90 / 128
平原の遺跡編
君たちぃ、強いの?
しおりを挟む
「なんだかとても疲れましたぁ~」
あれからしばらくして三人揃って木陰でぐったりしていた。もちろん長時間身体が興奮状態にあったこともそうなのだが、平原に出てきた瞬間に気温が大幅に上がったことも理由の一つだ。
この先は背の高い木もなく歩き始めれば直射日光に当たり続ける。おまけにこの辺りは淫魔もうろついているのだから心配事は尽きない。
「この森と平原の境界当たりを歩いて行った方がいいんじゃないか」
「でもどっちみちメイランの町は向こう側ですから……どこかで平原を横断しなければなりませんよ」
そうなんだけどいきなり右も左も分からず平原に出ていく勇気は俺にはないなあ……。おまけにスピカという爆弾も抱えているし……。
「勇者様! サソリがいましたよ!!」
「言ってるそばから!! まさかまた淫魔じゃねえだろうな!!」
スピカにいたのは七センチくらいの普通のサソリでそのまま森の中へと逃げていった。まったく、油断も隙もあったもんじゃない。
「ではとりあえずは森に沿って歩きますか?」
「そうしよう」
結局無茶なことをせず安パイを選ぼうとした、その時だった。ふと平原の中に動く物体を見つけた。
「おい、なんだあれ」
「あれは……馬車ですかね」
よくよく見てみると白い幌のついた荷車を馬が引いているようだった。サラサラの砂の砂漠じゃないから馬車もこの上を通れるのか。
「おい、あれはチャンスじゃないか!?」
「そうですね、道を聞くことができるかもしれません」
もちろんそれもあるが、もし行く当てが同じなら荷車に乗せてもらえる可能性すらある。そうすれば直射日光に当たりながら歩くことは回避できるわけだ!
「急ごう」
また毒っぽいきのみを拾ってきたスピカの首根っこを掴んで引きずりながらその馬車を目指した。近づくとその馬車は思いのほか大きい。馬もがっしりした大柄な個体だ。
そしてその馬の後ろで手綱を引いている人物が目に入った。フードを深くかぶっていて顔は見えない。
「すみませーん!」
横から声をかけると馬車はゆっくりと停止する。が、下りてくる気配はない。すかさずアナが前に出て状況を説明した。
「メイランまでの道をお伺いしたいんですけど……できればお礼もさせていただきますから……よろしくお願いします」
アナが丁寧に頭を下げるとさすがに無視するわけにはいかなくなったのかフードを被った人は馬車から飛び降りた。頭から足先まで麻のマントのようなものに身を包んでいて怪しげな感じだ。
そして何より身長がでかい。俺もちゃんと測ってはいないが恐らく180はあるだろうに、それよりも十センチくらいは背が高い。
「君たちぃ、冒険者かぃ?」
「えっと……まあ……」
特徴的なねっとりとした喋り方。分かっていたことではあるけれど女性の声で、女性にしてはやや低い声だ。フードの人は俺たちの身なりを見るに「フッ」と鼻で笑った。
「その格好でポポル平原に入ろうとするなんて自殺行為だね。死ぬ前におうちに帰った方がいいんじゃないのかぃ」
「ええ……」
物理的にも精神的にも上から目線で……なんだか感じが悪い。できれば関わり合いになりたくないタイプだな。
……ただこのままだと俺たちはどうもできないという現実もある。
「例えば、あんたの馬車に乗せてもらうとかそういうことはできないか」
「嫌だね」
即答。ほんっとにこいつ感じ悪いな。
「大体君たちを乗せて私に何の得があるというんだぃ? まさかタダで乗せてくれだなんて言わないよねぇ?」
ねっとりとした声でじわじわと追いつめられる。なんだか入社の時の面接を思い出すぞ……気持ち悪くなってきた。
「で、ですからお礼はしますから……」
「だから何の礼ができるのか聞いてるのさ。君たちは私に何を与えられる? 大抵のものは荷車に乗っているから間に合っているよ」
「それは……」
何か言おうとしたが俺の頭には何も浮かんでこなかった。一応クロス村の淫魔石を倒した「英雄」であるわけだが、それは村の外に出れば何の意味も持たない。
「わ、私たちが用心棒になります! この辺りはまだ淫魔がうろついていますし……お役に立てると思います!」
用心棒か。確かに冒険者という地位を活かすのであればそれが一番いいかもしれない。フードの女は「用心棒ねぇ……」と反芻する。
「君たちぃ、強いの? パーティメンバー足りてないみたいだけど」
「えっと……強い、と思います」
ここでアナも歯切れが悪くなる。クロス村の淫魔石もイルナのお陰であそこまで行けたようなものだし、この三人が強いのかと聞かれるとお世辞にも強いとは言い切れなかった。
フードの女は「ふぅん?」と顎に手を当てる仕草をした。……フードから覗いていた口がにやりと笑ったように見えた。
「じゃぁこの子たちを倒したら考えてあげるよ」
「この子たち……?」
フードの女は馬車の中に入っていくと何かを三つ持ってきた。そしておもむろにその三つの丸い何かを俺たちの方へ投げつけた。
「うわっ!?」
次の瞬間、三つの丸いものは怪しく光り輝くと大きくなっていき……三匹のタチバックウルフへと変化した。
