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メイランの古い洋館

荒廃したメイランの町

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 赤道直下のようだった日差しも幾分か和らいできて、足元にチラホラと草が生えてくるようになった。遂に長かった砂漠地帯を抜けたのだ。

「なんとか辿り着けましたね」

 砂漠が終わったということは即ちスピカが元々いた町、メイランに辿り着いたことを意味する。確かに、緑に覆われた丘の上あたりに人工物らしきものが見てとれた。

「なんだか久しぶりに帰ってきたみたいです」

「久しぶりに帰ってきたんだからな」

 この距離を一人で逃げてきたっていうんだから……スピカって基礎能力は高いのか? クロス村からしばらく旅をしているわけだが未だに見当がつかない。

「では! メイランの皆さんにご挨拶に行きまs」

「ちょっとまて」

 今すぐにでも走り出そうとするスピカの首根っこを掴んで止める。スピカはきょとんとして俺の顔を眺めた。

「お前、メイランの町がどうなってるのか、自分で言って忘れたのか?」

「メイランの町……はっ! そうでした……淫魔に占拠されているんでした……」

 アナやアストロデューテの話を聞く限りにわかには信じがたいが、バリアに守られてるはずの町の中に魔物が出ていると。元のゲームのシナリオをやりこんでいるわけではないから、これがシナリオ通りなのかこの世界ならではのイレギュラーなのかも判断できない。

「とりあえず様子を見に中に入ってみるしかねえな。気を引き締めていくぞ」

 アナとスピカは二人とも魔導師なので後方援護を任せ、俺は一人剣を構えて前衛に出る。こういう時はイルナみたいな剣士の仲間が欲しいものだ。

 丘を登っていくと、明確に町並みが現れてきた。煉瓦造りのモダンな建物が立ち並び、異国の郊外の様相だ。

 しかし、その美しい町の中には誰もいない。それどころか窓は割れ、花壇は荒らされ、石畳はボロボロになって土が露出している。

「これは酷いな……」

 住人たちは逃げたのか、それとも……淫魔とて魔物は魔物だ。万が一のことがあってもおかしくはない。

「逃げ遅れている人がいないか探すぞ」

 店の中を見ても棚から机から全てひっくり返されていて、しかもその上に埃を被っている。スピカがクロス村に来たのが一週間ちょっと前、ということはスピカがメイランを発ったのは二週間……最悪一ヶ月ほど前ということになる。

 仮にどこかに隠れていたとしても、ずっとそこに留まっていることはできないだろう。どう考えても救助をするには到着が遅すぎた。

 その時だった。誰もいない町の中で大きな足音が聞こえた。ドスドスと響く音……これは人間じゃねえな……。

「くるぞ」

「はい……!」

 建物の影から現れたのは2mほどもある体格で二足歩行をしている狼だった。こいつは……。

「なんだタチバックウルフか。この程度すぐに倒してやる」

 砂漠までで俺もかなり強くなっている。弱い淫魔の代名詞とも言えるウルフくらい簡単に捻り潰せる……と思ったのだが、その時後ろでアナが叫ぶ。

「下がって! あれはタチバックウルフじゃありません!」

「へ?」

 気が逸れた瞬間、狼野郎の両手の爪が顔に肉薄していた。すんでのところで剣を滑り込ませ、受け流す。

「なんだこいつ……速度が尋常じゃねえ」

「これはフタアナレーパー……タチバックウルフの上位種です!!」
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