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平原の遺跡編

エロトラップダンジョンその1

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 階段を下ると、石造りの四角いトンネルがそのまま奥に続いていた。壁には松明が灯り、トンネル内はオレンジ色に照らされている。

「これはまさにダンジョンって感じだな」

「な、なんだか不気味です…」

 スピカはアナの後ろに隠れながらおっかなびっくりついてきている。既にスピカが変なスイッチを押して岩に追いかけ回されるところまで想像ができた。

「罠があるかもしれないから気を付けろよ」

 無意味と思いつつも一応みんなに忠告しておく。ガルもスピカも注意したところで聞かないだろうから結局見張っておくしかないのだが。

「ヒロキ様」

 するとアナが俺の服の裾を引っ張って小声で呼ぶ。目を凝らすと、トンネルの奥に蠢く何かが見えた。

 幾度と見たその姿。シルエットだけでも分かる。タチバックウルフだ。群れなのか、少なくとも五匹以上はいるように見える。

 こう狭いところで鉢合わせると戦いづらい感は否めないな。……そう思っていたらアナが杖を持った右手を前に突き出してこう提案した。

「ここで炎を吹き出せばあいつらを丸焦げにできるんじゃないでしょうか」

 確かに。狭いということは相手も逃げ場がないということ。遠距離攻撃がより有効になるということだ。

「よし。いっちょやったれ」

「はい!」

 アナはそのまま杖に力を込め、トンネルの奥に狙いを定める。魔力なのか、微かな光が杖の先に灯った。

 そしてそれがあるタイミングで眩い炎と化し、体積を増幅させてトンネル内に充満していく。暗いからか、思わず目を細めてしまうほど明るく感じる。

「どうだ?」

 十秒ほど放出されていた炎が立ち消えると、次第にトンネル内の様子が浮き上がってくる。そこにウルフたちの姿は一匹も見受けられなかった。

「成功だな」

「やりました!」

 アナは嬉しそうに右手でグッドサインをした。この調子で行けば最奥部まで行けるかもしれない。

「とりあえず淫魔が蔓延っているダンジョンだってのは分かったな。みんな、気を引き締めていくぞ」

「おー!! 次は俺にやらせろ俺にー!!」

 ガルが血気盛んなのはいいが、そのまま走って行って落とし穴に落ちたりするのだけはやめていただきたい。

「とりあえずまた何かあるまで先に進むぞ」

 淫魔がいなければただの薄暗いトンネルだ。歩きにくいわけでもないし躓かないように歩いていれば問題はない。

 ……と、ずっと正方形の断面で続いていたトンネルが終わり、開けた空間へと抜けた。地下にしては横幅が広く天井が高い。ゲームならボスキャラが出てきそうなところだ。

 そして、その空間の床は左右一直線に大穴が空いており、真ん中に一本だけ橋が用意されていた。……三角形の。

「三角木馬じゃねえか!」

 これはどこからどう見てもエロマンガやエロゲーでおなじみの三角木馬じゃねえか! 西洋では普通に処刑用の道具として使われていた三角木馬じゃねえか!

 つまりこれはやっぱりエロトラップダンジョン……ひたすらにエロい仕掛けが待っているということだ……。まあエロゲーの世界なんだから当たり前と言えば当たり前か。

 橋の左右は底が見えない。向こう岸までは10mくらいか。飛行スキルでもない限りこの橋を渡るほかないだろう。

「この橋、細くて怖いです……」

 スピカはここを綱渡りのように歩こうとしているのか、別の意味で恐怖に慄いている。この世界の人たちから見ると三角木馬ははじめましてらしい(いや現実世界でも変態以外は知らないか)。

「ここを通らないとここから先に行けないからな。……誰から行く?」

 俺も正直自信がないので半ば押し付ける形でみんなの顔を伺う。と、案外すんなりと歩み出た者が一人いた。

「アン? これを渡りゃいいんだろ? 俺が行くよ」

 そう名乗りを上げたのはガル。まあ確かに、身のこなしが鋭いガルならば三角木馬も造作ないかもしれない。

 ガルはその場で四つん這いになると、そのまま三角木馬へ進んでいった。……別にまたがるわけでもなくそのまま。

 あ、そうか……別に律儀にまたがなくてもいいんだもんなこれ……。ガルは両手両足の指で器用に三角の頂点を掴み、そのまんま渡りきった。ガルにとってはただの親切な橋だったようだ。

「さ、さてと。次は誰が行……」

 と次の挑戦者を募ろうとしている最中に、バプラスがフラフラと橋の方に歩き出した。これまた意外だ。一番最後までにやにやして見ていそうなものだったのに。

 バプラスは直立したまま橋の上に差し掛かると……足に磁石でもついているかのようにそのままスタスタと歩いていった。お前もかよバプラス! 三角木馬くんが尊厳破壊されて涙目だよ!

 五人中二人がノーダメージって、設計者もこんな事態を考えたことはなかっただろう。ゲームクラッシャーも甚だしい。

 ……ただ、残った二人はさすがにそういうわけでもなく、「あんなこと私には無理」と言わんばかりにブルブルと震えている。逆に可哀想まであるな。

「あ、あのなアナ、スピカ。本来あれは座った状態で渡るものであってな……左右に落ちることは考えなくていいんだぞ」

「えっ、あ、そうなんですね!? てっきりこういった橋が普通にあるのかと思って……少しだけ安心しました」

 三角木馬にまたがることになって安心するなんて、現実世界含めても世界で初めてなんじゃなかろうか。それでは、とアナも緊張した様子ではあるが三角木馬橋のもとへと歩み寄った。
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