あと一週間で、聖女の夫になることができたのに……。残念でしたね。

冬吹せいら

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「くそっ!」

今日は、私がトレバー様の部屋に行くのではなく、トレバー様の方から、私の部屋に来た。
まだ昼間だ……。いつもの拷問までは、時間がある。

「ど、どうされたのですか……」
「黙れぇ!」
「っぐぁ!」

何の説明も無く、思いっきり頬を殴られた。
確か、今日は兵との訓練をしていたはず。

何か、うまくいかないことでもあったのだろうか。

気が収まらないらしく、そこから無言で、右頬をさらに三発、左を五発、殴られてしまった。

顔は……。自慢だったのに。
トレバー様に殴られ続けたことで、ぶくぶくに膨れ上がってしまっている。
きっと、元に戻ることなんて、ないのだろう。

「痛いです……」
「ありがとうございます。だろ?」
「ありがとうございます……」
「良い子だ……」

トレバー様に、抱きしめられた。

最近の私は、トレバー様に抱きしめられると、安心感が生まれるようになってしまっている。

今、殴られたばかりのはずの男に、優しく抱きしめられて……、身を委ねているのだ。
そして、頭を撫でられると、さらに気持ちは安らいでいく。

さっき殴られたことなんて、頭から抜けてしまうほどに。

「……僕は強い。そうだろう? リアム」
「はい。その通りです」
「だって、お前をこうして、殴りつけて……。完全に服従させられているじゃないか」
「はい」
「そんな僕が……。あの雑魚い兵たちに、負けるわけがないんだ。そうだろう?」
「その通りです」

……そういうことか。

だから、機嫌が悪かったんだ。

私が悪いんだ。

「ごめんなさい……。私のせいです」
「そうだな……。だけど、気にしなくていい。僕は強いから、きっと――。ガナンド王子にも、負けないさ」
「明日、ですもんね」
「そう。明日だ」

トレバー様が、私から離れてしまった。
消え去った温もりとともに、頬の痛みが戻ってくる。

「夜、絶対に部屋に来てくれ。君の鳴き声を聞かないと……。眠れないから」
「もちろんです」
「……ありがとう。リアム」

……明日、ついに私たちは、王宮で裁かれることになる。

聖女として目覚めたルイーザに……。何もかも見透かされて、国外追放されるんだ。

どうして私、こうなっちゃったの?
これも、私が悪いの?

なんで?

考えられない……。もう眠いよ。

だけど、一人で寝たら、殺される。
死ぬのは怖い……。意識を失う瞬間に、恐怖が襲い掛かって来て。
叫びたくても叫べなくて。

「……ごめんなさい」

誰に対して、謝ったのかな。

誰が私を、助けてくれるんだろう。

吐きそうになりながら、私は唇を噛み、眠気と戦い続けた。
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