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平原の遺跡編

夜の馬車で

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 腕を負傷して出血も多量の俺は、起き上がらずに馬車でそのまんま横になっていた。外から聞こえてくるアナたちの話し声を聞きながら、薄暗い幌を見つめ続ける。

 なんかさ、風邪ひいたときとかって逆に寝れなくなるだろ。あんな感じになって今絶賛目がギンギンなんだ。ものすごく暇だ。

 恐らく食事も終わったのかアナの声も聞こえなくなり、焚き火の明かりも消えた。草原は虫の声もなく、真っ暗でただひたすらに無音。ここまで何もないとさすがに心細くなってくる。

 ……思えばこの世界に来た時からアナとともに行動してるものな。一人になる時間の方が少なかったくらいかもしれない。

 と、その時「ギシッ」っと馬車の踏み台が音を立てた。もうみんな寝てるだろうにわざわざこっちにくるのは誰だ?

「おや? まだ起きていたのかい」

 声でそれがバプラスだということが分かる。何か商品を取りに来たのかもしれない。

「ああ、なんだか寝れなくてな」

「ふゥん」

 バプラスは興味があるんだかないんだか微妙な返事をして仰向けになっている俺の顔や体を上から覗き込む。そういえば応急処置をしてくれたのはバプラスなんだったか。

「ちょうどよかった。バプラスにも礼を言いたかったんだ」

「礼ねェ……したければ勝手にすればいいんじゃないかぃ?」

「この包帯にしても何にしても、バプラスの商品だろ? 聖水に比べれば安いのかもしれないけどさ、それにしてもだ」

 最初出会った時にはただただ冷徹な人間なんだとばかり思っていたが、実際一緒に行動してみたら頼りがいのあるヤツなんだと感じる。行動原理は金儲けなのかもしれないけど。

「ここで死なれると近くの教会に飛ばされちまうからね。近くに町がないここで死んだんじゃどこに飛ばされたか探すのだけで1ヶ月はかかっちまう。私にそんな余裕はないんだよ」

 やっぱり近くの教会に飛ばされる方式なのか。最後に行った教会ではないから万が一の時はリスポーンをうまく活用するのも手なのかもしれないな。死ぬのは怖いけども。

「それにあの身のこなし。あんた、実はめちゃめちゃすごい人なんじゃないか」

 意識が朦朧とした中の記憶だが、淫魔の攻撃を軽々と躱して懐に入り込み薬品をぶちまけていた。正直あんなことをされたら俺は勝てない。用心棒試験がタチバックウルフで助かったと思うくらいだ。

「何度も言っているだろう。私はただの商人だ。それ以上でも以下でもない」

 予想していた通りではあるが、返ってきたのは釣れない答え。あくまでバプラスとしては面倒ごとを避ける意味でもただの商人で通したいのだろう。

「……さてと、私は何も世間話をしに病人のもとへやってきたわけじゃあない」

「ああ、なんか物を取りに来たんだろ。引き止めちゃって悪かったな」

 たまたま俺が寝かされてるだけでここは商品庫代わりの馬車なのだから、さっさと用事を済まして帰りたいことだろう。……と思っていたが、バプラスは棚の方に近寄る素振りを見せない。

「いやぁ? 私の用事はその棚にはないね」

「……? 棚じゃない?」

「用事ってのは君ィ、なんだよね」

 俺に用事? バプラスが?

 そんなことをぐるぐる考えている間に、バプラスは仰向けに寝ている俺に覆いかぶさるように前屈みになる。バプラスの顔が近くにきて、初めて俺はバプラスのフードの中身を拝んだ。

 び……美人だ! まさかの美人だ……!!

「なんだぃ、豆鉄砲でも食らったような顔してサ。そんなに私のカオが物珍しいかね」

 目と表情こそ死んじゃいるが、整った鼻と形のいい輪郭が大人っぽさを演出している。クレオパトラはこんな顔だったんじゃないかと思うような、底抜けの美人。お姉さんみが強すぎる。

「な、なにを……」

「何ってェ……少ぉし私の玩具になってもらうだけサ。なァに、じっとしていればすぐに終わる」

 玩具!? まさか俺の身体でやばい実験でもするつもりか!? 瀕死の状態で生かしといたのもまさかこのためだったんじゃ……!!

「さて、始めるとするかな」

 そう言ってバプラスは長い丈のコートの前を開ける。……その中からはよく熟れた大きい果実が二つ、ぶりんと躊躇なく投げ出された。
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