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第5話 後退する二人

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 メーシャたちがエスメラルダ家の屋敷に住み始め、しばらく経った日のことである。

「メーシャ様! メーシャ様ぁ!!」

 メーシャの寝ている部屋に、セオリンが飛び込んできた。
 
「何よセオリン……。まだ朝じゃないわよ?」
「大変です! 毒がそこら中に広がっています!」
「な、なんですって!?」

 セオリンと共に、部屋を出ると……。
 一階部分がほぼ全滅していた。

「くっ……。どうしてこんなことに……」
 
 風呂場の毒は屋敷を徐々に蝕み、やがて屋敷中に溢れ出たのだ。
 こうなると、止めることはできない。
 
「ていっ! えいっ!」

 浄化魔法を唱え、毒を消そうとするが、焼け石に水。
 
「荷物をまとめなさい! 逃げるわよ!」
「は、はい!」

 セオリンは、慌てて持てるだけの物を袋に詰め込んだ。
 
「こっちよ!」
 
 メーシャと共に、二階のバルコニーへ出た。
 非常用の梯子で、なんとか脱出に成功。

「ふぅ……。危なかったわ」

 ホッとしたのも束の間。
 屋敷の外にも毒が広がっており、まるで毒の沼地のような状態になっていた。
 メーシャは明かりの魔法を唱え、遠くまで見渡す。

「嘘でしょ……?」

 街中が毒まみれになっていた。
 今日の夕方までは、こんな状態ではなかったのだ。
 毒は徐々に溜まり、そして溢れる性質を持つ。
 気づいた時には、もう遅いことが多い。

 二人はなんとか、まだ毒の溢れていないエリアへと逃げた。
 
「マズいことになったわね……」
「メーシャ様……。どうしましょう」
「大丈夫よ。これだけ毒が溢れても、この辺りには毒が無い……。つまり、全く汚染されていないエリアなのよ!」
「ほ、本当ですか?」
「えぇ! 間違いないわ!」
 
 それは間違いだった。
 進行度に違いはあれど、この土地はすでに、全ての領域において汚染されている。
 浄化魔法の使い手、数百人態勢で神経をとがらせ、敏感に察知し対処しない限り、あっという間に毒まみれになってしまう。

 だからエスメラルダ家は、移動計画を立てていたのだ。

「とにかく保存食を集めなさい。土を運ぶためのキャリーにそれを乗せて、いつでも移動できるようにするわよ」
「え……?」
「どうしたのよ」
「そんなことより、今すぐこの領地から逃げるべきでは?」
「な~に焦ってるのよ。だからこのエリアは大丈夫なの。浄化魔法を学んだ私が言うんだから、信じなさい?」
「わ、わかりました……」

 すぐ目の前には、毒で満ち溢れた地面。
 この状況で信じることは、難しかった。
 しかし、自分一人で逃げることも、心もとなかったセオリンは、渋々メーシャに従うことにした。
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