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クロス村編

神様からの助言

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「殺す殺す殺す!! お前ら全員殺す!!」

 アストロデューテは祭壇の前に仁王立ちして騒ぎ散らしているが、誰も歯牙にもかけていない。神様の扱いほんとひどくて笑う。

「アストロデューテ様、聖水の儀式は神様の重要なお仕事なんですから~」

「私はそんなもの承諾したことないと言っておるのだ!!!」

 シェリーに笑って流されて、アストロデューテはさらに激昂する。まあ激昂しても特に何ができるわけでもないんだが。

 さて、このまままったりしているのも悪くないんだが、実はさっきからアストロデューテに聞きたいことがあった。

「なあみんな、俺はちょっとアストロデューテさんと話がしたいから、ちょっと席を外しといてくれるか?」

「何!? 二人きりになって今度は何をする気だお前!!!」

「違う違う、そーゆーのじゃない」

 まあさっきの今で過剰反応をするのも分かるけど。別にここでアストロデューテをどうにかしてやろうとかいうことではない。

「ヒロキ様がそういうなら……シェリーさんを連れて喫茶店にでも行っておきます」

「教会にも誰かが入れないようにしておきましょうか」

「いや、そこまではしなくていい。ありがとう」

 アナが先頭に立ってシェリーやイルナを引き連れて教会を出て行った。やっぱり世界一使える俺の嫁だ。

「で、だ」

「ななななななな何をする気なんだ!? そっ、それ以上近付くなよ!?!?」

「だから違うっつーの」

 俺が椅子から一切動かずにいるのを見て、アストロデューテはようやく静かになった。

「じゃあなんなのだ、我に用とは」

「単刀直入に言うが、アストロデューテさんは俺のこと知ってるだろ」

 ……だだっ広い教会の中は一瞬静寂に包まれた。正直アホっぽいとはいえ神様と相対していると思うと少し怖い。

「そう思う理由は?」

「さっき儀式の前に『お前なら分かってくれるだろ』って助けを求めにきたよな。この世界の住人は基本的に性的なことに対しての倫理観が狂ってる。だから俺に助けを求めたんじゃないのか?」

 あの言動だけはどうにも心のどこかに引っかかっていたのだ。明らかにあの時、アストロデューテは「誰か」ではなく「俺」に助けを求めていた。

「……まあ隠すことでもないからな。そうだ、我はお前のことを知っている」

 随分長い時間黙っていたが、遂にアストロデューテはそう回答した。アストロデューテは腕を組んで偉そうにしながら俺の周りを歩き回る。

「神は下界の民と不用意に触れ合ってはならない、と言われているからな。我から切り出すわけにはいかんかったのだ」

 まあそりゃあ神様が好き勝手に地上のものを動かしたら世界が大変なことになりそうだ。過干渉しないというのは当たり前だろう。

「で、どこまで知ってる?」

「全部だ」

 少しずつ探ろうと思ったのだが、アストロデューテは涼しい顔で即答した。

「……全部!?」

「当たり前だろう。我はこの世界の神だぞ。全知全能の存在だ」

 そう聞くと突然目の前の幼女が神々しく見えてきた。想像以上にすげえ人(?)なんだな……。

「じゃあ、この世界がどういう世界なのかも、俺がどこから来たのかも、どうしてここに来たのかも知ってるんだな」

「質問が多い。順番に答えてやる」

 なんだか急にすごく偉い人と話してる気分になってきた。いや、偉いというか神様なんだけど。今さら厳かさというか荘厳さみたいなのを感じる。

「まず、お前が知っている通りこの世界はもともとゲームの世界だ。プログラムの中にだけ存在していた架空の世界。一月前まではそうだった」

 ゲームの話まで知っているのか……! 本当に全知全能なんだな……看板に偽り無しだ。

「異変が起こったのは一月前。淫魔どもを統べる存在である淫魔の女帝……淫魔王がこの世界を作り替えてしまった」

「作り替える……?」

「ゲームの世界から『別次元の本物の世界』へとな。我々がいる今この場所だ」

 別次元の本物の世界……ゲームの世界が本当になっちまったってことか……?

「どうしてそんなことができるんだよ。ただのキャラクターだろそいつだって」

「このゲームはどうも売れすぎたらしい。常に世界中にプレイヤーがいて、当然『エロゲー』であるからほぼ全員が性的な気持ちでプレイしているわけだ。するとどうなるか分かるか?」

 どうなるかと言われても、無駄に精子がティッシュ行きになるだけだと思うけども……。答えない俺を見てアストロデューテは続けた。

「実際に性のエネルギーが集まってしまったのだ。それも大量にな」

「なっ……?!」

 むさい男どもの自慰行為のせいで本当に魔力みたいなものが生み出されたってのか!? そんな非科学的な!!

「そしてその強大なエネルギーを手にした淫魔王は自我を持ち、この世界を新しい世界として独立させた。今は向こうの世界ではこのゲームはプレイできなくなっているだろう」

 ……つまりここはゲームの世界観だけどもゲームではない、ということか。なんつーことをしてくれたんだ淫魔王。

「そして、お前をこの世界に連れてきたのもその淫魔王の仕業だろう。外の世界に干渉できる力を持っているのは淫魔王だからな」

「何のために俺を連れてきたんだ?」

「淫魔王の考えまでは分からん。だが何か理由があるんだろう」

 全知全能とはいえ分からないのか……。これは淫魔王に直接話を聞くしかなさそうだ。正直俺は元の世界に戻りたいとかそういうことはないんだが、どうして俺が選ばれたのかくらいは知りたい。

「それからお前が来たことと同時期にもう一つ変化があってな」

「変化?」

「各淫魔石が結界で封じられたのだ。これも淫魔王の仕業ではあろうが……さらに性のエネルギーを集めて何かをしようとしているのかもしれない」

「何か……」

「新しい世界まで創り出せるんだ、このままいけば宇宙や時空をも歪ませてしまうかもしれない。それは我々神々も恐れている」

 そんなに力を持ってるのかよ淫魔王。オ○ニーしてるお前らのせいでこっちは大変なことになってんぞこの野郎。

「その結界は聖水で解くことができる……まあそれを知っているからお前は我のもとへきたのであろう?」

「ああ」

「同様にこの世界に散らばった淫魔石を探し出し、その土地の神から聖水を貰って淫魔石を破壊する。……そうしていけばいずれは淫魔王の力も弱まるはずだ」

「……あ、え? 俺に行けって言ってる? それ」

「当たり前だろう。お前以外にもう勇者がいないのだよ、この世界は」

 や、やっぱりそうなのか。道理で男に一人も会わないはずだ。アナが勇者と昔会ったようなことを言ってたから、恐らくこの世界が独立したタイミングでプレイヤーという概念が消え失せたのだろう。

「世界はお前の手にかかっている」

「え~、困るなそれ~」

 RPGではありがちなセリフだけどリアルにそれを言われると困る以外の何者でもない。

「あれ? でも聖水ならアストロデューテさんから貰ったのがあればいいんじゃないの?」

「残念だったな。聖水には使用期限がある」

「ええ、なんでだよ」

「元々はログインボーナスのアイテムだからな」

 そうだった、この世界は元ゲームだった。確かにログインボーナスのアイテムって一か月くらいで消えるよな。

「じゃあ頼んだぞ」

「うへぇ……」

 こうして勝手に世界の命運を肩に預けられたのだった。納得はいかない。
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