
「せめて本気を出せる状態になればいいんだけどねぇ」
そうか、勇者の力はパーティメンバーの力を増幅させる。それがないとマトモに戦うことすらできないんだな。
「そしたらヒロキ様のパーティに入れて貰えばいいんじゃないかな?」
そう提案してきたのはスピカだった。もちろん俺もそれを考えはしたが、二人からすればずっと連れ添ったアカツキとやらがいるわけで、おいそれと何処の馬の骨とも知らん男と契りを結んでくれるのやら……。
「……正直私は戦い方を忘れちまった部分がある。外に出られないから、剣の素振りすらろくにできやしない。今私が出しゃばっても足を引っ張るだけだと思うんだ」
マーテルは思ったより冷静な意見を出した。エンヒもそれに同意するように頷く。
「魔法を試す機会もしばらく奪われてしまって……おまけにこの街に出てくる淫魔はどれも強いでしょう?スピカが逃げ出した時のことを考えたら、あまり戦う気は起きないわぁ……」
そうか……。ここで即戦力を手に入れられたら心強いと思ったのだが。本人たちが乗り気でないなら仕方がない。
さて、アナとスピカはいいとして残り二人をどう集めるか……そう考えあぐねている時、後ろから声を掛けてくる者があった。
「あの、私に行かせてはいただけませんか」
声の主は、先程外で教会まで案内してくれたシスターだった。ローブの端をぎゅっと握って、瞳をじっとこちらに向けている。
「私に……って、シスターに?」
「我々、神職に携わる者には教会を、町を守る責務があります。大司教様もきっと認めてくれることでしょう」
その意気込みやよし。しかしシスターの戦闘力やいかに……。
「私は一通りの攻撃魔法と治癒魔法を扱うことができます。威力は本職の魔導士に及びませんが、魔力量なら自信があります」
なるほど、ずっと誰かを回復させ続ける、みたいなことができるわけか。それはそれでありがたい。魔法使い三人になるけど。
「それじゃあ、ええと……」
「フーリと申します」
「フーリ、早速契りを交わして教会の周りを探索しようか。現状どうなってるのかを早めに把握しておきたい」
「はい……ただ、夜になってからでよいでしょうか……子供たちもいることでふし……」
フーリは急にもじもじしだす。あー、なんか感覚バグっていたが今の俺の発言はずばり「えっちしよう」になるわけだな。すまない、そういうゲームなんだ。
「じゃ、今日の夜な」
とりあえずはこれで一人、パーティメンバーが埋まったわけだ。
「ど、どうも……」
まるで嫁の実家にでも来たかのように肩をすくめて挨拶をする。マーテルと呼ばれた、ツンツン頭の女の子は、腰に手を当てて歩み出た。
「今回はスピカが世話になったみてえだな。この通りだ」
「い、いいよそういうのは……」
姉御肌なのか言葉遣いは荒くてもたいへん律儀だ。言われてるこっちが緊張する。
「俺も一応は勇者って役割を授かった身だし、その一歩を踏み出させてくれたのがスピカってわけだからな」
「スピカちゃんがいなければヒロキ様は村を出ようとしなかったかもしれませんし。ね?」
う、アナから笑顔の圧力が……。まあ結果として勇者の仕事をこなしてるんだから終わりよければなんとやらだ。
「うちのスピカはご迷惑をかけませんでしたかぁ?」
もう一人のエンヒと呼ばれた涙ぼくろが目立つ彼女は、ゆったりとした動作でそう言った。マーテルとは対照的だ。
「いやそれはもう、ドジという言葉では片付けられないくらいで」
「ガーン!」
正直に言うとスピカはショックを受けた顔をする。いや、それはさすがに誤魔化せないわすまん。
「でしょう?昔からガラス製のものを全て割っちゃうし、魔法で家を全焼させちゃうし、魔物を自ら連れ帰ってくるし、何回命の危機にあったか……」
マーテルもそれを聞いてやれやれとため息をつく。二人とも相当苦労してきたみたいだ。
「それもこれもアカツキ様がなんとか収めてくれてたんだが……」
「アカツキ?」
「ああ、私らがメンバーに加わってたパーティの勇者だよ。町の結界が解けて以来行方知れずだけどな」
そうか、一応設定的には主人公がスピカの暴走をなんとかしてるんだな。で、主人公がいなくなったから暴走してしまったと。
「それから二人はどうしてたんだ?」
「どうもこうも、一応は教会の周りに来た淫魔は退治してるけど勇者がいないんじゃ力が半分も出やしねえし……。正直今できることは何もないな」
「せめて本気を出せる状態になればいいんだけどねぇ」
そうか、勇者の力はパーティメンバーの力を増幅させる。それがないとマトモに戦うことすらできないんだな。
「そしたらヒロキ様のパーティに入れて貰えばいいんじゃないかな?」
そう提案してきたのはスピカだった。もちろん俺もそれを考えはしたが、二人からすればずっと連れ添ったアカツキとやらがいるわけで、おいそれと何処の馬の骨とも知らん男と契りを結んでくれるのやら……。
「……正直私は戦い方を忘れちまった部分がある。外に出られないから、剣の素振りすらろくにできやしない。今私が出しゃばっても足を引っ張るだけだと思うんだ」
マーテルは思ったより冷静な意見を出した。エンヒもそれに同意するように頷く。
「魔法を試す機会もしばらく奪われてしまって……おまけにこの街に出てくる淫魔はどれも強いでしょう?スピカが逃げ出した時のことを考えたら、あまり戦う気は起きないわぁ……」
そうか……。ここで即戦力を手に入れられたら心強いと思ったのだが。本人たちが乗り気でないなら仕方がない。
さて、アナとスピカはいいとして残り二人をどう集めるか……そう考えあぐねている時、後ろから声を掛けてくる者があった。
「あの、私に行かせてはいただけませんか」
声の主は、先程外で教会まで案内してくれたシスターだった。ローブの端をぎゅっと握って、瞳をじっとこちらに向けている。
「私に……って、シスターに?」
「我々、神職に携わる者には教会を、町を守る責務があります。大司教様もきっと認めてくれることでしょう」
その意気込みやよし。しかしシスターの戦闘力やいかに……。
「私は一通りの攻撃魔法と治癒魔法を扱うことができます。威力は本職の魔導士に及びませんが、魔力量なら自信があります」
なるほど、ずっと誰かを回復させ続ける、みたいなことができるわけか。それはそれでありがたい。魔法使い三人になるけど。
「それじゃあ、ええと……」
「フーリと申します」
「フーリ、早速契りを交わして教会の周りを探索しようか。現状どうなってるのかを早めに把握しておきたい」
「はい……ただ、夜になってからでよいでしょうか……子供たちもいることでふし……」
フーリは急にもじもじしだす。あー、なんか感覚バグっていたが今の俺の発言はずばり「えっちしよう」になるわけだな。すまない、そういうゲームなんだ。
「じゃ、今日の夜な」
とりあえずはこれで一人、パーティメンバーが埋まったわけだ。
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