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シント・レーオルグ

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最初から、こうすればよかった。

私は、透明になる魔法を使い、バッテンガルムの王宮へ忍び込んでいた。
……配達員や、清掃員に変装する必要なんて、なかったのだ。

この魔法を使っている間は、ドアなどもすり抜けることができる。

今日は……。
この王宮のメイド長、シント・レーオルグに、制裁を加える。

ユーラは、王太子の婚約者として、学園だけでなく、王宮にいる間も、様々な修行をさせられていたらしい。

シントには、教育と言い張って、理不尽な暴力を、何度も振るわれたのだとか。

どこにいるのかしら……。

透明な状態で、王宮を見て回るが、どこにも姿が見当たらない。

しばらく探索していると、地下へと続く階段を見つけた。

……そう言えば、ユーラのメモには、地下の拷問場で、酷く痛めつけられたということも、書いてあったような。

地下に入ると……。
なんとなく、カビ臭い、こもった匂いがする。
それに……。これは、人の血の匂い?

「いやあああ!!!!」
「黙れ! 歯を食いしばるんだ!!!」

声のする方に向かうと……。
背の高い、肉付きの良い女が、細身の女の子を、鞭で叩いていた。

「おやめください……。シント様」
「うるさい! どうして言っていることができないんだ!」

バチン!
大きな音を立てて、また細身の女の子が叩かれた。

……こんな指導、メイドであり得るわけがない。
メイド長とは名ばかりで、彼女は女騎士ではなかろうか。
私は、魔法でシントの動きを止めた。

「なっ……」
「え……?」

細身の女の子は、戸惑っていたが、やがて逃げ出した。

「こら! 待て!」

追いかけようと、吠えるシントだったが、体は動かない。

「くそっ……。なんだこれは。何が起きた!」
「こんにちは」

私は透明になる魔法を解除して、シントの前に立った。

「……貴様、何者だ」
「私はローザ……。ユーラの姉よ」
「ユーラ……。あの意気地なしか」

シントが、鼻で笑った。

「何がおかしいの?」
「何度鞭で叩いても……。平気そうな顔をして、睨みつけてきたよ。仕方ないから、火を落としたこともあったかな……。とにかく、言うことを訊かないやつだった」
「……」

……殺意が湧く。
でも、殺してはいけない。

死は、時に魂を救う手段となってしまう。
だから私は……。
必ず、相手がもっとも苦しむ方法で、制裁を加える。

後の生活、全てが制裁になるように。

「貴様、早くこの拘束を解除しろ! さもなくば――」
「えいっ」
「っ!?」

私は、シントの右腕をへし折った。

「ぐああああ!!!!」

……これで、少しは静かになるかな。

「き……さまぁ! 絶対殺す! 覚悟しろぉ!」

しまった。余計にうるさくなった。

やっぱり、さっさと終わらせるしかないのか……。
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