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第2話 隣国の伯爵令息 エルク・ディオニス
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明後日どころか、その日にはもうエスメラルダ家の領地から人が消えていた。
元から領民の避難は始まっていたので、そこまでの規模にはならなかったようだ。
移動すること、約二日。
一行が向かったのは隣国である。
「やぁラリッサ。話は聞いたよ。大変だったね」
「えっ? どうしてもう知っているの?」
隣国の伯爵令息、エルク・ディオニスが出迎えてくれた。
肩に乗った鷲を指差し、ラリッサに微笑みかける。
「こいつが教えてくれたのさ」
エルクは動物と対話する魔法を得意としている。
なるほどそういうことか。ラリッサは納得した。
「さて、このだだっ広い草原を、これから豊かな街へ変えていかないとね……」
「だいぶ進んだみたいだね」
「結構前から、君の領地の領民が手伝ってくれたからね」
エスメラルダ家の領地の領民は、早くから、隣国のディオニス伯爵家が有する広大な草原に移動していた。
魔法を駆使して街を作り、そこそこ形にはなり始めている。
「少なくとも、草原で眠る必要はなさそうだね」
「あぁ。今日からはうちの領民も加わって、本格的な街作りを始めていこう」
「ありがとう。エルクがいなかったら、あの土地に嫌々住み続けないといけなかったかも」
「そうかな。どうせわがまま姫様に追い出される運命だったんだろう?」
エルクが茶化すように言ったので、ラリッサはしかめ面をした。
「土地を守ると決まっていたら、もっと抗ったよ」
「わかってるって。ごめんごめん」
ラリッサは怒らせると怖い。エルクは古い付き合いなので、それをよく知っていた。
「王都に行こう。国王様にも挨拶してもらわないと」
エルクがラリッサの手を握った。
「……一人で歩けるから」
「あ、はは……」
ラリッサはぶっきらぼうに言ったが、自分の行いを後悔した。
領地を守っている間は、結婚はやめておこう。
両家で決めたことである。
二人は婚約状態にあった。
そして……。エスメラルダ家は、守り続けた土地を諦め、隣国に移り住んだ。
もうあふれ出る毒や、腐る木々との戦いを続ける必要は無い。
素直になっても……。いいはずなのに。
ラリッサは、どこかぎこちなかった。
「そういうことなら、乗ってくれよ」
エルクが指笛を吹くと、大きな熊が駆け寄ってきた。
「熊で移動するの……?」
「あぁそうだよ。揺れるから、しっかり掴まってね」
「……わかった」
二人は熊の上に乗り、エルクの指示で熊が走り出した。
思っていたよりも揺れる。
ラリッサは、しがみつくように、エルクを抱きしめた。
エルクの背中は、いつのまにかたくましくなっていて……。
「ラリッサ。もっとくっついても良いんだよ?」
「ばか」
「痛っ」
エルクの頭を小突いた後、ラリッサはエルクを抱きしめ直した。
さっきよりも、うんと強く……。
元から領民の避難は始まっていたので、そこまでの規模にはならなかったようだ。
移動すること、約二日。
一行が向かったのは隣国である。
「やぁラリッサ。話は聞いたよ。大変だったね」
「えっ? どうしてもう知っているの?」
隣国の伯爵令息、エルク・ディオニスが出迎えてくれた。
肩に乗った鷲を指差し、ラリッサに微笑みかける。
「こいつが教えてくれたのさ」
エルクは動物と対話する魔法を得意としている。
なるほどそういうことか。ラリッサは納得した。
「さて、このだだっ広い草原を、これから豊かな街へ変えていかないとね……」
「だいぶ進んだみたいだね」
「結構前から、君の領地の領民が手伝ってくれたからね」
エスメラルダ家の領地の領民は、早くから、隣国のディオニス伯爵家が有する広大な草原に移動していた。
魔法を駆使して街を作り、そこそこ形にはなり始めている。
「少なくとも、草原で眠る必要はなさそうだね」
「あぁ。今日からはうちの領民も加わって、本格的な街作りを始めていこう」
「ありがとう。エルクがいなかったら、あの土地に嫌々住み続けないといけなかったかも」
「そうかな。どうせわがまま姫様に追い出される運命だったんだろう?」
エルクが茶化すように言ったので、ラリッサはしかめ面をした。
「土地を守ると決まっていたら、もっと抗ったよ」
「わかってるって。ごめんごめん」
ラリッサは怒らせると怖い。エルクは古い付き合いなので、それをよく知っていた。
「王都に行こう。国王様にも挨拶してもらわないと」
エルクがラリッサの手を握った。
「……一人で歩けるから」
「あ、はは……」
ラリッサはぶっきらぼうに言ったが、自分の行いを後悔した。
領地を守っている間は、結婚はやめておこう。
両家で決めたことである。
二人は婚約状態にあった。
そして……。エスメラルダ家は、守り続けた土地を諦め、隣国に移り住んだ。
もうあふれ出る毒や、腐る木々との戦いを続ける必要は無い。
素直になっても……。いいはずなのに。
ラリッサは、どこかぎこちなかった。
「そういうことなら、乗ってくれよ」
エルクが指笛を吹くと、大きな熊が駆け寄ってきた。
「熊で移動するの……?」
「あぁそうだよ。揺れるから、しっかり掴まってね」
「……わかった」
二人は熊の上に乗り、エルクの指示で熊が走り出した。
思っていたよりも揺れる。
ラリッサは、しがみつくように、エルクを抱きしめた。
エルクの背中は、いつのまにかたくましくなっていて……。
「ラリッサ。もっとくっついても良いんだよ?」
「ばか」
「痛っ」
エルクの頭を小突いた後、ラリッサはエルクを抱きしめ直した。
さっきよりも、うんと強く……。
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