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人間になった人形

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「君! 大丈夫か!」

体を誰かに揺り動かされている。

視界が真っ暗だ。

さっき、目を直してもらったはずなのに……。

「あぅう……」

えっ……。

今、私は、声を発した?

首のあたりが、震える感触。

もう一度確かめるために、声を出してみた。

「い……」

……間違いない、声が出てる。

徐々に、魔女との会話を思い出してきた。
ということは、今私は、人間の姿に……。

つまり、視界が暗いのは、目を閉じているせいなの?

目の開け方を知らないはずなのに、なぜか自然と……。ゆっくり、瞼と思われるものが、開いていった。

「良かった……。生きていたんだね」

私はどうやら、誰かに抱きかかえられているらしい。

瞼を擦り、目に力を入れる。

背の高い男が、私を心配そうな目で見ていた。

それにしても、体が重たい。動かすことすら億劫だ。

人間の体には、骨の他に、肉だとか、皮だとかがあると聞く。

多分、そのせいだろう。

「君、名前は? どうしてこんなところに?」

名前……。

そんなの、決めてないんだけど……。

「まだ……」
「マダ? マダというんだね?」
「……」

訂正するのも面倒だったので、受け入れることにした。

マダ、か……。

『このボロ人形! 気持ち悪いのよ! あんたの名前はボロ! いいわね!? ボロよ!』

……ボロよりは、マシかもなぁ。

男に抱えられながら、私はどうやら、教会へ向かわされるらしい。

密かに、手や足を動かす練習をしていると、思っていたよりも早く、意図した動作ができるようになってきた。

人形の時から、もし、体を自由に動かせたら……。なんて、妄想していたせいかもしれない。

そして、教会に辿り着くころには、私はもう、自分の足で歩けるようにまでなっていた。

「念のため、今日はここで休んでくれ。明日また様子を見に来るからね」
「うん……」
「よしよし」

男に、頭を撫でられた。

これが……。人の腕の感触。

人形の時は、感覚なんてものはなかったから、新鮮だ。

……むしろ、感覚があったら、大変なことになっていたと思う。

「あなた、名前は?」
「マダ」
「マダ……。不思議な名前ね」

シスターと思われる女性が、にこやかに微笑んだ。

レオ―ラが病気になった時、部屋にシスターが訪れて、祈りを捧げていたことを思い出す。

その後ろの棚で、ボロボロの私には、目をくれることもなかった。

人間となった以上、怪我をすれば心配されるし、街の外で倒れていれば、助けてもらえるということだろう。

改めて、自分が人形ではなくなったことを、実感した。

……つまり、レオ―ラに復讐することができる。
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