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ローザの真の実力

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「私は、修行の一環として、学園に入学することになったのです」
「えぇ。手紙に書いてあったわね」

バッテンガルム学園。
他国からも、優秀な生徒が学びに訪れるという、名の知れた名門だ。

「ですが……。その内容はとても難しく。私がこれまで学んできた、花や茶の知識……。料理や裁縫の知識は、どれも必要とされなかったのです」
「そうなの……」
「はい。それよりも、どうすればこの社会を生き抜くことができるかという、固い話や、戦場に立った時の心構えなど……。真逆のことを、学ぶ場だったのです」

確かに、バッテンガルムは軍国だ。
だけど……。全員が全員、戦士になるわけじゃない。

特に女性に関しては、家を守ることだって、立派な務めになるというのに。

「そもそも、女性が圧倒的に少ない学園でした。入る前は、そのようなことを、聞いた覚えはないのですが……」
「バッテンガルムの教育内容は、あまり公表されていないものね」

もしや、名門というのは、名前だけなのだろうか。

「はい……。私が在籍している間にも、何人かは、退学してしまいました」
「退学……」
「ですが、私は王太子のシャガ―様の婚約者として、学園に入学していましたから……。逃げるわけにはいかなかったのです」
「……逃げるほど、辛いことがあったの?」
「……」

私が尋ねると、またユーラは泣き始めてしまった。

「学習の内容以外にも、辛いことがあったのね」
「そうなんです……」
「教えなさい。何があったの?」
「……いじめを、受けていました」

私は絶句した。

「ちょっと……。え? そんな。王太子の婚約者にいじめなんて。バレたら大変なことになるでしょう?」
「もちろん、すぐにシャガ―様に報告しました。しかし……。それを跳ね返してこそ、私の妻にふさわしい。などと言われてしまいまして……」

……信じられない。
軍国、バッテンガルムの、歪んだ教育。
もっと早く、気が付くべきだった。

「あとからで良いわ……。あなたを虐めた生徒の名前を、紙に書いて、教えてちょうだい」
「……お姉様? まさか」
「そうよ。――私が、復讐してあげる」
「いけません! そのようなことをしては、お姉様の命が狙われてしまいます!」
「ありがとうユーラ。優しい子ね」

私は、ユーラを優しく抱きしめた。

「お願いですお姉様……。そんな無茶はやめてください」
「無茶? ふふっ。ユーラ、あなた、忘れてしまったの?」
「はい?」
「私が……。世界有数の、魔女だということを」

世界有数。

――いいや。それすらも謙遜。

私は数年前、森で、古の魔女の杖を拾い、その力を手に入れた。

今と違い、全人類が争っていた、脅威の時代。

その時代を生き抜いた、魔女の力だ。

……ユーラの前で見せると、怖がらせてしまうと思ったから、真の実力は、隠していたけれど。

「基本的に、私は平和的な考えを持っているわ。その気になれば、世界だって征服できるかもしれない。でも、争いは嫌いなの。この力を使うのは……。自衛に留めておくつもりだった。だけどね? ……大事な妹をコケにされちゃ、黙っていられないのよ」
「お姉様……」
「何の心配もいらないわ。例え、バッテンガルムが報復をしようとも……。私一人で、制圧できるもの」
「……」

ユーラが、心配そうな目で、私を見つめる。
安心させるため、私は優しく微笑みかけた。

「私はユーラの発言を、信じたわ。……次は、ユーラが私を信じる番よ」
「……わかりました」
「ありがとう。それじゃあ……。後で、紙を取りに来るからね」
「はい……」

さて、と……。

妹を、酷い目に遭わせた奴らに、どんな仕返しをしてやろうか。
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