あれからしばらくして三人揃って木陰でぐったりしていた。もちろん長時間身体が興奮状態にあったこともそうなのだが、平原に出てきた瞬間に気温が大幅に上がったことも理由の一つだ。
この先は背の高い木もなく歩き始めれば直射日光に当たり続ける。おまけにこの辺りは淫魔もうろついているのだから心配事は尽きない。
「この森と平原の境界当たりを歩いて行った方がいいんじゃないか」
「でもどっちみちメイランの町は向こう側ですから……どこかで平原を横断しなければなりませんよ」
そうなんだけどいきなり右も左も分からず平原に出ていく勇気は俺にはないなあ……。おまけにスピカという爆弾も抱えているし……。
「勇者様! サソリがいましたよ!!」
「言ってるそばから!! まさかまた淫魔じゃねえだろうな!!」
スピカにいたのは七センチくらいの普通のサソリでそのまま森の中へと逃げていった。まったく、油断も隙もあったもんじゃない。
「ではとりあえずは森に沿って歩きますか?」
「そうしよう」
結局無茶なことをせず安パイを選ぼうとした、その時だった。ふと平原の中に動く物体を見つけた。
「おい、なんだあれ」
「あれは……馬車ですかね」
よくよく見てみると白い幌のついた荷車を馬が引いているようだった。サラサラの砂の砂漠じゃないから馬車もこの上を通れるのか。
「おい、あれはチャンスじゃないか!?」
「そうですね、道を聞くことができるかもしれません」
もちろんそれもあるが、もし行く当てが同じなら荷車に乗せてもらえる可能性すらある。そうすれば直射日光に当たりながら歩くことは回避できるわけだ!
「急ごう」
また毒っぽいきのみを拾ってきたスピカの首根っこを掴んで引きずりながらその馬車を目指した。近づくとその馬車は思いのほか大きい。馬もがっしりした大柄な個体だ。
そしてその馬の後ろで手綱を引いている人物が目に入った。フードを深くかぶっていて顔は見えない。
「すみませーん!」
横から声をかけると馬車はゆっくりと停止する。が、下りてくる気配はない。すかさずアナが前に出て状況を説明した。
「メイランまでの道をお伺いしたいんですけど……できればお礼もさせていただきますから……よろしくお願いします」
アナが丁寧に頭を下げるとさすがに無視するわけにはいかなくなったのかフードを被った人は馬車から飛び降りた。頭から足先まで麻のマントのようなものに身を包んでいて怪しげな感じだ。
そして何より身長がでかい。俺もちゃんと測ってはいないが恐らく180はあるだろうに、それよりも十センチくらいは背が高い。
「君たちぃ、冒険者かぃ?」
「えっと……まあ……」
特徴的なねっとりとした喋り方。分かっていたことではあるけれど女性の声で、女性にしてはやや低い声だ。フードの人は俺たちの身なりを見るに「フッ」と鼻で笑った。
「その格好でポポル平原に入ろうとするなんて自殺行為だね。死ぬ前におうちに帰った方がいいんじゃないのかぃ」
「ええ……」
物理的にも精神的にも上から目線で……なんだか感じが悪い。できれば関わり合いになりたくないタイプだな。
……ただこのままだと俺たちはどうもできないという現実もある。
「例えば、あんたの馬車に乗せてもらうとかそういうことはできないか」
「嫌だね」
即答。ほんっとにこいつ感じ悪いな。
「大体君たちを乗せて私に何の得があるというんだぃ? まさかタダで乗せてくれだなんて言わないよねぇ?」
ねっとりとした声でじわじわと追いつめられる。なんだか入社の時の面接を思い出すぞ……気持ち悪くなってきた。
「で、ですからお礼はしますから……」
「だから何の礼ができるのか聞いてるのさ。君たちは私に何を与えられる? 大抵のものは荷車に乗っているから間に合っているよ」
「それは……」
何か言おうとしたが俺の頭には何も浮かんでこなかった。一応クロス村の淫魔石を倒した「英雄」であるわけだが、それは村の外に出れば何の意味も持たない。
「わ、私たちが用心棒になります! この辺りはまだ淫魔がうろついていますし……お役に立てると思います!」
用心棒か。確かに冒険者という地位を活かすのであればそれが一番いいかもしれない。フードの女は「用心棒ねぇ……」と反芻する。
「君たちぃ、強いの? パーティメンバー足りてないみたいだけど」
「えっと……強い、と思います」
ここでアナも歯切れが悪くなる。クロス村の淫魔石もイルナのお陰であそこまで行けたようなものだし、この三人が強いのかと聞かれるとお世辞にも強いとは言い切れなかった。
フードの女は「ふぅん?」と顎に手を当てる仕草をした。……フードから覗いていた口がにやりと笑ったように見えた。
「じゃぁこの子たちを倒したら考えてあげるよ」
「この子たち……?」
フードの女は馬車の中に入っていくと何かを三つ持ってきた。そしておもむろにその三つの丸い何かを俺たちの方へ投げつけた。
「うわっ!?」
次の瞬間、三つの丸いものは怪しく光り輝くと大きくなっていき……三匹のタチバックウルフへと変化した。
0
お気に入りに追加
677
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる