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ブレッザ家の令嬢 セレノー
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※1話より前の時系列です。
※令嬢視点
☆ ☆ ☆
ブレッザ家は、かつて、優秀な軍人を何人も世に排出したことで、有名だった。
しかし、戦争が終わり、平和になった今では、もうほとんどその名前の力は残されていない。
だから……。
「がっはっは! まだ貴族の身分でありましたか!」
「……おかげ様で」
私は、精一杯の笑顔を作り、小太りの男に向けた。
隣国の貴族、ジファール家の当主、ガルムサレオ。
百年ほど前から付き合いのある家で、今でもこうして、月に一回は、顔を合わせる会がある。
「いえいえ。しかし、しぶといものですなぁ。……ルーバー様は、相変わらず、必死で働いておられますか?」
「……はい。お父様は、元気でやっております」
「それは何よりだぁ! がっはっは!」
不快な笑い方をする男だ……。
今すぐにでも、切りつけてやりたい気持ちだったが、私は我慢した。
「して、今月分は、これでよろしいかな?」
机の上に、大きな袋が置かれた。
その中には……。様々なお宝が入っている。
王都に持って行けば、そこそこの金にはなるだろう。
「いやぁ。自分で持って行くのも面倒で……。たった半分、換金された額を、あなたにお渡しすることで、諸々の作業を済ませてくれるのであれば……。これほど楽な話はない!」
ジファール家の所有しているお宝を、王都に持って行き、鑑定士に換金してもらう。
そういう仕事を、ブレッザ家が引き受けているのだ。
……ただの雑用でしかないが、半額も分けてもらえるので、これほど大きな収入源は無い。
「軍人の家系であるから……。やはり物を運ぶことには、なれておられるのでしょうな! がっはっは!」
「……はい」
「セレノー様も、軍人の娘らしく、髪を短くまとめ、目はキリっと……。隙あらば、相手の命を奪わんとするその態度! ……実に美しい」
じゅるりと、ガルムサレオが、舌なめずりをした。
本当に気持ち悪い……。
「約束は、覚えておられますな? 貴族であることが、難しくなった場合は……私の家に来ると。それまでは、こうしていくつか仕事を分け与える。そういう話ですぞ?」
「わかっております」
「ならば、よろしいのだ! がっはっは!」
……こんな男の家で働くなんて、絶対に嫌だ。
幸い、今は父上が必死で働いていることと、この私が引き受けている仕事のおかげで、貴族としての振る舞いは、維持できているが……。
正直、限界が近いことも、確かだった。
その時は、逃げれば良い。
何も、こんな男の言いなりになる必要なんてないのだ。
情報の少ない、遅れた国に行けば、まだブレッザ家を、英雄の一家として、扱ってくれる可能性だってある。
誇りを忘れてはいけない。
父上が、いつも私に言うことだ。
※令嬢視点
☆ ☆ ☆
ブレッザ家は、かつて、優秀な軍人を何人も世に排出したことで、有名だった。
しかし、戦争が終わり、平和になった今では、もうほとんどその名前の力は残されていない。
だから……。
「がっはっは! まだ貴族の身分でありましたか!」
「……おかげ様で」
私は、精一杯の笑顔を作り、小太りの男に向けた。
隣国の貴族、ジファール家の当主、ガルムサレオ。
百年ほど前から付き合いのある家で、今でもこうして、月に一回は、顔を合わせる会がある。
「いえいえ。しかし、しぶといものですなぁ。……ルーバー様は、相変わらず、必死で働いておられますか?」
「……はい。お父様は、元気でやっております」
「それは何よりだぁ! がっはっは!」
不快な笑い方をする男だ……。
今すぐにでも、切りつけてやりたい気持ちだったが、私は我慢した。
「して、今月分は、これでよろしいかな?」
机の上に、大きな袋が置かれた。
その中には……。様々なお宝が入っている。
王都に持って行けば、そこそこの金にはなるだろう。
「いやぁ。自分で持って行くのも面倒で……。たった半分、換金された額を、あなたにお渡しすることで、諸々の作業を済ませてくれるのであれば……。これほど楽な話はない!」
ジファール家の所有しているお宝を、王都に持って行き、鑑定士に換金してもらう。
そういう仕事を、ブレッザ家が引き受けているのだ。
……ただの雑用でしかないが、半額も分けてもらえるので、これほど大きな収入源は無い。
「軍人の家系であるから……。やはり物を運ぶことには、なれておられるのでしょうな! がっはっは!」
「……はい」
「セレノー様も、軍人の娘らしく、髪を短くまとめ、目はキリっと……。隙あらば、相手の命を奪わんとするその態度! ……実に美しい」
じゅるりと、ガルムサレオが、舌なめずりをした。
本当に気持ち悪い……。
「約束は、覚えておられますな? 貴族であることが、難しくなった場合は……私の家に来ると。それまでは、こうしていくつか仕事を分け与える。そういう話ですぞ?」
「わかっております」
「ならば、よろしいのだ! がっはっは!」
……こんな男の家で働くなんて、絶対に嫌だ。
幸い、今は父上が必死で働いていることと、この私が引き受けている仕事のおかげで、貴族としての振る舞いは、維持できているが……。
正直、限界が近いことも、確かだった。
その時は、逃げれば良い。
何も、こんな男の言いなりになる必要なんてないのだ。
情報の少ない、遅れた国に行けば、まだブレッザ家を、英雄の一家として、扱ってくれる可能性だってある。
誇りを忘れてはいけない。
父上が、いつも私に言うことだ。
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