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平原の遺跡編

別れのあいさつ

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「聞いたよ。勇者らしく冒険に出るんでしょ?」

 スピカを仲間に入れて数日後、ジータがうちに来ていた。

 一応俺はこのクロス村を守った勇者様なので、出立するということはすぐ村中に伝わったみたいだ。ジータだけでなくクララはクッキーを焼いて持ってきてくれたし、シェリーからは薬草を分けてもらった。ソフィとイルナは……逆に何かされたら怖い。

「それにアナと夫婦の契り交わしたとか?」

「ちょっと、ジータちゃんからかわないでよぉ~」

 そう言いながらアナも満更でもない様子。はー、現実世界でもこんなやりとりをしたかったですねぇ。

「これ一応お祝いと、剣とかは今日持ち帰って磨くから貸してね」

「何から何まで悪いな」

「仲間なんだからこのくらい当たり前よ」

 思えばアナを除いて最初の仲間になったのがジータだった。思い付きで仲間にしたけれど、ハンマーのセンスが思いの外よかったり一緒にお茶したりして色々と助けられた。

「それにしても、さすがにちょっと寂しくなるわねー」

「そう悲しむなって。たまにはアナと念話するからさ」

 以前アナから説明されていた「遠くの仲間と喋る」能力、通称念話というらしいが、この際みんなと連絡を取れるようにしよう、ということで昨日アナと練習したばかりだ。村に帰ってくるのはいつになるか分からないが、それで多少の気休めになればいい。

「分かってないなー、四六時中わちゃわちゃしてるのとたまーに喋るのとじゃあ違うからね。そんなこと言ってるとアナに愛想尽かされるよ」

「そ、そんなこと言うなよ」

 まあ女心が分からないということは自覚しているが……せっかく何かの縁でアナと結ばれたんだ、少しは相手の気持ちを考えるように心がけないとな。

「スピカちゃんだっけ。こいつ何考えてるかよく分からないことあるけど、よろしくね」

「あ、え、は、はい!」

 三人の会話を静かに聞いていたスピカはジータに話を振られて元気に返事をした。……俺ってそういう風に思われてたのか。

「さてと、言いたいことは言ったしそろそろ帰るかな。出発当日もまた見送りに来るからね」

「ご丁寧にどうも」

「……あ、一つ忘れてた」

 玄関の戸を開けて帰ろうとしたジータだったが、何かを思い出したようにピタッと止まった。

「ごめんアナ、一瞬だけヒロキ借りていい? 重い荷物の整理、ヒロキがいるうちに手伝ってもらっちゃおうと思って」

「え、ジータに持てないものあんのか? ……いでっ!!」

 こいつひじでわき腹を……。

「乙女なんだから重いもの持てないの。武器なんて重いものばっかりなんだから」

 とはいえお前、あんな巨大なハンマーを勇者の加護入る前から振り回してたじゃねえか……大抵のものはあれより軽いぞ……。

「最後なんだしちゃんと手伝ってあげてくださいね、ヒロキ様」

「アナまで……」

「よし、そうと決まればさっさと片付けようよ」

 そう言うとジータは俺の二の腕を掴んで(痛い)そのまま武器屋まで引きずっていくのだった。

※ ※ ※

「ほら入った入った」

 いつも狭い中で五人くらい集まってお茶していた武器屋の店内。ここももう来ることがないんだと思うと少し感慨深くはある。

「で、その重い荷物とやらは? 倉庫か?」

「こっちこっち」

 カウンター横の扉を開けて奥に行けば倉庫がある。ジータと契りを結んだ場所……あれ? そういやああんときいやに長くヤってた覚えが……。

「そっちじゃなくてこっちだっつの」

「え」

 ジータが入っていったのは倉庫じゃなくて隣接している自宅だった。ゴブリンにやられたときはここにジータを担ぎこんだなそう言えば……。

「てっきり倉庫から品出しするものかと」

「それくらいは一人でどうにでもなるわよ」

 武器がどうにでもなるならほとんどのものがどうにでもなるのでは……?

「この部屋よ」

「ここって……」

 まさにさっき言ってたジータを運び込んだ寝室だ。アンティークなタンスとベッドがある、薄暗い少し手狭な空間。

 ……? 特に大きいものは見当たらない気がするんだが。

「なあ、その重いものってのはどこに……」

「えい」どんっ

「なっ」

 急にジータが俺の肩を突き飛ばしてベッドの上に転ばせた。いやだから痛いって、力強いってお前。

「おま、何して……」

 と俺が文句言うより前にジータが俺を跨いで腰のあたりに乗っかった。

「お前、その恰好……!」

 仰向けの俺の上に乗っかったジータは薄暗い中でにやりと笑う。身に着けていたものはパンツただ一枚だけだった。
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